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正露丸のアニサキス症特許の意味について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

「アニサキス症に正露丸 大幸薬品が痛み緩和で特許」というニュースがありました。

正露丸の製造販売元である大幸薬品(大阪府、柴田高社長)は2014年、アニサキスの活動を抑える効果があるとし、正露丸の主成分・木クレオソートの活用に関する特許を取得した。

ということです。2014年の話がなぜ今ニュースになるのかよくわかりませんが、アニサキス問題が最近話題になっているということで古いネタが引っぱりだされたのかもしれません。

当該特許は、第5614801号「消化器アニサキス症用薬剤」(2014年9月19日登録)です。請求項1の内容は、

消化器アニサキス症の予防又は症状改善のための消化器アニサキス症用薬剤であって、少なくともグアヤコール、4-エチルグアヤコール、クレオゾール、オルトクレゾール、パラクレゾールを含む木クレオソートを有効成分として含有する消化器アニサキス症用薬剤。

とシンプルです。

ここで、正露丸は古くから(それこそ日露戦争時代から)ある薬なのに、なぜ特許を取れるかと不思議に思う方もいるかもしれません。これは、一般に「用途特許」と呼ばれる特許です。「ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見い出すことに基づく発明による特許」をいいます。他の例としては、元々は心臓病の薬として特許化され、後にED治療の用途が発見され用途特許化されたバイアグラなどがあります。

正露丸も成分自体は公知ですが、アニサキス症に効果があるということが大幸薬品により新たに発見されたため、用途特許化されたものです。

しかし、上記記事にあるように、正露丸はアニサキス症用としては薬機法の認可がないので、医療では使用できません。特許を取れても他の法律により禁止されていれば実施できないのは、日本で拳銃の機構の特許を取ってもその拳銃を国内で使用できるわけではないことを考えれば明らかです。

また、特許権の効力は「業として」の実施のみであり、個人的・家庭内での実施には及びません。ゆえに、個人が「自己責任」で正露丸をアニサキス用に飲むのは自由であり、大幸薬品がこれに対して権利行使することはできません(大幸薬品以外の正露丸でも同様です)。

ということで、この特許、急に話題になって、株価にも好影響があったようですが、業務用としては薬機法の縛りで実施できない、個人使用としては特許法上の制限により権利行使できないということで、それほど大きな意味があるとは思えません。ただ、この情報が知られたことで個人用に「自己責任」で正露丸を買う人が増えるということにより多少の業績向上は見込めるのかもしれません。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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