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グリーがSupercellを訴えた根拠となる特許番号を推理する

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

任天堂がコロプラを訴えたのに引き続き、グリーが特許権侵害でクラッシュ・オブ・クラン(通称「クラクラ」)等のゲームを提供するSupercell社に差止めの仮処分を請求したというニュースがありました。

グリーのプレスリリースには、対象商品が「クラッシュ・ロワイヤル」ならびに「クラッシュ・オブ・クラン」であること、十数件の特許が関係していることまでは書いてあるのですが、任天堂の時と同様に特許番号が載っていないので、また可能な限り推理してみようと思います。

と言いつつ、現時点でグリーを権利者とする特許の件数は669件と結構な数なので、ノーヒントでしらみつぶしにチェックするのはちょっと厳しいものがあります。

「クラクラ」の提供開始日は2012年8月2日ですので、それ以前に出願されたという条件で探すと8件しかヒットしません(グリーが特許出願しまくったのは比較的最近からだということがわかります)、この8件とも今回の件とはあまり関係なさそうです。

一方、Supercell社が「クラクラ」からグリーの訴えに対応してレイアウト・エディター機能を削除したというニュースもありました。自分は「クラクラ」をプレイしたことはなかったですが、レイアウト・エディターとはゲームの舞台となる村等のレイアウトを編集して保存しておくための仕組みのようで、リリース後に追加されたようです。

Googleで日付指定を変えながら何回か検索すると"layout editor"が検索にひっかかり出すのは2014年12月前後ということがわかりました。これで日付を限定して「オブジェクト」「プレイヤー」「配置」「保存」等々いろいろキーワードを試行錯誤で指定して検索してみると第6034878号(「オブジェクト選択方法、プログラムを記憶する記憶媒体及び情報処理装置」)、および、その分割出願である第6145550号が怪しいような気がします(例によって推測なので違うかもしれません)。他の十数件の特許については手がかりなしです。

第6145550号の最初のクレームは以下のようになっています。

【請求項1】

画面上で指定された位置を検出するタッチパネルを備える情報処理装置が実行するオブジェクト処理方法であって、

画面に複数のオブジェクトを表示し、

前記画面上で連続的に指定される複数の位置を前記タッチパネルによって検出し、

前記複数の位置を結ぶ軌跡によって特定される閉領域に表示されている少なくとも1つのオブジェクトを含むオブジェクトグループを作成し、

前記閉領域内において指定された位置をもとに、前記オブジェクトグループが指定されたか、または前記オブジェクトグループに含まれる一つのオブジェクトが指定されたか判別し、

前記オブジェクトグループが指定されたと判別された場合に、前記オブジェクトグループに含まれるオブジェクトに対して実行されるメッセージの送信のアクションを含む第1メニューを表示し、

前記オブジェクトグループに含まれる一つのオブジェクトが指定されたと判別された場合に、前記一つのオブジェクトに対して実行されるメッセージの送信のアクションを含む第2メニューを表示し、

前記第1メニューからメッセージの送信のアクションが選択された場合に、前記オブジェクトグループに含まれる全てのオブジェクトに対応する他の情報処理装置に対してメッセージを送信し、 前記第2メニューからメッセージの送信のアクションが選択された場合に、前記一つのオブジェクトに対応する情報処理装置に対して、メッセージを送信する

オブジェクト処理方法。

長いので簡単に説明すると複数のオブジェクトがグループ化されている時に、タッチ位置等でグループ全体が選ばれたか、グループ内の特定のオブジェクトが選ばれたのかを判定して、それぞれに独自のメニューを表示するというアイデアが基本です(拒絶理由回避のためにいくつか限定が入ってます)。(追記:ツイッターでリプライをくれた人の情報によるとこれっぽい感じがします(ただし、請求項1ではなく削除処理について書いている請求項4の方だと思います))。

画像

第6034878号は記事が長くなるのでクレームの引用は省略しますが、基本的アイデアは複数のオブジェクトグループがあった時にそのマージ処理等をドラッグ操作で行なうことにあります(このUIはありそうでなかったような気もします)。

画像

チェックのために「クラクラ」をダウンロードしてちょっとプレイしてみましたが、肝心のレイアウト・エディターを呼び出すメニューが見つかりません。レベルが足りないのか、もう機能が削除されてしまったのかもしれません。使える環境にある方、是非チェックしてみて本記事にコメントいただければ助かります。

なお、この出願は国際出願(PCT/JP2013/082553)されていますが、権利化されたのは日本だけのようです。また、Supercellはフィンランドの会社でゲームのサーバも国外にある可能性がありますので、日本国の特許権に基づく差止め請求が認められるかという論点もあるかと思います(少なくとも日本国でのアプリ配布による間接侵害を問うことは可能とは思いますが)。

ところで、本件についてツイッターで「#グリーを許すな」ハッシュタグが作られ、グリーに対する批判がツイートされています(消費者向け企業が特許訴訟を行なう場合のリスクのひとつと言えるでしょう)。任天堂がコロプラを訴えた時も「#任天堂を許すな」ハッシュタグが作られたのですが、結局、任天堂の素晴らしさを称賛するツンデレツイート(ゲームがおもしろすぎて仕事にならない等々)が多く見られることになりました。一方、グリーの場合はそういうことはなくほとんどが批判ツイートであるようなのがなかなか興味深いところです。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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