Yahoo!ニュース

「演じる原動力はピエロと同じ」 韓国映画ヒットをけん引する男『毒戦』主演チョ・ジヌン インタビュー

桑畑優香ライター・翻訳家
役作りのために体重を自在に増減するチョ・ジヌン。本作には10kg減量して臨んだ

韓国の骨太ノワール映画が日本に上陸する。

韓国公開時に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『デッドプール2』をはじめとするハリウッド大作を押さえ、初登場1位を記録。観客動員500万人を突破した、映画『毒戦 BELIEVER』。香港ノワール映画の巨匠ジョニー・トーの『ドラッグ・ウォー 毒戦』を『お嬢さん』『親切なクムジャさん』の脚本家チョン・ソギョンが大胆に脚色し、原作の重厚なアクションと世界観をそのままに幾重にも伏線を張り巡らせた極上のサスペンスに仕上がった。

主役を張るのが、チョ・ジヌンだ。映画ファンには『お嬢さん』(16)、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(18)など、ドラマファンなら『ソル薬局の息子たち』(09)『シグナル』(16)などでおなじみの実力派。本作では、誰ひとり本名も顔さえもしらない麻薬王の逮捕に執念を燃やす取締官ウォノ刑事を、時にドライに、時に燃えるように激しく演じている。

“ヒットをけん引する俳優”として熱い注目を浴びる彼にインタビュー。

ズバリ聞いた、演じることの魅力とは?

――イ・ヘヨン監督は、チョ・ジヌンさんをキャスティングした理由として「何かを遂行することにおいて、みじんの疑いもなく、愚直に直進していく力、人間的な姿がチョ・ジヌンさんに合うと思った」と話しています。チョ・ジヌンさんは、本作のオファーを受けたとき、ウォノ刑事役をどのように受け止めましたか。

チョ・ジヌン:『毒戦 BELIEVER』出演のオファーを受けた時、一切迷わなかったんです。脚本を初めて読んだ時、その他の出演者も決まっていない時期だったのですが、これは面白いと即決で出演することを決めました。ウォノという役にとりあえずぶつかってみようと。そういうところがウォノに通ずると思ってもらえたのかもしれません。

――役作りで特に注力した点、あるいは苦労した点を教えてください。

チョ・ジヌン:ウォノという人物に出会って、そして実際に演じてみて、彼は「乾いた薪」のような人だと感じました。

何かを投げられたら一瞬で火がつき、激しく焼け焦げそうなイメージを常に頭に置いて、演じていたと思います。

――ウォノ刑事とチョ・ジヌンさんのシンクロ率は何%ぐらいでしょうか。どんなところが似ていて、どんなところが違うと思いますか。

チョ・ジヌン:100%ではないでしょうか(笑)。演じている間はずっとウォノでした。 特に情熱と執念においては、とても自分と似ていると思います。 ウォノはまっすぐ正しい人。 ただこれにおいては、いまの私がウォノのように正しい人間かといわれると、悩んでしまいますね。

――組織に見捨てられた青年ラクに扮するのは、リュ・ジュンヨルさん。『タクシー運転手 約束は海を越えて』『リトル・フォレスト 春夏秋冬』などで日本でも注目されている気鋭の俳優さんですが、共演はいかがでしたか?

チョ・ジヌン:本作で、リュ・ジュンヨルという素晴らしい俳優と出会うことができて、本当に良かったです。自身の持ち味を良く理解し、エネルギーのコントロールが抜群にうまく、とても賢くて、感性の鋭い俳優だと思います。

チョ・ジヌン(左)とリュ・ジュンヨルの演技派ブロマンスにも注目!
チョ・ジヌン(左)とリュ・ジュンヨルの演技派ブロマンスにも注目!

1976年に釜山で生まれたチョ・ジヌンは、大学で演劇と映画を専攻。舞台での活動を経て、クォン・サンウ主演の『マルチュク青春通り』(04)の端役でスクリーンデビュー。以来、現在までに50本以上の映画に出演してきた。昨年は『毒戦』『工作』『完璧な他人(原題)』などが軒並み観客動員500万人を超え、韓国では先日10月2日に公開された『パーフェクトマン(原題)』に主演。韓国メディアで「ヒットをけん引する俳優」の筆頭として挙げられている。

――大学時代に演劇を始めたそうですが、演じることの魅力とは。

チョ・ジヌン:私はよく俳優という仕事をピエロに例えたりします。 ピエロはもしかすると名誉や地位を得るような職ではないかもしれませんが、彼らの原動力は真心なんです。 人生に対する本気度。真心をもって向き合えば、観客と心を通わせる事ができると思って演技を始めたし、それが役者を継続することができる原動力でもあります。

――ドラマ『シグナル』や映画『工作』、『お嬢さん』など、日本でも人気の作品に数多く出演されています。ハードボイルドな作風のものが多いですが、作品を選ぶ基準、決め手を教えてください。

チョ・ジヌン:特に特定のジャンルを好んで出演しているわけではありません。 作品を選ぶときに最も大切にしているのは「人」です。 共に時間を過ごす同志。 彼らがいてこそ、私がこの場にいる事ができると感じます。 映画は作品に対する理解と情緒が通じる人々が共に作り上げてこそ、シナジーが大きくなります。 作品を作り出す過程が面白そうと思える人と過ごせる事が重要だと思っています。

これまで演じてきたのは、軍人や刑事、検事など。タフな役を多くこなしてきた
これまで演じてきたのは、軍人や刑事、検事など。タフな役を多くこなしてきた

――ハードボイルドな役が多い一方で、スイートなラブシーンは少ないような気がします。どんな演技も難なくこなすチョ・ジヌンさんですが、実は照れ屋(ラブシーンは苦手)だったりしますか?

チョ・ジヌン:恋愛ドラマはぜひ挑戦してみたいジャンルの一つです。 ただ残念ながら、勇気を出して手を挙げる監督がいません(笑)。この間『道化師たち:風聞操作団(原題)』という映画が封切りされたのですが、初登場シーンが、女性を誘惑する場面だったんです。 改めてその場面を見て、恋愛ドラマは200メートル後ろに退いたなと感じました(笑)。

――趣味は野球観戦だと韓国の記事で読みました。野球に惹かれる理由とは? また、他に最近ハマっている、ファンにはちょっと意外な趣味があれば教えてください。

チョ・ジヌン:野球観戦がとにかく好きで、特にそれ以外の趣味はありません(笑)。

――目標とする役者や、チャレンジしてみたいジャンルの作品を教えてください。

チョ・ジヌン:ソル・ギョングさんです。理由を言葉にする事ができないほどに憧れ、偉大な先輩だと尊敬しています。 どんな作品にも挑戦する心で、これからも役者を続けていきたいですね。

『毒戦』では、本作が遺作となったキム・ジュヒョク(左)が、闇マーケットの王役で凄みある演技を見せている
『毒戦』では、本作が遺作となったキム・ジュヒョク(左)が、闇マーケットの王役で凄みある演技を見せている

『毒戦 BELIEVER』10月4日(金)シネマート新宿ほか全国公開

写真クレジットはすべて(c)2018 CINEGURU KIDARIENT & YONG FILM. All Rights Reserved. 

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

桑畑優香の最近の記事