ヒット続く『金子文子と朴烈』主演チェ・ヒソ「先入観ない子ども時代の日本在住経験が演技の礎」

「朴烈と一緒の時の金子文子はすごく賑やかな雰囲気だったと思う」という(著者撮影)

「日本公開は奇跡」と言われた韓国映画が、ロングランを続けている。

大正期の日本に実在した朝鮮人無政府主義者と彼と共闘した日本人女性の闘いと愛を描いた『金子文子と朴烈』だ。当初は10館余りの映画館で上映予定だったはずが、3か月を経て50館以上に広がっている。

その勢いをけん引していると言えるのが、ヒロイン金子文子を演じたチェ・ヒソだ。

なめらかな日本語で、反骨の金子文子を時に強く、時にチャーミングに演じる彼女は、これが初の主演作とは思えない圧倒的な存在感を見せる。

本作を機に一気に脚光を浴びるようになったチェ・ヒソにインタビュー。凛とした素顔からは、映画の金子文子像とも重なる芯の強さとボーダレスな生き方が透けて見える。

――『金子文子と朴烈』が日本で反響を呼ぶことを予想していましたか。

チェ・ヒソ:日本で公開されたこと自体が奇跡のようで、感謝しています。ヒットするとは期待していませんでした。実話をベースにしているのですが、衝撃を受ける方もいらっしゃると思うんです。でも、こんなに多くの方が見てくださって。劇場で10回以上見たとか、セリフを全部覚えたという方もいて、うれしかったです。

――日本と韓国で観客の反応は異なりますか。

チェ・ヒソ:基本的には同じところで感動し、同じ部分が心に残ると感想を聞きました。朴烈と金子文子は、あの時代に国境を超えた恋をし、一緒に権力と闘った。「あの時代にそんな人たちがいたんだ」と、驚く声が多かったです。まさにそこがテーマだと監督も私もスタッフも考えていたので、見てくださった皆さんに伝わったのであれば、本当にありがたいと思っています。

朴烈役はドラマ『シグナル』『秘密の扉』などで人気のイ・ジェフン(C)2017, CINEWORLD & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED
朴烈役はドラマ『シグナル』『秘密の扉』などで人気のイ・ジェフン(C)2017, CINEWORLD & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED

――本作に抜擢されたのは、イ・ジュンイク監督とのご縁がきっかけだったそうですね。

チェ・ヒソ:はい、映画『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』(2015)が最初の出会いです。もともと私は舞台で演劇をしていて、お稽古に行く電車の中でセリフを小さな声で読んでいたんです。それを向かいの席に座っていた『空と風と星の詩人』の脚本家が見ていて、名刺をいただいたんです。

「君はオーディションに行くの?」って。「いいえ、お稽古です。セリフが聞こえていたとは知らず、すみません」って言ったら、「プロフィールやフィルモグラフィを送って」と。プロフィールを送るとき、特技欄に日本語と書いたら、「日本語ができるんだね。映画に出たことある?」と言われて。「映画は本格的に出たことないですが、やってみます」と答えました。そして、イ・ジュンイク監督を紹介していただきました。私の人生の中で、一番映画のような出来事でした。

――『空と風と星の詩人』では、日本人女性クミを演じていました。

チェ・ヒソ:はい。演技のほか、現場では半分美術部のスタッフのような仕事もしていました。劇中に出てくる日本語の監修も担当していたんです。その姿を監督は見て心に留めてくださったようでした。

――そこから次の作品につながったと。

チェ・ヒソ:『空と風と星の詩人』の製作が終わるころ、監督に「金子文子って知ってる?」って聞かれました。「知らないです」と答えました。すると、映画にも登場する朴烈と一緒に撮った写真を見せてくださって。「手記があるから読んでみなさい」と。監督が私に何かを投げてくださったような感じがしたんです。そうしたら、しばらくして、映画化したいから手伝ってほしいと監督から話がありました。

当初は、裏方としてのお声がけでした。日本の新聞記事を取り寄せて翻訳するところからお手伝いしました。そのうちに「金子文子の役をヒソにあげよう」と。

――実在の人物を演じるにあたり、どんな準備をしましたか。

チェ・ヒソ:すごくプレッシャーと責任感がありました。金子文子が残した手記と裁判記録を勉強しました。韓国・慶尚北道に聞慶という小さな市があるんです。朴烈が生まれ育ったところで、朴烈記念館に裁判記録が一つだけ残っていました。それを借りて、一日一ページずつ、時間をかけて読んでいきました。

裁判シーンは「あえて計算なしで臨んだ」と明かす(C)2017, CINEWORLD & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED
裁判シーンは「あえて計算なしで臨んだ」と明かす(C)2017, CINEWORLD & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED

――金子文子の思想に寄り添うために。

チェ・ヒソ:そうですね。アナキズムについては、ロシアの思想家クロポトキンや、ローザ・ルクセンブルクについての本を読んだりもしました。もともと歴史に関心があり、イギリス小説の『ジェーン・エア』や韓国ドラマ『チェオクの剣』も大好きなんです。

――いずれも芯の強い女性が主人公の作品ですね。リサーチを進める中で、金子文子とご自身が重なっていく瞬間があったのでは。

チェ・ヒソ:「自分の意志で動くとき、それが生の肯定である」という最後のセリフがありますが、そのような言葉が手記の中にとても多く見られるんです。私もやりたいことを探すことに主体的なほうなので、その文章を読みながら深く共感しました。

――流暢な日本語で金子文子を演じ、このインタビューも日本語で。小学校の頃に日本に住んでいらっしゃったそうですね。

チェ・ヒソ:はい。小学校2年生から卒業まで5年間、大阪で暮らしました。その時学んだ日本語がまだ残ってるんです。当時、友達と走ったり遊んだりしながらおしゃべりしたことを思い出しました。住んだことがあったからこそ、こんな風に演じられるのだと感謝しています。

――日本に住んだ経験は『金子文子と朴烈』の演技そのものにも生きていますか。

チェ・ヒソ:子どものころの友情は先入観や偏見がなかったし、日韓両方で教育を受けたので、理想的に、理性的に考えられるところがあるかもしれません。日本と韓国は難しい時期だと分かっていますが、今だからこそ公開してよかった。やっぱり、この役で、この映画に参加することができて良かったな、と感じています。

『金子文子と朴烈』

■チェ・ヒソ

1987年生まれ。小学校時代を大阪で、中高時代を米国で過ごした帰国子女。『重量★ガールズ キングコングを持ち上げろ!』(09)で映画デビュー。本作で大鐘賞映画賞の新人女優賞と女優主演賞に輝いた。次回作は、公務員試験に落ちて希望を失った31歳の女性が体を鍛えることに目覚めて変化する『アワ・ボディ』(18)。「主体的に生きる女性役を演じたい」という。