個人輸入に関する商標法改正とUSコンバースの扱いについて

出典:いらすとや

「偽ブランド輸入の規制強化へ 個人使用も税関差し止め」というニュースがありました。日経でも同様の記事が出ています。

これまで規制対象外だった個人使用を目的とする輸入でも、商標権侵害があれば税関で没収できるようにする。2021年に商標法と関税法の改正をめざし、経済産業省や財務省が検討を始める。

ということだそうです。「”個人使用目的”と偽って模倣品を輸入する事業者が増えている」ことへの対策です。模倣品の製造・販売業者がブランドにフリーライドして不正な利益を上げることは許容できませんので、この改正自体は好ましいと思います。ただ、商標法を具体的にどう改正するかはちょっとやっかいです。

商標法による商標の定義は、

2条3項 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(略)であつて、次に掲げるものをいう。

一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

(後略)

となっています(注:「使用」には輸入が含まれます)。要するに「業として」(商売として)使用するのでなければ「商標」ではなく、商標権も効いてきません。商標法の目的が協業秩序の維持により産業の発達を目指すことであることから当然です。(ちなみに、特許法、実用新案法、意匠法も同様の建て付けですが、著作権法は「業として」ではない個人の行為(たとえば、YouTubeに映画を勝手にアップロード)にも権利が及びます。)

模倣品の個人輸入を禁止するために、この「業として」の要件をはずすのは、商標法の基本的な建て付けを変えることになるので難しいところがあります(海外諸国の制度との調和も取りにくくなります)。この記事を読んだとき、どのような法改正をするのが適切かちょっと考えてしまいました。

しかし、実は、この問題については、昨年度に弁理士会が問題提起をしており、そこでは、商標の「みなし侵害」(37条)によって模倣品の個人輸入を禁止することが提言されています。「みなし侵害」は直接的な侵害ではないが、信用を害する可能性が高い行為を商標権侵害と同等と扱うということです(たとえば、「偽ブランド品の販売目的所持」などが該当します)。おそらく、今回の改正もその方向で行なわれるのでしょう。

法律的にはこれで良さそうですが、実務上はもう一つのやっかいな問題があります。模倣品や偽ブランド品、すなわち、国内で売っても海外で売っても商標権侵害となるような商品を輸入する行為は、たとえ、「業として」ではなくても禁止する(商品を没収する)のは問題ないと思いますが、海外と国内で商標権者がまったく異なり、商品自体も異なるケースがあります。つまり、海外では正規品だが日本に(業として)輸入すると商標権侵害になってしまうケースです。一番顕著な例はコンバースの靴でしょう。

これについては大昔にブログ記事を書きましたが、CONVERSEの商標は紆余曲折があって日本では伊藤忠が、米国ではナイキが所有しています(両社の商品はまったく別物です)。したがって、現在でも、米国で売っている(現地では正規品の)コンバースの靴を「業として」輸入することはできません

もし、これが個人輸入にまで拡張されることになると、たとえば、アメリカ旅行に行って、現地の靴屋でコンバースとアディダスの靴を自分で使うために購入して持ち帰ろうとしたとすると、税関でアディダスはOKなのにコンバースは没収ということになってしまいます(現在でもUSコンバースが(特に数が多い場合)税関で没収されることはあるようですが、それがより確実になってしまいます)。しょうがないと言えばしょうがないのですが、消費者の立場に立つとなぜ正規品を買って没収されるのかと思う人も出てくるでしょう。また、コンバース以外にも、海外では正規品だが日本では商標権侵害という商品はあるので、制度的な検討は必要ではないかと思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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