高校生の原告が匿名ツイートの発信者情報開示請求訴訟に勝訴

出典:いらすとや

つい先日の1月14日、大阪地裁において興味深い判決がありました(判決文)。インターネットプロバイダー会社を被告とする、匿名ツイートの発信者情報開示事件です。原告はなんと高校生とのことです(判決文に明記あり、氏名は当然ながら非公表です)。

プロバイダー責任制限法の規定により発信者情報開示には何らかの権利侵害があることが必要なので、原告は自分の写真(判決文からははっきりしないですがインスタグラムに投稿した写真と思われます)を、ツイッターで匿名投稿者がプロフィール画像として勝手に使用したことに対する著作権侵害を主張していました。

原告は、この裁判に先立ち、2019年に別裁判(東京地裁)でツイッター社に発信者情報開示請求の仮処分を求めており、裁判所はツイッター社にIPアドレスの開示を命じました(この裁判の決定文はウェブでは公開されていないようです)。今回の裁判は、原告がその仮処分で得たIPアドレスに基づいて、今度はプロバイダーを訴えて、匿名投稿者の情報(氏名、住所、メアド)の開示を求めたという流れです。

判決文の内容から判断すると、原告の写真を「身体的特徴を指摘して嘲笑するなど、嫌がらせ目的その他の悪意をうかがわせるニュアンスで使用」したことが契機になっているようです。

この裁判の争点はいくつかあります。第一に、問題の写真の著作物性です。プライバシー保護の点から当然として、写真の現物は公表されていないのですが、判決文の文書から判断するとちょっと気取ってポーズを付けたプロフィール写真という印象です。裁判所は著作物性を認めました。一般に、裁判においては、写真の著作物性はスナップ写真や(少なくとも一部の)物撮り写真に対しても認められていおり、写真が著作物とされないケースは希です。

第二に、ちょっとややこしい論点です。ツイッターの仕組みとしてログイン時のIPアドレスはログを取られているものの各投稿のIPアドレスのログは取られていません。そうすると、ログイン時のIPアドレスが、権利侵害がなされた通信のものであると「法的に」解釈できるか問題になりました。裁判所は、開示対象の発信者情報は「当該権利の侵害情報が発信された際に割り当てられた IPアドレス等から把握される発信者情報に限られず、権利侵害との結び付きがあり、権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報をも含む」としました。

第三に、原告に問題となった写真をインスタグラムだけではなくツイッターでも使用していたようです。これに対して、被告は「第三者の複製、翻案等をある程度認容する意思があった」と主張しましたが、裁判所は一蹴しました。

裁判所は複製権または翻案権の侵害により原告の請求を認める判決を出しました。この判決が確定すると、匿名ツイート投稿者の氏名、住所、メアドが原告側に開示されることになります。原告側はその後どうするのでしょうか?著作権侵害訴訟をしても賠償金額はわずかでしょうからあまり意味がないのではないでしょうか?おそらく名誉毀損に基づく民事訴訟を行なうのではないかと思います(2回裁判を行なって厳重注意だけというのは考えにくいです)。もしそうだとすると、著作権法という創造的表現を守るための法律が、名誉毀損の犯人を見付けるための方便として使われたことになるのでちょっと複雑な気持ちがしないわけではありません。匿名投稿者に誹謗中傷されても被害者が何もできないという事態を避けられたのは喜ばしいと言う他はないですが。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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