2021年8月31日にWHO(世界保健機関)は新たな変異株「ミュー(Mu, B.1.621)」をVOI(注目すべき変異株: Variant of Interest)に指定しました。

その前日、8月30日には東京医科歯科大学から「新たなデルタ株」について報告がありました。

これらの変異株について、現時点で分かっていることをご紹介します。

VOC(懸念される変異株)とVOI(注目すべき変異株)

WHOが指定するVOCとVOI(情報は2021年9月4日時点でのGISAID、Outbreak Infoに基づく)
WHOが指定するVOCとVOI(情報は2021年9月4日時点でのGISAID、Outbreak Infoに基づく)

変異とは、生物やウイルスの遺伝子情報の変化を指します。

変異が起こると、例えばウイルスが感染しやすくなったり、感染したときの重症度が高くなったり、ワクチンが効きにくくなったり、というウイルスの性質の変化が起こりえます。

WHOはこれまでに、公衆衛生上特に問題となり得る変異株4つをVOC(懸念される変異株)に、同様に感染性や重篤度・ワクチン効果などに影響を与える可能性が示唆される変異株5つをVOI(注目すべき変異株)に指定しています。

2021年9月現在、デルタ型変異株が日本国内では主流となっています。

「ミュー株」の特徴は?

2021年9月4日時点でミュー株が検出されている国(Outbreak Infoより)
2021年9月4日時点でミュー株が検出されている国(Outbreak Infoより)

ミュー株は2021年1月にコロンビアで世界で最初に見つかりました。

現在はコロンビア(39%)、エクアドル(13%)などの南米諸国で主流な変異株の一つとなっています(ただしこの数値はゲノム解析されているウイルスの中での割合であり実際の感染者の割合とは異なることがあります)。

9月4日時点で日本を含む46カ国でミュー株が検出されています。

最もミュー株による新型コロナ患者が報告されているのはアメリカ合衆国であり、これまでに2000人以上からミュー株が検出されていますが、占める割合としては1%未満にとどまっています。

8月30日、日本で初めてミュー株の患者2名が報告されました。この2名は、6月26日にアラブ首長国連邦から入国した40代の女性と7月5日にイギリスから入国した50代の女性で、いずれの患者も無症状だったとのことです。

ミュー株には、合計21の変異があり、スパイクタンパク質に9つのアミノ酸変異があります。

この変異の中には、N501YやE484Kといった、アルファ株やベータ株、ガンマ株などが持つ既知の変異が含まれています。

アメリカにおけるミュー株の分離頻度(2021年1月〜8月, Outbreak Infoより)
アメリカにおけるミュー株の分離頻度(2021年1月〜8月, Outbreak Infoより)

N501Y変異はアルファ株、ベータ株、ガンマ株が持つ変異であり、感染力の増加と関連していると考えられています。

またミュー株はアルファ株が持つP681H変異も持っており、この変異も感染力が増加する可能性が示唆されています。

しかし、現時点ではミュー株が従来の新型コロナウイルスと比べて感染力が強くなっているという知見はありません。

例えばアメリカでは2021年4月頃からミュー株の検出が増加していましたが、7月頃をピークに減少に転じています。

アメリカでは現在、デルタ株が拡大し主流となっていますが、少なくともデルタ株に置き換わって拡大するほど強い感染力ではないように見えます。

重症度についてもまだ十分なデータはありません。

ミュー株が広がっているコロンビアでも、周辺国と比べて特に致死率が高くなっているということはなさそうです。

今後、従来の新型コロナウイルスや他の変異株と比較して、入院リスクが高くなるかどうかといったデータが待たれます。

E484K変異は、ベータ株、デルタ株などの変異株が持つ、ワクチン効果低下や再感染リスク増加と関連していると考えられている変異です。

イタリアで発生した7例のクラスターから検出されたミュー株に対するファイザー社のmRNAワクチン接種者の効果を検証した研究では、従来のウイルスと比べるとわずかに効果が落ちたものの、ワクチン接種者の血清はミュー株を十分に中和したとのことであり、現時点では大きな懸念ではないものの、まだ十分なデータがあるとは言えない状況です。

日本国内で見つかった「新たなデルタ株」とは?

そんな中、日本国内でも従来のデルタ株に新たな変異が加わった変異株が見つかりました。

発見した東京医科歯科大学のプレスリリースによると、2021年8月中旬の新型コロナ患者から検出したデルタ株から、アルファ株の持つ特徴的な変異であるN501Y変異に似た変異である「N501S」という変異を持つ新たなデルタ株が検出されたとのことです。

この患者さんには海外渡航歴がなかったということで、日本国内で感染したものと考えられます。

まだこの変異株は世界で8例しか見つかっていないことから、感染性、重症度、ワクチン効果や再感染リスクに関するデータはなく、今後の知見が待たれます。

少なくとも従来のデルタ株と同様に、感染性の増加、重症度の増加、ワクチン効果の低下という特徴は持つものと予想されます。

「ミュー株」「新たなデルタ株」はどれくらい脅威なのか?

アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株とミュー株、新規デルタ株との比較(2021年9月4日時点での知見に基づき筆者作成)
アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株とミュー株、新規デルタ株との比較(2021年9月4日時点での知見に基づき筆者作成)

以上のように、ミュー株についてはまだ分かっていないことが多く、現時点ではどれくらいの脅威であるのか判断することは難しい状況です。

現在世界中で問題になっているデルタ株よりも感染力が強いという証拠はなく、現時点では日本国内で拡大するリスクは高くないと思われますが、現在ミュー株が広がっているコロンビアやチリでの、今後のさらなる情報が待たれます。

また、日本国内で見つかった新たなデルタ株についても検出例が増加しないか注目されます。

アルファ株やデルタ株のように、新たに出現した変異株が世界における新型コロナの流行状況を大きく変えることがあります。

こうした変異株の国内での拡大を防ぐためにはゲノム解析のサーベイランスによる早期検出と、変異株が検出された患者の隔離徹底・積極的な濃厚接触者調査による拡大防止が重要です。

◎関連記事

新型コロナ 南米で拡大しているラムダ型変異ウイルス現時点で分かっていることは?

新型コロナ デルタ型変異ウイルス感染力、重症化リスク、ワクチンの効果など現時点で分かっていること

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】