「高知東急」芸名使用差止請求事件を覚えていますか

(写真:アフロ)

高知東生による今回の事件については芸能関係専門家の方にお任せするとして、知財関係者としては彼の芸名が「高知東急」だった時の、東急電鉄による不正競争法訴訟を思い出してしまいます。不正競争防止法の考え方について知る良い題材だと思いますので、便乗ぽいですが、ご紹介しておきます。判決文は、こちらに載っています。もう18年前の話なので、若い方は覚えているかどうか以前にご存じないかもしれないですね。

結論は、不正競争への該当性が認められ、「高知東急」という名称の使用が差止められました。被告は控訴せず、現在の高知東生という芸名に改名することとなりました。関連条文は不正競争防止法2条1項1号です。

他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

周知性、類似、混同が主な要件です。周知性についてはほぼ争いがなく、類似と混同については被告側はいくつかの否認・抗弁を行なっていますが、裁判官には一蹴されています。ポイントを要約すると以下のような感じです(<被告の主張>→<裁判所の判断>という書き方にしています)。

「高知東急」の読みは「たかちのぼる」なので東急電鉄の「東急」とは類似しない→「東急」は、「とうきゅう」としか読みようがなく、「のぼる」は被告が独自の読みをあてているにすぎないものであり、また常にふりがなをつけて表記されるわけでないことからすれば、非類似とは言えない

芸名は、個人の芸能活動上の名前であり、商取引という範疇とは異質なものである。原告と被告の間に競業関係はない→不正競争防止法2条1項1号が周知表示の顧客吸引力の希釈化を防止し、周知表示の主体の名声や努力に対するただ乗りを防止する趣旨であることからすれば、混同を生ぜしめる行為というためには両者間に競争関係があることを要しない。なお、東急グループは、文化施設Bunkamuraにおける音楽、演劇、美術、映像などの催しや、広報活動としてのコンサートなど、芸能に関連する催しを広く行っているから、原告又は東急グループと被告との間に競業関係が全く存在しないということはできない

芸能界においてタレントの芸名は、ものまね的、パロディ風のものでも容認されてきたという慣例又は既得権は尊重されてしかるべきである→芸名は、自然人の氏名と異なり、生まれながらに有しているものではないし、その名称は自ら選択して決定することが可能であり、既存の周知の営業表示等を無断で芸名又はその一部に用いて、芸名の周知性を高めようとすることは、周知表示の主体が長期間にわたり多額の費用を投じて不断の努力によって築き上げた周知表示の信用や名声を何らの対価を払うことなく自己のために利用し、周知表示の希釈化をもたらすような行為と評価すべきであり、芸名であるがゆえにそのような違法行為が許容されるとする根拠はないし、それを許容する憤例又は既得権の存在を裏付けるに足りる証拠もない

東急グループを意識して芸名を付けたわけではない(注:「急いで東京にのぼる」という意味があったとされています)→不正競争防止法2条1項1号では不正競争の目的や故意過失などの主観的要件は関係ない

さらに昔には、シャネルズ(ラッツ・アンド・スター)などについても同様の話(裁判にはなっていませんが)もありました。一般に周知商標(商品等表示)の便乗使用は、権利者が黙認しているケースでない限り許容され得ないと思います(著作物におけるパロディとはまた別の話です)。

東急電鉄側としては「東急」の名称は何かと便乗使用されがちなものであるため、ちょっとでも紛らわしいものは黙認できないという考えだったのでしょう。結果論として見てもこの判断は正しかったと言えそうです。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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