日銀が"ブロックチェーン"の実証実験結果を公表

(写真:つのだよしお/アフロ)

「<日銀>欧州中銀とのブロックチェーン実験結果を公表」というニュースがありました。昨年の12月に発表された共同研究の結果(参照記事)の結果が出たということです。

この共同研究は「日銀ネット」そして「TARGET2」という決済ネットワークをブロックチェーン技術で効率的に実行できるかを検証することが中心となっていたもの(両ネットワークをブロックチェーンで置き換えることを目指したものではありません)で、Project Stellaという名称が付けられています。

なお、ここで言う「ブロックチェーン」とは、ビットコインで使われているような元帳が世界中の数千台のコンピューター上に重複分散され、マイニング業者が膨大な電力を使って取引を検証するという「パブリック・ブロックチェーン」とは異なります。HyperLedger Fabricというミドルウェアを使った「プライベート・ブロックチェーン」です。ノード数は、せいぜい数十台で、日銀または欧州中銀という特定の管理者が管理します。その点では、(データ構造は異なるものの)従来型のデータベース・クラスタに類似しています。日銀と欧州中央銀の共同報告書では、この点を明確化するためにDLT(分散台帳技術)という言葉を一貫して使用しています(その意味では、本記事のタイトルも本来ならDLTとすべきなのですが、意味が通じにくい可能性があるので”ブロックチェーン”とカッコ付きで書いています)。

日銀の正式な広報資料はこちらになります。資料は全文概要が公開されているのですが、結論部分のニュアンスが両者で微妙に異なっています。

「全文」の「おわりに」の末尾では以下のようになってます。

結論として、今次調査では、DLT を資金決済システムに応用する可能性について、前向きに捉えるに値する検証結果が示された。もっとも、今次調査の検証結果は、あくまで実験環境で行われたものであり、本番環境における DLT の実用可能性について評価するものではない点には留意が必要である。

「概要」の結論部分では以下のようになっており、ややネガティブ色が強いです。

結論として、今次調査では、将来に向けて有益な結果が得られた。もっとも、検証結果は、あくまでも実験環境で行われたものであり、本番環境における DLT の実用可能性について評価するものではない点には留意が必要である。また、DLT は技術として十分成熟しておらず、現時点では、日銀ネットや TARGET2 のような大規模なシステムへの応用には適さないと考えられる。

このニュースを引用した記事ではどちらか一方しか引用していないものがあるようなので注意が必要です。

いずれにせよ、テクノロジーとしては適切には動作するが、日銀ネットを初めとする超ミッション・クリティカルなシステムを置き換えられる段階ではないということでしょう。実際に稼働するとなると性能要件や単純な可用性要件だけではなく、バックアップ/リカバリ、運用管理機能等々、様々な厳しい要件が求められますし、新しい基盤で一からアプリケーションを開発するコストとリスクも考慮しなければなりませんし、そもそも、この種のシステムに「枯れてない」テクノロジーを使うのはあまりにリスキーであることから当然と思われます。

メインフレームという「枯れた」テクノロジーで実現されている超ミッション・クリティカルな既存システムが今すぐにでもブロックチェーン(DLT)で置き換えられるような予測が語られることがありますが、仮にそれが起きるとしても相当先の話(5年~10年レンジの話)と思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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