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ジョージ・ガーシュイン作品の著作権が”復活”(管理再開):クリエイターへの影響は?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:JASRACプレスリリース

#JASRACの中の人と話した結果、正確には著作権の「復活」ではない(もともと権利としては存続していた)ので「管理再開」であるとの指摘を受けました。しかし、実質的には「復活」に近いイメージなので、タイトルはカッコ付けとすることに致しました。なお、著作権法の規定では権利期間満了により消滅していた著作権が後で復活することはありません(ベルヌ条約の縛りです)。

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ジャズ・スタンダードと呼ばれる、ジャズの演奏において頻繁に使用される楽曲群があります。その中でも古い曲(正確に言えば、作曲家が昔に亡くなった曲)は、作曲家の死後50年(または、延長後の70年)を経過しているため、戦時加算を考慮してもパブリックドメイン(著作権保護期間満了)(以下、PD)となっています。

作品がPDになっている有名なジャズ・スタンダード作曲家と言えば、ジェローム・カーン、ビクター・ヤング等がいますが、代表的なのはジョージ・ガーシュインでしょう。ジョージ・ガーシュインは1937年に39歳の若さで亡くなっていますので、かなり以前からPD状態となっていました。

しかし、ジョージ・ガーシュイン作曲の楽曲の一部が兄のアイラ・ガーシュインとの共作であることが新たに認定され、結果としてPD状態が解除になり、著作権使用料の支払義務が発生することになったそうです(参照記事)。

アイラ・ガーシュインは作詞家として知られています。アイラが作詞、ジョージが作曲であれば、詞を使わずにインストで演奏する分にはアイラの著作権は関係ないのですが、今回、曲部分がアイラとジョージの合作(共同著作物)であると認定された楽曲については、メロディだけの使用にもアイラの著作権が効いてくることになりました。そして、共同著作物については最後に亡くなった著作者の死後70年(延長前であれば50年)経過まで著作権が続くところ、アイラは結構長生きで1983年に亡くなっていますので2053年まで著作権が続くことになります。

この件についてのJASRACのプレスリリースでは著作権管理が復活する楽曲のリストが載っていますが、ざっと見た限りBut Not For Me, Embraceable You, I Got Rhythm, Summertime, They Can't Take That Away From Me, Someone To Watch Over Me, S' Wonderful, Nice Work If You Can Get It, Love Is Here To Stay, Love Walked In, The Man I Love等の良く演奏されるスタンダード曲が含まれています。

これらの楽曲については、2022年1月1日からJASRACへの使用料支払い義務が発生します。今まで、ジョージ・ガーシュインの曲がPDであることを前提にCMや動画のBGMとして使用されていたケースもあると思います(I Got Rhythm, S' Wonderfulをよく聴く気がします)が、このような過去の使用も厳密に言えば著作権侵害ではあるものの、どう考えても無過失なので過去に遡って損害賠償請求といったことにはならないと思います。

なお、「JASRACはがめつい」と言う人が出てきそうですが、上記の記事を読むとわかるように、アイラとの合作だから著作権を復活させろとガーシュインの遺族(の代理人であるASCAP)に以前から要求されていたのを、JASRACが証拠がないと突っぱねていたところ、最近になり証拠が提出されたので著作権管理を復活させたという事情のようです。ということで、がめついのは強いて言えばガーシュインの遺族でしょう。

この変更のクリエイターへの影響ですが、YouTubeやFacebook等、JASRACと契約を結んでいるウェブサービス上での個人名義の楽曲使用、および、ライブハウスでの演奏においては、サービス事業者やライブハウスが所定の包括契約料金を支払うことでJASRAC管理曲の権利はすべてクリアーされますので、楽曲使用者自身はこの変更について気にする必要はありません。

クリエイターが気にしなければならないケースとしては、自費出版のCD、DVD、教則本等での使用、個別楽曲許諾での演奏、JASRACと包括契約していないウェブサービス(典型的にはツイッター)での配信等が考えられます。特に、今までガーシュイン作品がPDであることを前提にJASRACへの使用料を支払っていなかった自主製作CDやDVDを来年以降に追加プレスすると支払義務が発生してしまうことになるのでちょっと面倒かもしれません(なお、既にプレスした在庫を2022年1月1日以降に販売する場合には追加料金の支払いは発生しないとのことです)。

また、YouTubeでの配信であってもアップロード主が法人・団体名義の場合、および、個人でも広告宣伝目的の場合には、通常の洋楽の利用と同様にシンクロ権の料金(指し値)を別途支払う必要性が生じると思われます。DVD等でも同様です。ということで、この変更は、ミュージシャンよりも映像制作会社にとっての影響が大きいのではないかと思います。

なお、ツイッターで「ミュージカルはどうなるか?」といった質問が出ていましたが、歌詞込みの利用は、元より作詞者であるアイラ・ガーシュインの著作権が効いていたので、今回の変更による影響は小さいと思われます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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