最近のテレビ番組における事件等により、いっそうのアウェアネスが必要であることを痛感させられた「アイヌ」という言葉ですが、およそ1年前に中国籍の個人の方が「AINU」という商標をスマホケース等を指定商品にして商標登録出願して物議を醸したことがありました。

その時に書いた解説記事では、おそらく登録になるのではないか(拒絶したくても拒絶にできる理由がない)と書いたのですが、その予測ははずれで(すみません)、この出願には2月24日付で4条1項7号(公序良俗違反)に基づく拒絶理由が通知されていました。一般に、この拒絶理由を覆すのは困難なので、このまま拒絶査定となると思われます。

拒絶理由通知書では以下のように書かれています。

「AINU」の文字からなる本願商標を、前述の施策の推進(注:アイヌ施策推進法によるアイヌ文化の振興のこと)との関係が認められない一私人である出願人が、自己の商標として、その指定商品について独占的に使用することは、「アイヌ施策推進法」第1条に規定するアイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現の障害となるおそれがあり、我が国の社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するというのが相当です。

4条1項7号は俗に「伝家の宝刀」とも呼ばれ、拒絶にしないと社会通念上まずいが他に拒絶できる理由がない場合に最後の手段的に発動されるものです。今までにも、歴史上の人物名の第三者による便乗出願はこの条文を理由にして拒絶することが審査基準に記載されていましたが、新しいパターンが加わったことになります。

なお、細かい話ですが、4条1項7号は、後発無効(登録後に無効理由が発生した場合)にも適用され、かつ、除斥期間(一種の時効)もないので、既に登録されている「アイヌ」を含む商標にも無効審判によって無効にされるリスクが生じたことになります(商標登録の無効の判断は個別具体的に行なわれますので絶対に無効になるわけではないですが)。