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ナイキがメタバース内の靴販売の商標を日米で出願

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:商願2021-132597公報

ちょっと前の話になりますが、10月末頃から、米NikeがUSPTO(米国特許商標庁)に対して、メタバース内での商品販売のための商標登録出願を行っていたというニュースがありました(参照記事"Nike is quietly preparing for the metaverse"(CNBC))。たとえば、有名なナイキロゴ(出願番号:97096366)、NIKEの文字商標(97095855)、Air Jordanで使用されているマイケル・ジョーダンのシルエットのマーク(97096945)等々の商標が以下の指定商品・役務で出願されています。

009

Downloadable virtual goods, namely, computer programs featuring footwear, clothing, headwear, eyewear, bags, sports bags, backpacks, sports equipment, art, toys and accessories for use online and in online virtual worlds

035

Retail store services featuring virtual goods, namely, footwear, clothing, headwear, eyewear sports bags, backpacks, sports equipment, art, toys and accessories for use online; on-line retail store services featuring virtual merchandise, namely, footwear, clothing, headwear, eyewear, bags, sports bags, backpacks, sports equipment, art, toys and accessories

041

Entertainment services, namely, providing on-line, non-downloadable virtual footwear, clothing, headwear, eyewear, bags, sports bags, backpacks, sports equipment, art, toys and accessories for use in virtual environments

日本ではどうかと思って調べると何と同じ商標群が既に出願され、公開されていました。ナイキマーク(商願2021-132597)、NIKE文字商標(商願2021-132593)、マイケル・ジョーダンのシルエット(商願2021-132596)等です。

指定商品・役務は以下のとおりです。

9

仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの)

35

仮想商品、すなわち、オンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,オンラインによる仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

41

仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の履物・運動用特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品の提供,電子出版物の提供,娯楽の提供

米国と同等の記載に「コンピュータプログラム(記憶されたもの)」といった包括的かつ特許庁の標準に合致した記載が加えられています。なお、米国の商標制度では、実際に使用している商品しか商標登録できないことにより、このような包括的記載はできません(用途を限定せよとの補正指令が来ます)。

「仮想商品」という記載は日本の商標登録出願では実績がないので、審査段階で不明確として拒絶される可能性がありますが、その場合は単に補正で削除すれば問題ありません。9類で言えば、「コンピュータプログラム(記憶されたもの)」という包括的記載が残りますので結果的に仮想商品についてもカバーされます。

物理的な商品(たとえば、25類の靴)しか指定していない商標登録によって、メタバース内での商品販売に効力を及ばせるのは難しいと思いますので、メタバース内での商品販売を想定した商標登録出願を検討中の日本企業の皆様はこのナイキの出願を参考にされると良いのではないかと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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