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侵害のやり得を許さない著作権法改正案について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

”海賊版”賠償額の上乗せを 著作権法改正案、来年提出へ 文化審」、「著作権侵害の賠償額上乗せ 文化審報告素案、法改正へ」というニュースがありました。いずれも「漫画村」等に代表される大規模な著作権侵害において、侵害者のやり得(損害賠償金を払っても儲けが出ている状態)を避けるために、著作権法の損害賠償の算定規定を改正する予定であるというお話です。

上記記事だけだと具体的な内容はよくわかりませんが、文化庁のサイトに載っている元資料の17ページ目から23ページ目に書かれています。

現在の著作権法における損害額の算定規定(114条)は大雑把に言うと以下のようになっています。

 1項:個数×本来なら権利者が得られていた利益(ただし、権利者の販売能力の範囲内)

 2項:侵害者が得ている利益(推定)

 3項:個数×ライセンス料相当額

これを、1項と3項を併せて請求できるようにする(今までは併せて請求できるかどうかはっきりしていなかったのを明確化する)、および、3項のライセンス料金の算定を(侵害がない時のライセンス料ではなく)侵害があったという前提で算定できることを明確化するように改正するという方向性です。既に、特許法(102条)では、令和元年に同様の改正がされていますので、それに合わせるということになります。

この改正自体は特に問題はないと思いますが、上記資料にも書かれているように、現在の114条1項は複製物の譲渡やダウンロード件数を前提としているので、「漫画村」や「ファスト映画」のように閲覧型のサービスには直接適用できない点が今後の課題として残ると思います。また、これも、上記資料にも書かれている話ですが、損害賠償増額に向かうことで、創作活動に萎縮効果が生じないような配慮が必要と考えます。私見ですが「漫画村」のようなコンテンツをそのまんま配信する行為と、たとえば、パロディとして翻案する行為とは、法文上明確に区別すべきではないかと思います。

なお、ファスト映画の場合は、侵害者の利益700万円に対して損害賠償請求が5億円ということで(参考記事)、法改正するまでもなく「やり得」ではないのではと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この裁判は被告がいっさい争わないという特殊事情があったので、より一般的に被告が損害額について争った場合にも適切な損害賠償額を算定できるような改正を行うことは必要でしょう。

ところで、実際の損害額以上の賠償金額を課す制度のことを一般に「懲罰的損害賠償」と言います。米国はこのような制度を採用しており、たとえば、故意で特許権を侵害した場合には、損害額の最大3倍の賠償金が科されることもあります。日本には「懲罰的損害賠償制度」はなく、損害賠償はあくまでも被害者の不利益を補填するものでしかないとされています(最高裁判決あり)。

ファスト映画のケースのように個人に対して数億円の損賠賠償金支払を命じるということは、十分に「懲罰的」であるように思えますが、厳密に言うとそれは「懲罰的損害賠償」ではありません。権利者の損害額が数億円であると認定し、その損害額を払えと言っているのであって、権利者の損害額以上を払えと言っているわけではないからです。変な言い回しになりますが「実質的に懲罰的」、「懲罰的的」とでも呼べばよいのでしょうか?

最後に書いておくと、著作権法に民法の特則として(厳密な意味での)「懲罰的損害賠償制度」的な規定を設けるべきだという議論が行われた時もあったようです。故加戸守行先生(元愛媛県知事として有名かもしれませんが、現行の著作権法の草稿執筆者でもあります)の『著作権法逐条講義』によれば、昭和41年の草案の段階では、著作権侵害に対して「通常受けるべき金銭の額の倍額を相当する額」を請求できるという規定が含まれていたそうです。しかし、当時は権利者側からの強い支持もなく立消えになってしまったそうです。加戸先生は「私にとっては、この法律において一番心残りのところでございまして、いつの日にか法律草案の倍額主義思想が著作権法において実現することを心ひそかに期待しております」と書かれています。その点で言えば、本来の倍額主義ではないですが、今回の改正はそれに近い方向性ではあると思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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