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アップル対サムスンの特許訴訟がいよいよ最高裁での戦いに

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

「米最高裁、サムスンによる上訴を受理--アップルとの知的財産訴訟で」というニュースがありました。これは北カリフォルニア地裁で提訴された第1回目の訴訟です(これに対して、先日アップルが控訴審で敗訴したのは第2回目の訴訟です)。

この第1回目の訴訟では意匠(デザイン特許)と通常の特許の両方が争点になり、サムスンに5億4800万ドルという巨額の賠償金の支払いが命じられましたが、実は、この賠償金のほとんどは意匠権の侵害に関するものでした。そして、この意匠権に関する判断の見直しを求め

てサムスンが最高裁に上訴したのが却下されなかったというのが冒頭のニュースということになります。

では、そもそも、意匠権侵害の賠償金がなぜこれほど巨額になってしまうのでしょうか?

日本と異なり、米国では意匠権を特許権と同じ特許法で扱っていますが、条文の中には意匠にのみ適用されるものもあります。その代表的なもののひとつが損害賠償に関する以下の規定です(翻訳は特許庁サイトより引用、太字は栗原による)。

第 289 条 意匠特許の侵害に対する追加的救済 意匠特許の存続期間中に,特許所有者の許諾を得ないで,(1) 販売するための製造物品に特 許を付与された意匠又はそれと紛らわしい模造を利用した者又は(2) 当該意匠若しくは紛らわしい模造が利用されている製造物品を販売した,若しくは販売のために展示した者は,その利益総額を限度とし,$250 以上の額を特許権者に支払う責任を負うものとし,その回収は,当事者に対する管轄権を有する合衆国地方裁判所において行われる。 本条の如何なる規定も,侵害された特許の所有者が本法の規定に基づいて有する他の救済を 妨げ,減少させ又はそれに異議を申し立てるものではないが,特許所有者は,侵害によって 得られた利益を2度に亘り回収することはできない。

一般に特許侵害訴訟において、損害賠償額を算定する際には寄与率(貢献度)という概念が使用されます。製品の特定部品についての特許権が侵害されている時には、製品全体の金額で損害賠償を算定するのは不合理ですので、特許権侵害による損害は製品全体の利益の何パーセントに相当するというような主張を行なうことになります(いわゆる侵害論)。正直エイヤの要素が大きいのですが、これによって動く金額が大きく変わるので弁護士としては大変なところです。

しかし、上記のとおり、米国では特許法289条の規定により、意匠権の侵害の場合には製品による利益全体が損害賠償額になり得ます。「米国特許法逐条解説」(ヘンリー幸田著)では、この条文の趣旨について以下のように説明しています。

意匠特許においては、物品の外観を権利の対象とするため、模倣の犠牲になりやすく、しかも利益に対する意匠の貢献度が比較的高いことも経験の示すところである。そこで、意匠特許の模倣を抑制するために、侵害者の得た利益を意匠特許権者の利益とみなす特例を設けたのである。

米最高裁で意匠に関する審議が行なわれるのは約120年ぶりであり、米国の意匠制度の根幹にかかわる部分の判断が行なわれることになるので、知財法関係者の間でも注目が高まっているようです。長くなったのでサムスンの主張の内容については次回に書きます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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