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Supercellが米国でグリーを特許権侵害で訴えていた件

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:米国裁判資料(PACER)

「クラッシュ・オブ・クラン」などの人気ゲームを提供するSupercell社を、グリーが日本国内における特許権侵害で差止め仮処分請求などを行なった件については既に書きました

プレスリリースが出ていなかったので気がつきませんでしたが、昨年の9月25日に、Supercell社のフィンランド法人(Supercell Oy)が米国でGREEの関連会社を逆に特許権侵害で訴えていたようです。なお、「著作権侵害」と書いているブログ記事が見られましたが、正確には特許権侵害です。

米国では連邦裁判所での裁判資料はPACERというシステムで検索できるようになっています。また、簡単な情報であれば民間のサービスでも検索可能です。これにより、特許番号は9,106,449号と9,104,520号であることがわかりました。

米国は裁判情報が簡単に入手できて便利です。裁判の公開は憲法に定められた権利なので日本でももう少し何とかしてほしいものです。特に、離婚や遺産等関連の裁判とは異なり、特許に関する裁判は当事者だけではなく業界全体に影響が及ぶので裁判情報に容易にアクセスできる必要性が高いと思います。

さて、注目すべきは、9,106,449号も9,104,520号も元々は中国のソーシャル・ネット大手Tencent社の特許で、2017年9月25日付けでTencent社からSupercell社に譲渡されているという点です。グリー関連会社を訴えるためにわざわざ譲渡してもらったということでしょう。ちなみに、Tencent社はSupercell社の大株主なのでうなずける行動です。

9,106,449号はIMを使ったログイン方法、9,104,520号はアプリのアップグレード方法です。詳細は時間があれば後日解説しますが、ゲームに限定されない範囲が広い特許です。

これらの特許は米国でしか成立していないので、Supercell社は日本では侵害訴訟は起こせません。ただ、日本でのグリーとの交渉において、アメリカでの訴訟を取下げることを条件に加えることはできますので当然そうしているでしょう。

報道には出てこない部分で両社が丁々発止やり合っていることが伺われます。なお、Tencentは時価総額世界トップ5圏内の巨大企業(最近、Facebookの時価総額を上回ったようです)なので今後Supercell社をがっつり後方支援してくれる可能性も十分にあるでしょう。

(補足:Supercell社が先に仕掛けたと誤解する人がいそうなので時系列情報を追加しておくと、2016年9月にグリーがSupercellに侵害の可能性を伝え交渉開始、2017年5月にグリーが仮処分請求ということなので、Supercell社は日本での交渉を有利に進めるための対抗措置として(Tencentの支援の元に)米国で訴訟を提起したという流れです)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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