キユーピー商標登録出願のもうひとつの謎について

キユーピー株式会社が「銃砲・銃砲弾・火薬・爆薬・火工品及びその補助器具・戦車」を指定商品として、有名なキューピーのイラストの商標登録出願を行なったことで、キユーピーが武器産業に進出かと、ちょっと話題になりました(twitter上では商標速報botというアカウントで商標公開公報の内容がフィードされていますので、ちょっとおもしろい商標登録出願があるとすぐ話題になります)。

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これに対してtwitter上でキユーピー社公式とされているアカウントが「このような区分の製品にキユーピーのイラストが使われないようにするための守備固めでございます。決してマヨネーズ砲とか、そういうものの視点ではないです(笑)」とコメントして解決かと思われたのですが、この件にはまだ続きがあって、ねとらぼの記事によれば、

キユーピー広報に問い合わせたところ、「キユーピー株式会社(公式)」と称するTwitterアカウント(@kewpie_news)が“同社とは一切関係のない”アカウントであることが判明しました。現在、公式を名乗ることをやめるよう対応中とのことです….商標出願の理由についてあらためて確認したところ、「弊社の意図しないかたちで使われないよう幅広い区分で登録しています」との回答が得られました。

とのことです。ただ、結局、回答としては偽公式も広報も要は防衛目的であって自社使用意図はないということでほぼ同じなので、誰が何のためにキユーピー公式になりすましているのかという謎は残りましたが、一件落着のように思えます。

しかし、知財に携わっている人にとってはもうひとつの謎が残るでしょう。著名商標を登録している企業が、まったく別の商品やサービスに関して、その商標を自分で使用する意図はないものの他人に勝手に使われたくない、勝手に登録されたくないという防護目的を持っている場合には「防護標章」として登録するのが定石だからです。防護目的で(防護標章ではなく)通常の商標登録をすると、3年間以上不使用の状態が続いたときに、第三者に不使用取消審判を請求されて商標権を取り消される可能性がありますが、防護標章の場合は(そもそも使用を前提としていないため)そのようなリスクはありません。

防護標章登録を行なうためには既に著名になった商標登録が必要です。著名とはテレビや新聞で広告を行なう等により認知度が非常に高い状態です。ハードルは高いですが、キユーピーの場合にはこの条件は満足されていると思います。実際、同社は過去にもロゴ商標でいくつかの防護標章登録を行なっています。

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わざわざ不使用取消審判を請求して取り消す人はいないだろう(仮に取り消せたところで、不正競争防止法の問題もありますので、キューピーイラストを勝手に使えるようになるわけではないですし、勝手出願しても「他人の業務と混同のおそれ」という理由で拒絶されるでしょう)という読み、あるいは、他業種への商標権ライセンスの可能性も残しておきたい、あたりが理由なのかもしれません。いずれにせよ、キユーピーが武器産業進出かと心配するのは考えすぎと言えます。

追記:一点書き忘れてました。防護標章の禁止権、及び、後願排除は類似範囲には及びません(同一の標章にしか及びません)。また、元の商標登録とあまりにもジャンル違いで「混同のおそれ」を立証できない場合には防護標章登録できないこともあるようです。ゆえに、防衛目的で通常の商標出願を行なうことが一理あるケースもあり得ます。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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