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新型コロナ デルタ型変異ウイルス 感染力、重症化リスク、ワクチンの効果など 現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
デルタ型変異ウイルスの広がりやすさ(ECDC、CDCの資料を元に筆者作成)

日本国内でもデルタ型と呼ばれる変異ウイルスが広がってきています。

このデルタ型変異ウイルスの特徴について、感染力、重症化リスク、ワクチンの効果など、現時点で分かっていることをまとめました。

東京都ではデルタ型が主流に

東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都では新規感染者数が急増していますが、その要因の一つとしてデルタ型変異ウイルスの増加が挙げられます。

第4波以降、従来の新型コロナウイルスよりも感染力の強いアルファ型と呼ばれるイギリスから広がった変異ウイルスが主流になっていましたが、現在はアルファ型よりもさらに感染力が強いデルタ型と呼ばれるインドから広がった変異ウイルスが主流になりつつあります。

東京都では7/12〜18の週ではすでに全体の46.3%を占めており、8月1日現在はすでにデルタ型が半分以上を占めていると考えられます。

関西は関東よりも少し遅れてデルタ型が増えてきていましたが、大阪府でも7/22〜28に行われた変異ウイルスのスクリーニング検査で23.6%に達しており、急激に増加していることが窺えます。

このように、日本全国で急速にアルファ型からデルタ型への置き換わりが進んでいます。

世界でもデルタ型変異ウイルスは拡大しており、すでに134カ国で検出されています。

またイギリスではすでに検出される新型コロナウイルスの99%がデルタ型になっており、アメリカでもデルタ型が急速に増加しておりすでに83%を占めています

これまでデルタ型がすでに広がっている国や地域に他の変異ウイルスが拡大した事例はなく、現時点ではデルタ型が最も感染力が強い変異ウイルスと考えられます。

デルタ型の感染力は従来のウイルスより大幅に増している

さまざまな感染症の感染力と重症度(文中に示したCDC報告書より)
さまざまな感染症の感染力と重症度(文中に示したCDC報告書より)

デルタ型変異ウイルスは従来の新型コロナウイルスよりも感染力が43~90%強いと報告されていたアルファ型よりも、さらに64%感染力が強いとされています。

CDCの報告書によると、従来の新型コロナウイルスは1人の感染者から平均1.4〜3.5人くらいに感染していましたが、デルタ型は1人の感染者から平均5〜9人に感染すると算出しています。

これは、MERSやSARSといった同じコロナウイルス感染症、季節性インフルエンザ、エボラ出血熱などよりも感染力が強く、空気感染する水痘(水ぼうそう)と同等と考えられます。

デルタ型の感染力が強い理由として、従来の新型コロナウイルスよりも感染者の体内でのウイルス量が1000倍以上多くなることで、感染者が周囲に撒き散らすウイルスの量が増えるのではないかとする査読前の研究が中国から報告されています。

また、同研究では、デルタ型は従来のウイルスよりも、感染してからウイルスが検出されるまでの期間が約2日間短くなることも感染者の爆発的増加に寄与しているのではないかとしています。

さらに、ウイルスを排出する期間も長くなる可能性が示唆されており、感染者の体内のウイルス量が高くなることに加えて、ウイルスの排出期間が長くなることがデルタ型の感染力の強さの原因なのかもしれません。

デルタ型変異ウイルスに感染すると重症化しやすい

海外からの報告では、デルタ型変異ウイルスはこれまで以上に感染した際に重症化するリスクが高くなると言われており、

従来の新型コロナウイルスと比べて、

カナダ:入院リスク2.2倍、ICU入室リスク3.87倍、死亡リスク2.37倍

シンガポール:酸素投与が必要、ICU入室、死亡のリスクが4.9倍

アルファ型と比べて、

イギリス:入院リスクが2.61倍

スコットランド:入院リスクが2.39倍

と報告されています。

特にワクチンを接種していない人はこれまで以上に警戒しなければなりません。

ワクチン接種しても感染することはあるが、重症化は防げる

ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型変異ウイルスに対する効果(文中のCDC報告書より)
ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型変異ウイルスに対する効果(文中のCDC報告書より)

感染や発症を予防する効果については、デルタ型変異ウイルスが広がっている各国からそれぞれ報告されています。

例えば、ファイザー社のmRNAワクチンのデルタ型に対する効果は、

イギリス/スコットランド:感染予防効果 79%、発症予防効果 88%、入院予防効果96%

カナダ:発症予防効果 87%、入院/死亡の予防効果 100%

イスラエル:感染予防効果 64%、発症予防効果 64%、入院/死亡の予防効果 93%

となっており、これまでのところ、mRNAワクチンなどの新型コロナワクチンは、感染予防効果や発症予防効果が低下する可能性はあるものの、重症化予防効果は保たれていることが示されています。

例えば、アメリカのマサチューセッツ州で発生したクラスター469人のうち、346人 (74%) はワクチン接種を完了していたにもかかわらず新型コロナを発症していた、という事例が報告されました。

このクラスターのうち9割はデルタ型が原因であることが分かっており、デルタ型に感染した人はワクチン接種を完了している人のウイルス量は、接種していない人と大差なく、ワクチン接種をした人もデルタ型に感染した場合周囲に感染を広げる恐れがあると考えられます。

アメリカのCDCは、これまでワクチン接種後はマスクの着用は不要という指針を出していましたが、デルタ型の感染力やワクチン効果の低下を鑑みて先日「ワクチン接種者も屋内ではマスク着用」という推奨に変更しました。

ワクチン接種を完了しても、デルタ型が広がっている今、これまで通りの感染対策を続ける必要があります。

デルタ型変異ウイルスが広がった今、より厳格な感染対策を

スイスチーズモデルで考える新型コロナウイルス予防策(林淑朗医師、徳間貴志氏作成 原案 James T. Reason氏)
スイスチーズモデルで考える新型コロナウイルス予防策(林淑朗医師、徳間貴志氏作成 原案 James T. Reason氏)

デルタ型変異ウイルスに対しても基本的な感染対策は変わりません。

ただし、これまで以上に感染しやすくなると考えられていますので、より厳格な感染対策が求められます。

図はスイスチーズモデルで考える新型コロナウイルス予防策についてですが、手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策を、どれか特定の感染対策だけをするのではなく、組み合わせて実施することが重要です。

また、ワクチンはデルタ型変異ウイルスに対しても有効です。接種できるタイミングがあればぜひ接種をご検討ください。ただし、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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