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バンクシーの「非公認」展覧会は著作権侵害にならないのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

「テレビ局が仕掛ける2つのバンクシー展、実はどっちも"非公認" 本人からも"フェイク"揶揄されるが...」という記事を読みました。

正体不明のアーティスト、バンクシーの展示会が、本人が公認しないままの状態で、2020年に日本で開く(ママ)計画があることが分かった。民放キー局2局が主催に関わっており、それぞれ別々に開く予定だ。

ということだそうです。本人が公認しない状態で展覧会を開いて著作権侵害にはならないのでしょうか?

所有権と著作権は別の概念です。たとえば、CDを店で適法に購入することで、CDというプラスチックの板の所有権は購入者のものになりますが、そのプラスチックの板に記録された音楽の著作物の著作権が購入者のものになったわけではありませんので、著作権者の許可なく、複製したり、ネットにアップしたりすることはできません。

絵画などの美術の著作物を展示する場合には著作権者による展示権の許諾が必要です。そして、バンクシーの絵の著作権はほぼ確実にバンクシーに帰属しています(バンクシーが著作権買取契約を結ぶことは想定し難いです)。

第二十五条 著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。

しかし、この例外として以下の規定があります。

第四十五条1項 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。

所有者であっても(著作権がまだ切れていない)美術の作品を勝手に複製したりすることは許されませんが、展示会における展示だけはOKということです。展示される絵画が、バンクシーの同意の元に購入または寄付してもらった作品であれば、(かつ、展覧会には出展しません等の特別な契約がない限り)、その所有者さえOKすれば、著作権者であるバンクシーが何と言おうと著作権侵害にはなりません(道義的な話はまた別です)。

この規定がないと現代美術の展覧会を開催するために、画家(またはその遺族)の許諾を取らなければならないということになってしまうので当然の規定と言えます。

なお、45条2項の規定により、美術館ではなくオープンな場所に恒常的に展示する場合はこの例外の対象外なので、著作権者(通常は、画家または彫刻家)による展示権の許諾が必要になります。

2 前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。

また、47条1項の規定により、展覧会のパンフレットやカタログに作品の写真を載せるために複製権の許諾を得る必要はありません。これも、いちいち(所有者ではなく)著作権者に許諾を取る必要があったとしたら展覧会のパンフレットなど作っていられないので当然の規定です。

第四十七条1項 美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者(以下この条において「原作品展示者」という。)は、観覧者のためにこれらの展示する著作物(以下この条及び第四七条の六第二項第一号において「展示著作物」という。)解説若しくは紹介をすることを目的とする小冊子に当該展示著作物を掲載し、又は次項の規定により当該展示著作物を上映し、若しくは当該展示著作物について自動公衆送信(送信可能化を含む。同項及び同号において同じ。)を行うために必要と認められる限度において、当該展示著作物を複製することができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

ところで、著作権法の展示権に関する制限規定はややこしくてなかなか覚えられないですが、常識的にこうなってないと困るだろうと考えてみればわりと頭に入れやすいです。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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