祝アカデミー賞『パラサイト』半地下&豪邸2つの家族の共通点から浮かぶ受賞のワケ

「第92回アカデミー賞」では国際長編映画賞、脚本賞、監督賞、作品賞を受賞(写真:REX/アフロ)

アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む4冠に輝いたポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』。韓国を舞台にした映画が、なぜ世界で高い評価を得たのだろうか。作品を読み解くキーワードのひとつは「家族構成」だ。家族の肖像を軸に韓国映画の歴史を辿ると、ポン・ジュノ監督の狙いのヒントが見えてくる。

豪邸vs半地下 非なる家族の共通点

『パラサイト』には、2つの家族が登場する。

豪邸に住むIT企業のパク社長(イ・ソンギュン)一家は、夫が働き妻が専業主婦という、いわゆる家父長制的モデル。対して、ソン・ガンホが父親に扮する半地下ファミリーは、全員失業中で、ちょっと頼りない夫よりも妻のほうがしたたかでパワフル(元ハンマー投げのメダリスト!)という、変化球的な設定だ。

豪邸と半地下を対比させるリアルなセットは『パラサイト』の「重要な脇役」ともいえる (c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
豪邸と半地下を対比させるリアルなセットは『パラサイト』の「重要な脇役」ともいえる (c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

なんの接点もないように見える2つの家族には、実は共通点がある。それは子どもが2人で、男子と女子が1人ずつということ。いわゆる日本でいうところの「標準世帯(夫婦2人と子ども2人の家族。ただし総務省統計局の厳密な定義によると「夫婦と子供2人」に加え「有業者が世帯主1人だけの世帯」)」だ。つまり、パラサイトは似て非なる2つの「標準世帯」を描いた、「ホームドラマ」といえるだろう。

「とーさんはつらいよ」の時代が映す家父長制

韓国映画の歴史を遡ると、「ホームドラマ」が多く描かれるようになったのは、朝鮮戦争が終わり社会がやや落ち着き始めた1960年代のこと。

父親役を演じさせればこの人と言われたのが、俳優キム・スンホだ。彼を主演に据え、『ロマンス・パパ』(1960)、『朴さん』(1960)、『荷馬車』(1961)、『三等課長』(1961)など、家族の肖像を描く作品が続々と作られた。当時の出生率は、なんと6人以上。映画にも子だくさんの大家族が映し出される中、キム・スンホは「ダメな父親」がはまり役だった。

(『ロマンス・パパ』。韓国映像資料院が公式YouTubeチャンネル「韓国古典映画」で本編を英語・韓国語字幕付きで公開している)

例えばコメディ・タッチの『ロマンス・パパ』に登場する父は、保険会社をリストラされたことを家族(子どもは2男3女)に明かせず、時計を売って給料を持ってくるフリをする。『朴さん』(子どもは1男2女)では、オンドルを修理する左官の父が、航空会社に勤める娘の交際に反対したり、息子の海外駐在に反対したりする。いずれも「とーさんはつらいよ」的な物語だ。ただし、「封建主義的な父」というステロタイプとはちょっと異なれど、この時代、家族の真ん中にいるのはいつも父親。映画の中の家族も、父親を中心に嵐を呼び、そして解決へ向かうのだった。

伝統の型にはまらない家族へ

家父長主義を軸にしていたホームドラマに変化が訪れるのは、2000年代以降だ。

象徴的な作品が、イム・サンス監督の『浮気な家族』(2003)。主人公は、30代の弁護士の夫と元舞踊家の専業主婦の妻で、子どもは養子縁組した男の子だ。一見善き家族かと思いきや、夫は若い女性と浮気、妻は高校生と浮気、さらに夫の母、つまりおばあさんも浮気中という……まさにタイトル通り『浮気な家族』。誰かに肩入れするのではなく、ハッピーエンディングの枠に押し込めないこの作品は、家族に縛られる必要がない、新時代の到来を感じさせる。

その上をいく、さらに変化した家族の形を描くのが、キム・テヨン監督の『家族の誕生』(2006)だ。オムニバス形式のストーリーに登場するのは、20歳以上年上の妻と彼女の前夫の前妻の娘(!)を連れて転がり込んできた弟が、突然姿を消してしまい、弟の妻と娘と暮らすことになった女性。もう1人のヒロインは、忌み嫌っていた母が病で亡くなり、彼女が愛人との間に産んだ幼い異父弟を育てることになった女性。血のつながりが薄い家族に育てられた女の子と男の子がやがて成長して出会い――。相関図なしではおそらく理解不能な、フクザツな家族の物語だ。そこには、もはや「父親」の存在はない。

実際にこういったケースが増えているのかはともあれ、新たな家族像が映画に描かれ、観る人に受け入れられるようになったのは、韓国の価値観にじわじわ地殻変動が起きている証といえる。

ポン・ジュノ監督が描く「家族の肖像」

さて、くだんの『パラサイト』。ポン・ジュノ監督の過去作を見た人であれば、これまで描いた家族は、母親不在の『グエムル―漢江の怪物―』(2006)、父親不在の『母なる証明』(2009)など、いわゆる「標準世帯」ではなかったことに気づくだろう。ところが、『パラサイト』では、あえて「標準」ど真ん中にカメラを向けた。よって、どこにでもはびこる平凡で残酷な格差がよりくっきりと浮き彫りに。普遍的でストレートなメッセージが国や世代を超えて届き、広く共感を集めたのだろう。

とはいえ、ラスト(以下、ややネタバレ)では、家父長である父と「家」を継ぐべき立場の息子の物語に帰結し、家族の再起=家門の復活を夢見る姿が映し出される。その意味で『パラサイト』は、至極韓国的な家族に対する感性を投影した作品でもあるといえるかもしれない。

昨年12月の来日会見時。主演のソン・ガンホは「監督に出演を打診され、当然裕福な家庭の社長を演じるのかと思っていたら、まさかの半地下に連れていかれました」と笑顔で語り、場を沸かせた
昨年12月の来日会見時。主演のソン・ガンホは「監督に出演を打診され、当然裕福な家庭の社長を演じるのかと思っていたら、まさかの半地下に連れていかれました」と笑顔で語り、場を沸かせた

<『韓流旋風』(コスミック出版)2020年3月号 連載コラム『ヨクシ! 韓国シネマ』を加筆・転載しました>

■『パラサイト 半地下の家族

2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED