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自分の人生に本気で集中する方法【井上一鷹×倉重公太朗】第3回

井上一鷹さんが4月に出版した『深い集中を取り戻せ――集中の超プロがたどり着いた、ハックより瞑想より大事なこと』という本の中には、ある脳神経科学の研究者の話が出てきます。それよると、やらされ仕事に集中できるのは4カ間月だけということです。一方で、能動的に自ら楽しいと思えることのために動けば、脳内物質のドーパミンが出て、物事に意欲的に取り組むことができます。ドーパミンは決められた枠の中だけで考えていると、なかなか出ません。自分の会社や業界に閉じこもるのではなく、外に飛び出していって、夢中になれる要素を探すことが大切なのです。

<ポイント>

・微量な課題はできるだけ解決しておく

・勝手な危機感とエゴと責任感で突き進まなければ、面白い仕事はできない

・できない理由を探すのではなく、できる方法を考える

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■やらされ仕事は4カ月、やりたい仕事は4年以上続く

倉重:集中力を阻害するという意味では、ちょっとしたことでもやらなければいけないことがありますよね。例えば役所から書類が来ていて持っていかなければいけないとか。電球を換えなければいけないといった細かいものは意識してなくしておいたほうがいいですよね。

井上:そうです。ツァイガルニク効果というものです。ごみを出すといった簡単な課題と、事業戦略を考えるといった超複雑な課題がありますよね。これは課題1個という意味では、「あれをやっていない」という効果は同等らしいです。

倉重:同じなのですか。

井上:だから、本当に軽めのものは早めになくすか、軽めのものを済ます時間を取っておくことが大事なのだとは思います。例えばZoomやテレカンをしているときにSlackが鳴りますよね。これに対応しようとすると、そのタスクのせいでZoomを聞いていないわけです。それをやめないと、1個ずつ未完了のタスクが増えていきます。増えていくという事実をポップアップで見続けるというだけで、心が穏やかではありません。

倉重:脳のメモリーがそちらに取られていきますから。通知は切っておくだけでも全然違うのではないかと思います。あとは、テレカンで重要なことはオーバーリアクションですよね。これは以前にこのヤフーの対談の中で「カニの女王」と対談をしたときにも、「見えるようにリアクションしなさい」ということをおっしゃっていました。

井上:絶対にそうですよね。Zoomのフレームレートは1秒に12コマぐらいしか送れないので、早めにうなずくと、頭を下げた瞬間が映るのですよ。ですから、大きめにゆっくりとうなずくのがいいのです。そういうリテラシーの話は絶対にあります。

倉重:これは前もおっしゃっていましたけれども、やはりオーラや空気が見えない問題はどうしたらいいですか。Zoomだとどうしようもないですか。

井上:どうしようもないのでしょうかね。無理な部分はあると思っています。テレカンは目と耳だけでやりとりしますよね。目と耳以外の情報だけでやりとりしているのはヘレン・ケラーです。ヘレン・ケラーは、横にいるサリバン先生が「今、緊張した」ということに瞬時に気付くくらいの感覚を持っているそうです。

倉重:気持ちが見えるのですよね。

井上:多分、触覚だと思うのですが、筋肉の硬直のようなものをもとに人の機微を見ているわけですよね。

倉重:それは物理ですよね。

井上:それがこのフレームレートのZoomなどではしんどいのだろうなとは思います。

倉重:そこはZoomで、オンラインでできることと、できないことというものをきちんと切り分けてこれからお仕事をしていくという意識も大事ですね。

井上:そうです。もしかしたらオーラで仕事をすることが厳しい時代が普通に来ますよね。テレカンが当たり前になる世界だと、オーラのようなものを感じるすべを、視覚か聴覚でうまく表現していくと思います。声の抑揚などや、オーバーリアクションの表情などがすごく大事になって。昔はいただろう相づちだけがうまいサラリーマンのような人が、何か違う多分技能として発生するかもしれません。

倉重:Zoom会議しか知らない世代がまた上に上がってくるとずいぶん違うでしょうね。

井上:間違いないですね。

倉重:それで、そのような集中について深く考えていらっしゃる井上さんが、やはり集中だけでは駄目だと、夢中になれとおっしゃるではないですか。このワケをお話し頂きたいのですが。集中では足りないわけでしょう。

井上:そうですね。集中という言葉を多少自己否定のような気持ちで言うと、集中という言葉は何を想起させるかというと、「何で集中していないの」「勉強しなさい」「宿題しなさい」と言われた時に使う言葉が集中なのですよね。

倉重:やらされ系ですね。

井上:そうなのですよ。最初に申し上げたとおり、集中は内発的動機で自分から進んでやらなければいけない行為のはずなのですよね。だけれども、集中という言葉が生んでいるものはやらされ感なのですよ。言葉遊びにも近いのですけれども、「集中しなければ」などと言っている時点で、もう完全にやらされているわけですよね。

倉重:本当ですね。それは「やりたくない」が先にあるのですものね。

井上:だから、やっぱり「集中しよう」などということは一回忘れて、夢中になれることは何なのかということを一回腹に落とさないと、結局は何も楽しい仕事にはならないよねということだと思います。

倉重:これは一番本質的な問題だと思います。今の日本企業などで働いている方の中で、そうやって夢中で働いている人はどれぐらいいるかなということです。朝の電車を見ているとやはり目が死んでいる人が多く感じます。

井上:そこを変えないといけません。違う切り口で言えば、企業内で起業家として新しいものを生み出すということが僕のミッションでもあるのです。そういう人は、「集中しなければ」などと言っていても絶対に生まれないと思います。

倉重:「やばい、新規事業を考えなければ」のような。

井上:「考えなければ」「新しいものをつくらなければ」という考え方で新しいものが生まれているのを見たことがないです。そういうものはものすごく無邪気な感覚というか、本当に勝手な危機感と勝手なエゴと責任感で突き進むことをしなければ、やはり面白い仕事はできない気がしています。

倉重:やはり「会社が悪い」「周りが悪い」「環境が悪い」と言っている人ではなかなかそうなれないですよね。これは本の冒頭にもありましたけれども、やらされ仕事は4カ月、やりたい仕事は4年以上続くと。嫌々やっているのか、自発的にやっているのかでこれだけ差が出てくるわけですね。

井上:アドレナリンで仕事をするのが、やらされ仕事なのですよね。例えば「やらなかったらケツバットだぞ」と言って恐怖感を与えます。アドレナリンで仕事をすると4カ月は持つらしいです。しかし非日常が4カ月で日常化されて、人は響かなくなるのですね。

もっと内発的に「自分はこれが楽しいのだな」という感覚で、ドーパミンが出て仕事ができている状態は4年以上続くということが言われているそうです。

■人は無意識に「やらない理由」を探している

倉重:「やりたくてやっている人」はJINSだとどれぐらいいますか。

井上:どれぐらいいるのでしょうね。でも、結構多いほうだと思います。

倉重:例えば若手の社員から、「井上さんはすごくやりたいことをやっていてうらやましいです」「どうやってこういうものを見つけたらいいですか」のようなことを言われたら、何と答えますか。

井上:まずうちの会社特有の話をすると、うちはオーナー企業なので、意思決定者がはっきりしています。やりたいと思った瞬間のアプローチはシンプルで、その人を説得するという以外にないわけです。悩んでいること自体が多分おかしくて。「これをどうしてもやりたい。では、意思決定者であるオーナーの社長が今、どういう理屈だとやりたいと思ってくれるか」ということに真っ直ぐに向き合えば良いのです。うちの会社においてはシンプルな話です。

 サラリーマン社長だったり、普通の一般的な大企業においてはまた違うだろうと思います。オーナー企業だからそのようなことが言えるのだよと言われるのですけれども。新規事業が欲しい大企業はたくさんあるではないですか。若手はそういうモチベーションが高いですし、トップの人はそういうものを求めていますよね。企業のトップと話す機会が、少ないですけれどもあります。「俺は新しいものなどは全然提案してほしくない」という社長は見たことがないと思います。

倉重:そのような社長はいないでしょうね。

井上:「うちの会社は衆愚政治で行きます」という人は見たことがないですよね。どこの企業の社長だってSNSで見つけられないこともありません。

倉重:直で大体アタックできますものね。

井上:だから、できない理由を探す時点でやばいのです。何かアプローチしろよという話だと思っています。

倉重:日本はやらない理由を探す癖があるらしいですね。

井上:そうです。本当にそれなのだと思います。

倉重:やはり新しいことをやるということはストレスですものね。

井上:間違いないです。多分初動が難しいのですよ。静止摩擦係数は高くて。

倉重:静止摩擦係数?

井上:最初に動くことです。動き出しは大変だけれども、例えば企業内起業家の団体や、ONEジャパンのようなものや、「始動」という経産省がやっている若手の新規事業のメンタリングのシステムがあったりするのですが、そういうところに1回でも行ったことがある人はすぐに動きます。

倉重:まずやってみると。

井上:すぐ誰かに話し掛けます。でも、1歩目はその人たちも時間がかかります。僕も多分そうでした。僕もJINSに行って最初のほうは、新規事業をするまでは外に行くこともそれほどなかったし、自分の中に枠があったので、その中で最適化を探すというマインドセットでした。本当にサラリーマンだったなという感覚があります。

 最初のころよく社長に「まず自分で悩み過ぎるということはやめろ」と言われていました。自分に何か課題感があると思ったら、20年ぐらい同じことをたくさん考えている人がいるから、まずはその人にキャッチアップさせてもらって、その後に独自の自分の考えというものを詰めるべきで、「動けよ」という話をよくされていました。

倉重:そのほうが圧倒的に速いですよね。

井上:間違いありません。その初動を何度かやったら、動くことがつらくなくなりました。まず1回、無理やりにでも動かすということが大事です。

倉重:「取りあえず誰かに聞きにいって見るか」ということから始めて。

井上:そうです。そこで小さな成功体験を積み重ねます。本当にやった瞬間に変わるので。

倉重:やりたいことが見つかっていない人はどうすればいいですか。

井上:何かやりたいことが必要かというと、そうでもないと思っています。9割ぐらいの人は、「誰かがやりたい夢を何とか実現したい」という感覚だと思うのです。僕が20歳ぐらいの時から「もう眼鏡がやりたくて」と思っていたかというと、全くそんなことはありません。

倉重:だって、最初はコンサルですものね。

井上:そうです。自己表現の一つが僕は眼鏡だったのですよ。いろいろな切り口でやっていることを語れることが大切です。例えば昔の日本のものづくりは、ハードウェアが強かったですよね。ウォークマンなどもソニーが強かった。だけれどもiPhoneや外国のAndroidが出て、負けてしまいました。でもまだセンサーなどは日本が強いのですよ。そのセンサーを切り口に、日本から出たイノベーションを何とか世界に届けたいという切り口で商品を語ることもあります。

 あとは、認知症対策をしています。うちの母方の祖父母は認知症だったので、母親が認知症になる前に、何とかこれでアプローチして解決できないかという社会課題的な感覚や、ものづくりという観点で語ったりします。

それと、新規事業を立ち上げることの再現性を上げています。いろいろな業界の中でくすぶっているような人はたくさんいるので、「眼鏡屋でもこれができた」「井上さんのようなタイプでもこれができるのだ」ということで、参入障壁を下げたいです。

 今、いろいろな切り口で自分の事業を語りました。実現したいものはいくらでも語りようがあると思います。何かを始めると後々どこかで語らされるわけです。語っていると「この語り口はいいわ」と思うものと、「これはライフワークにしていいや」というものが間違いなく見つかります。

倉重:やっていく中で出てくるものなのですね。

井上:「やりたいことがないから動けない」ことなのかをそもそも見極めたほうが良いです。面白そうだなと思うのだったら、もう動き始めたほうがいいのだろうと思っています。

倉重:これからのワークスタイルのような話なのですけれども、なぜやるのか、なぜ今はこの仕事をしているのかを分かっている人は当然集中できるという話ですね。

井上:語り口がはっきりしている人は、それは間違いないです。

倉重:やはり「この仕事は何の役に立っているのだろうな」と思っていたら、集中できないですものね。先ほどもありましたように、やらない理由探しという時間もはっきり言って無駄でしかないので、そういうことは始めからしないという人が本当に増えてくるといいなと思います。どうやったら増えるかなと私もいつも思っています。

(つづく)

対談協力:井上一鷹(いのうえ かずたか)

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEMEの事業開発を経て、株式会社Think Labを立ち上げ、取締役。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。近著は「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」、「深い集中を取り戻せ ―― 集中の超プロがたどり着いた、ハックより瞑想より大事なこと」。 https://twitter.com/kazutaka_inou