マネーフォーワードがfreeeに勝訴:特許権を侵害するとは具体的にどういうことなのか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

「マネーフォワードがfreeeに勝訴--会計ソフト機能の特許訴訟で」というニュースがありました。

2016年10月にfreeeがマネーフォワードを相手取り、特許侵害で提訴した訴訟について、7月27日に第一審判決が言い渡された。結論として、マネーフォワード側の主張が全面的に認められ、freeeの請求が棄却される形となった。

ということです。特許権の無効云々以前にそもそも侵害が認められませんでした。今後、裁判所のサイトで判決文が公開されたら(そうなることを期待していますが)詳細に触れますが、ここでは、このケースを題材にして特許権を侵害するということは具体的にどういうことなのかを解説しましょう。

特許権の範囲は「特許請求の範囲」の「請求項」(「クレーム」とも呼ばれます)に記載された内容で決まります。明細書の説明に書いてある内容は直接的には関係ありません。そして、クレームに書かれている構成要素(発明特定事項)のすべてが実施されているときに限り、特許権が侵害されているとされます(間接侵害などのケースは別ですが、原則的にはそういうことです)。「オールエレメントルール」とか「権利一体の法則」と呼ばれる考え方です。

今回の訴訟で対象になった特許は第5503795号であることは報道から明らかになっています。どのクレームが対象になったかは判決文を見ないとわかりませんが、一番広い方法クレームである請求項13を例にとって見ましょう(項番付は栗原による)。

【請求項13】

ウェブサーバが提供するクラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理方法であって、

(A)前記ウェブサーバが、ウェブ明細データを取引ごとに識別するステップと、

(B)前記ウェブサーバが、各取引を、前記各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して、特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップと、

(C)前記ウェブサーバが、日付、取引内容、金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成するステップと

を含み、

(D)作成された前記仕訳データは、ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、前記コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示され、

(E)前記仕訳処理画面は、勘定科目を変更するためのメニューを有し、

(F)前記対応テーブルを参照した自動仕訳は、前記各取引の取引内容の記載に対して、複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、前記対応テーブルの参照を行うことを特徴とする会計処理方法。

慣れないと読みにくいですが、基本的考え方は(A)から(F)までの構成要素をすべて実施していなければこのクレーム(特許権)を侵害しないということです。ここで、特に重要なのは(F)と思われます。明細書に記載された例で言うと、「モロゾフ」というキーワードが「JR」より優先するというルールを設定しておくことで、「モロゾフ JR大阪三越伊勢丹店」という取引内容を「旅費交通費」ではなく、「接待費」(「モロゾフ」にて贈答品を購入)に分類するというステップです。このステップを実施していなければ、仮に(A)から(E)までのステップを実施していたとしてもこのクレームに対応する特許権を侵害することにはなりません。

そして、記事から判断する限り、今回のケースでは、マネーフォーワードのソフトは機械学習に基づいて自動仕訳を行なっていることから、(F)に相当するステップも実施していなければ(B)の対応テーブルに相当する要素もないため、freeeの特許権を侵害していないと判断されたようです。

一般論ですが、特許を取得できると権利者は物凄く広い範囲で権利取得できた(今回のケースでいうとあらゆる自動仕訳の仕組みを独占できるようになった)と誤認しがちなのですが、実際には思ったよりも権利範囲が狭かったというのはよくある話です(特にソフトウェア関連特許ではよくあります)。(【追記】一般論で言うと確かにそうなのですが、判決文を読むと今回のケースがそれに該当するとは必ずしも言えないようなので関連記載を撤回します。どうもすみません)

【追記】Techcrunchの記事に独自に入手した判決文へのリンクが載ってますのでご興味ある方はご参照ください。内容的には本記事の(予想に基づく)分析とほぼ同様です。ただ、上記記事でカバーされているマネーフォーワードの記者会見で言われているほど、ひどい訴訟だったとは言えないように思えます。freee側も侵害の論理構成を考えた上で訴えているように見えます。詳細は追って。