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著作権法38条3項の解釈について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

先日のBGMの著作権処理に関する記事について、あるルートで「法律条文の言葉遊びを持ち出しての持論の展開には、呆れました」などという意見が寄せられました。著作権法の初学者で他にも同じような誤解をされている方がいるかもしれないので、この機会に解説しておきます。

「法律条文の言葉遊び」とは38条3項の解釈のことを言っているのだと思います。

38条3項 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

(前回の記事に書いた解釈)

パターン1:放送されている番組を非営利・無料で流している時は許諾不要

パターン2:放送されている番組を通常の家庭用受信装置で流している時は(たとえ営利目的であっても)許諾不要

特に後段(パターン2)の解釈のことを言っているのだと思いますが、これは私の勝手解釈でも言葉遊びでも何でもなく、どの教科書にも載っている立法者の意図どおりの解釈です。

たとえば、中山「著作権法」(第2版)p347では以下のように書かれています。

通常の家庭用受信装置を用いてする場合には、営利・有料であっても公に伝達できるとされている(3項2文)。この規定により、飲食店やホテルのロビー等でテレビやラジオによる放送を客向けに伝達する行為は、通常の家庭用受信装置を用いている限り、営利目的であっても自由になし得ることになる。

作花「詳解著作権法」(第4版)p368では以下のように書かれています。

第38条第3項後段の規定により、通常の家庭用受信装置を用いる場合においては、非営利・無料でなくても、放送・有線放送される著作物を公に伝達することができる(中略)。具体的には、料理飲食店等において、テレビを客に視聴されるような行為が考えられる。

この条文、「同様とする」がどこを指すのかわかりにくいのは確かです。「詳解著作権法」(第4版)p468(上記で中略とした部分)では以下のように書かれています。

前段と後段の書き分けにより、そのように解するのであるが、条文の作りとしては不明瞭なものと言わざるを得ない。このように、知っている人にはわかるという条文は、現行法において散見されるが、立法技術として妥当なものではない。

しかし、仮に「同様とする」が「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる」を指すのだとすると、条文全体は「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。」ということになり、後段をわざわざ書く意味がなくなってしまうことを考えれば、「同様とする」は「公に伝達することができる。」だけを指すと解釈しなければならないことは容易にわかります(参考ページ)。

また、既に書いた通り「通常の家庭用受信装置」がどの範囲までを指すのかは明確な基準がないという問題はあります。参考までに法的な拘束力があるわけではありませんが(また、権利者側の立場での意見ではありますが)一般社団法人日本BGM協会FAQでは、以下のように書かれています。

Q50 FMやAMなどのラジオ放送を受信して店舗や事務所などでBGMとして使用した場合、著作権使用料はかかりますか?

A50 通常の家庭用受信装置を用いる場合は、伝達権の及ぶ範囲外となり、許諾の必要はありません。一方、館内の音響システム等を用いて伝達する場合など、家庭用受信装置に当たらない拡声装置や設備を用いて伝達する場合は、許諾対象となり、使用料が発生します。

FMやAMなどの放送を受信して公に伝達することには、著作権者の公衆送信権と伝達権(公衆送信される著作物を、受信装置を用いて公に伝達する権利)がはたらきますが、著作権法第38条3項の定めにより、通常の家庭用受信装置を用いて伝達する場合は許諾の対象から除外されます。

なお、通常の家庭用受信装置の範囲についての具体的な基準はなく、また、昨今の技術進歩により業務用と家庭用とを区別しづらい現状ではありますが、店舗等に埋め込み式の音響システムや拡声装置を用いるなどして、受信した放送を広範囲、又は大音量で伝達すれば、家庭用受信装置の範囲外と考えられ、その場合は、JASRACと契約し、使用料を支払う必要があります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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