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「テスラキーラ」はメキシコではNG:海外商標登録出願の落とし穴

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:WIPO Global Brand Database

「"テスラ・テキーラ"発売…当初考えていたネーミングはメキシコ当局が却下」というニュースがありました。「テスラは当初、"テスラキーラ(Teslaquila)"という名称で申請したが、メキシコのテキーラ規制委員会に阻止された。テキーラとして販売する場合、そのブランドを損ねることを避けるため、テキーラという言葉を変更せずにそのまま使用しなければならない。」ということです。

「テキーラ」は、メキシコにとって重要な原産地表示(フランスにとっての「シャンパン」と同じ)なので、明らかにシャレとわかる名称でも、紛らわしい名前は使用を禁止するということでしょう。

なお、Teslaquilaは米国でも商標登録出願されていますが、メキシコとは別の理由(他社の先登録"Spirits Tesla"との類似)による拒絶理由が通知され、テスラ側が出願を取り下げています。正直たいしておもしろい名前でもない(失礼)ので、メキシコ当局との関係を悪化させてまで無理して米国での登録を行なってもしょうがないと判断したのではないでしょうか?

商標登録出願の審査は各国で独立して行なわれますので、ある国で登録されたのと同じ商標が別の国で登録されるとは限りません。各国特有の文化的背景を理由にして拒絶になることもあるので注意が必要です。

たとえば、ある米国企業がTENNOという商標をマドリッドプロトコル(WIPO(国際知的所有機関)経由で各国の特許庁に出願できる制度)経由で日本に出願していたのですが、「テンノウという読みはEmperor of Japanを連想させるので登録できない」との理由(商標法4条1項7号に規定された公序良俗違反)により拒絶になっています(出願人が「天皇」を意図していたのかどうかは不明です、何かのアクロニムかもしれません)。

また、日本の登録商標では、たまに漢字にデザインが加えられたロゴを使用したものがあります。たとえば、口の部分がハートマークになっているとか、横2本線を1本線に省略したり等です。このような商標を中国で出願すると「青少年の教育上好ましくない」という理由で拒絶になる可能性があります。同様に、中国の簡体字を使用せずに日本の漢字字体を使った文字商標も拒絶になる可能性があります。この種の商標で登録されているものもあるので予測可能性は低いのですが、万一、拒絶になると全区分で拒絶になり、まず挽回は無理なので厳しいものがあります。

ということで、海外へ商標登録出願する場合には、類似先登録がないか、普通名称化していないか等の通常の商標登録出願での事前調査に加えて、その国の文化の観点で公序良俗に違反しないかに注意する必要があります(現実的には、現地の専門家の助言がないと難しいでしょう)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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