出願審査請求が行なわれたことで、日本においてもSTAP細胞特許出願(特願2015-509109)の実体審査が行なわれることになりました。特許庁はどのような審査を行なうことになるのでしょうか?

そもそも特許庁の審査は書面主義であって、審査官が実験を行なうわけではありませんので、出願書類上のつじつまが合っていて、新規性・進歩性等の要件が満足されれば、特許として登録されてしまうことはあり得ます。別の言い方をすれば、仮にこの出願が特許登録されたとしても、それはSTAP細胞があったことが立証されたことを意味するわけではありません。

とは言え、実施可能性がない発明は特許の対象にならないことは特許法に明記されていますので、審査官は出願人に対して実施可能であることを証明する実験結果の提出を求める等の対応を取ることになるのではないかと思います(さすがに書類のつじつまはあっているので登録しますというわけにはいかないでしょう)。STAP細胞の再現にはハーバード大も含めて誰も成功していませんので結局そのような実験結果が提出されることはなく、拒絶査定となるのではないかと思います。なお、他国では審査官がスルーして登録されてしまう可能性もあるでしょう(前にも書きましたが、一昔前のES細胞ねつ造事件(参考Wikipediaエントリー)の当事者であった韓国の黄禹錫(ファン・ウソク)氏のまさに問題となった研究に基づく特許出願は、韓国では拒絶になったものの米国では登録されてしまっています(New York Timesの関連記事)。

ところで、特許法には詐欺行為で特許登録を受けた場合の刑事罰規定があります(非親告罪です)。

第百九十七条 詐欺の行為により特許、特許権の存続期間の延長登録、特許異議の申立てについての決定又は審決を受けた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

逐条解説には、

詐欺の行為、たとえば、審査官を欺いて虚偽の資料を提出し、特許要件を欠く発明について特許を受けた場合などには国家の権威、機能が害されることになるので、刑罰規定を設けることにしたのである。

と書かれています。なお、「特許を受けた場合」が対象になるので、審査請求をしただけ、あるいは、最終的に拒絶になった場合には関係ありません。また、「特許を受けた者」が対象なので小保方氏や理研は関係ありません、関係するとしたらハーバード大(ブリガムアンドウィメンズ病院)です。とは言っても、現実には故意の立証等の問題があるので適用は難しいのではないかと思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

有料ニュースの定期購読

栗原潔のIT特許分析レポートサンプル記事
月額880円(初月無料)
週1回程度
日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

Yahoo! JAPAN 特設ページ