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コロナ禍の子育て女性就労困難問題を解決せよ!【小安美和×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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Will Lab代表取締役の小安美和さんは、ママワーク研究所理事長の田中彩さんや、スリーアウル代表の蒲生智会さんと3名で、「わたしみらい応援団」をつくり、女性の就職・転職、ステップアップを応援しています。NPO法人キッズドアとわたしみらい応援団が行っている「わたしみらいプロジェクト」では、仕事の探し方から、履歴書・職務経歴書の書き方、面接のコツ、リモート映えするメイク術、お金の話やライフプランの作り方などを、全6回の講座を通して伝え、再就職・転職につなげています。講座終了後には、個別相談会や採用を予定している企業との相談会も実施。寄り添い型の手厚い支援をする中で、小安さんが気づいた社会課題とは何か聞きました。

<ポイント>

・女性はメイクひとつでマインドが変わる

・履歴書が書けないという悩みにどう応える?

・自分の強みがわからない・言語化できない人は多い

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■就労支援プログラムで女性の意識はどう変わるのか?

倉重:就労支援プログラムを6回受けると、参加者の意識も変わってくるのですか?

小安:3回目ぐらいから変わってきたのですけれども、1回目、2回目はアンケートのコメントを見ると後ろ向きなコメントばかりでした。例えば、私は講師として人前に出ているので、メイクをして、いわゆる女優ライトを当てて、Zoomの補正までかけているのですが(笑)。

倉重:大事なことですよね。

小安:2回目のプログラムが終わった後に、あるお母さんから「講師の顔と生活疲れが出ている自分の容姿とに差があり過ぎて、辛くなって、画面をオフにしました」というコメントをいただきました。

倉重:Zoomの動画をオンにできないと。

小安:それにすごく胸を突かれたのです。私自身、今50歳なのですけれども、コロナが始まった頃から更年期症状が出始めたりして、画面をオンにできない気持ちというのは本当によく分かるのです。「人前に出られない。出たくない」という日があることも分かります。それでも、生きていかなければいけないという中で「何ができるかな」と考えた時に、ポーラの及川社長に相談したんです。そうしたら、「メイクは、女性の自己肯定感を高める力がある。」と おっしゃってくださったんです。

倉重:要するに、「メイクひとつでマインドも変わる」と。

小安:そうなのです。そして、正式にご依頼をさせていただき、ポーラのトップメイクアーチストに「メイク講座」をしてくださることになりました。この講座の後、画面オン率が大きくアップし、受講生の顔に笑顔と自信が見られるようになりました。

小安:企業相談会で、前向きで積極的になった受講生の皆さんのようすに、企業の方も驚かれていました。

ところで、困窮家庭のお母さんの中には実は大学、大学院卒の方もいらっしゃいます。大学、大学院を出ても、非正規で働いていた女性が離婚をした時に貧困に陥るという構造的な課題です。この図は、「わたしみらいプロジェクト1期生」の学歴です。 (n=52)

倉重:大卒、大学院卒でも貧困家庭になってしまうと。高学歴を全く生かせていないわけですね。

小安:第一子妊娠・出産の後、非正規で働くという方も多いのです。私は困窮層向けの就労支援をして、「自分ももしかしたらそうだったかもしれない」と思いました。彼女たちが本来持っているポテンシャルを引き出すために、プログラムではまず、自分と向き合い、強みを見つけ、人の前でアピールできる状態となることを第一段階のゴールとしています。自己を肯定し、一歩踏み出して、面接に行っていただくまでを支援できたらと思っています。

倉重:そこまで前向きになれたら。そもそも、あまり先のことなどは考えられなくて、「自分が成長している姿とか、そんなのは想像もできません」という人のマインドを、どういうふうに変えていくのですか。

小安:メイクは1つの事例なのですけれども、プログラムの2回目に「未来を描く」というワークショップにじっくり取り組んでいただきます。目の前のことでいっぱい、いっぱいのお母さんというのは、本当に今日、明日のことしか考えられません。ネガティブモードから抜け出ることができないので、意識を変えるために時間軸を延ばし、中長期で考える視点を提供します。人生は100年あるかもしれないということで、人生100年年表を作るワークも行います。

 これは私が企業で働く女性たちにも提供しているワークショップのプログラムの1つです。10年、20年、30年、40年後の自分、それから、お子さんにどうしてあげたいか、どうなっていてほしいか。お子さんのことばかり考えている方には、「自分はどうしたいのか、どうなっていたいか」ということを考えていただく時間を、しっかりととるのです。「本当はどうしたいか」という内発的動機を引き出して、そこに向けて何をすべきかを考えていただくのです。次に「マネープラン」の考え方をお伝えします。

倉重:現実的なお金の話ですね。

小安:ウェブ上のアプリなどでシミュレーションしてもらうと、今の収入のままいくと、子どもに理想の教育を受けさせてあげられなかったり、大学に行かせてあげられなかったり、「60歳時点での貯蓄が何千万円マイナスです」という結果が出るのです。

 それでショックを受け過ぎて、「もう駄目だ」と思ってしまうお母さんもいるのですけれども、「じゃあ、どうする?」ということを考えるきっかけとしていただいています。お金の基本は「貯めるか、増やす(借りる)か、働くか」の3つしかないのです。

倉重:なるほど。

小安:「借りる」というのは、学資保険もあれば、奨学金もあります。「増やす」には、資産運用も含まれますが、増やすというのはなかなか難しいので、「一番確実なのは働く」ということもお伝えしています。

 今働いていない人は、「じゃあ、一歩踏み出そう」と話します。働いているけれども今のままでは足りない人は、「どうやったら積み上げられるか」「理想とのギャップをどう埋めるか」というワークショップをさせていただきます。そうすると、大体の人が「ステップアップして稼ごう」という気持ちになります。

倉重:現状維持ではなく、一歩踏み出す気持ちにさせるのですね。

小安:これは本当に専業主婦の就労支援の中でも効果が見込めます。60歳時点での貯蓄を見ると、ほとんどの方がステップアップへのスイッチが入るので、内発的動機と経済の両方を組み込んだプログラムにしています。

倉重:理想と現実の差を埋めていくのですね。

■「履歴書が書けない」という悩み

小安:あとは、個別面談をしていくと、履歴書が書けません。

倉重:しばらく専業主婦をしているという方だと、ということですか?

小安:専業主婦をしていた方には、履歴書の書き方から教えます。困窮家庭のシングルマザーの場合は、なぜ書けないかというと、転職回数が多いのです。結婚、妊娠、出産、離婚などによって職を変わらざるを得なくて、それを自分自身で卑下されている方がたくさんいます。

倉重:なるほど。

小安:履歴書講座で質問が殺到したのは、「何社まで職歴を書くのが良いですか」ということです。

倉重:さっきのジョブホッパーみたいな話ですね。

小安:私は人生で7回転職しています。すべてがわたしのキャリアであり、そのことを卑下する必要はないと思っているのですけれども、日本の労働市場においてはやはり新卒一括採用で、定年まで勤め上げるというパターンがモデル化してしまっていたので、モデルから外れることは、自己肯定感の低さの1つになっています。

倉重:なるほど。

小安:でも、一人ひとりに話を聞くと、ジョブホップしている事情があるのです。例えば離婚をして、子どもたちと一緒に別の場所で新生活を始めます。人生のステージが変わることで、転職に紐づく人が多いのです。

あとは、ダブルワークをされているお母さんが結構多くて、「飲食店のバイトも書くのですか」と質問されます。

倉重:何をどこまで書けばいいのかわからないのですね。

小安:質問が多かったのは2つです。1つは「全部書かなければ駄目ですか」、2つ目は「何を書けばいいですか」ということです。これまでの人生経験の中で、さまざまなスキルが身に付いているはずなのですが、「自分は何もできていない」「何もやっていない」という方がたくさんいます。

倉重:結局、「自信がない」ということでしょうか?

小安:ですから、「個別面談は必須だ」と思っています。「わたしみらいプロジェクト」では、今年度200人の個別面談をするというプランにしているのです。集客の壁はありますが、200人を面談するという目標にしています。それはやはり、お一人ひとり、事情が違うからです。

倉重:確かに。

小安:全体ワークショップで「自分で強みを書いてみよう」ということをしますが、大体の方が書けません。

倉重:強みが書けないのですか。でも、「聞いたら出てくる」ということですよね。

小安:そうです。いろいろな経験を引き出して、言語化してあげます。

倉重:本人は認識していないのですか?

小安:認識していない、もしくは言葉にできていません。または、認識していても、日本人の独特の謙虚さが邪魔をして、言葉にしないケースもあります。ひとりでは「何もできない人」にも見える履歴書を書いてしまいがちなのです。

倉重:「そんな、私、全然たいしたことないですから」みたいな。

小安:そうです。でも、聞くとすごい人が本当にいるのです。例えばこんな人がいました。そのプログラムの中で、モデルとして「強みを言ってみてください」と発言いただいた方は、「いや、私は何も書けるものがありません」とおっしゃったのです。聞いていくと、実は学校の先生でした。結婚、出産してから非常勤をしていて、クラスの担任を持ったこともありますと。これはすごいスキルですよね。

倉重:本当ですね。

小安:ですが、彼女は最初に「私は書けるものがない」とおっしゃったのです。

倉重:周りから見ないと気付かないのでしょうね。

小安:自分のキャリアを言葉にできて、さらに、他者から見た時の強みまで言語化するのは相当ハイレベルです。でも、それをしないと採用されません。「自信がない、私なんて」と言っている人には、「あなたが面接官だったら、『自信がない。何もできていません』という人と、『私はこれができます』という人と、どっちを採用しますか」という問い掛けもしながら引き出していきます。

(つづく)

対談協力:小安美和(こやす みわ)

株式会社Will Lab (ウィルラボ)代表取締役

株式会社インフォバーン 社外取締役

株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役

内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員

東京外国語大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年より、リクルートホールディングスにて、「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月同社退社、6月 スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了、2017年3月 株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成に取り組んでいる。2019年8月より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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