Yahoo!ニュース

人と組織で業績を上げる、サイバーエージェントのクリエイティブ人事【曽山 哲人×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

コロナショックを機に、テレワークを取り入れる企業が増えました。しかし、従業員の顔が見えないことにより、マネージメント面で不安を感じたり、対人関係が希薄になることでストレスを抱えたりしている人も多いようです。サイバーエージェントでは、「リモデイ」や「Geppo(ゲッポウ)」などさまざまな制度を活用することで、快適に働ける環境作りをしているそうです。曽山さんに、リモートワークでも熱量を高く働く仕組みについて伺いました。

<ポイント>

・対面とリモートワークの業務の区分け

・リモートワークでチームの熱量を高めるには

・組織目標があると自走しやすい

――――――――――――――――――――――――――――――――――

■サイバーエージェントの「リモデイ」

倉重:せっかくですから、コロナの中で人事制度はどのようにしているか聞いてみたいと思います。テレワークはかなり多いですか?

曽山:はい。緊急事態宣言中は、積極的にリモートワークをしてもらいました。皆で実践したことで、リモートの良さがわかりました。一方で「出社したい」「会って話したい」という声も根強くあるので、「ハイブリッドで行こう」というのが僕らの意思決定です。具体的には、リモート+デイの造語で、「リモデイ」を作って制度化しました。リモデイの日は原則として全員リモートにします。今だと月曜日と木曜日がリモデイで、火曜日・水曜日・金曜日は出社日と決めています。

 これはかなり議論をしました。出社日は決めるものの、コロナが心配な人は「申請すればいつでもリモートにして良い」ということを前提に作りました。リモートをいつでもどうぞという感じで自由にすると、上司が出社している場合、どうしても出社しなければならない同調圧力が生まれやすくなります。

倉重:誰も言っていないとしても、ありますよね。

曽山:そうです。上司が何も思っていなくても、そういうふうに映る可能性はあるので、「やるのなら原則全員リモートにしましょう」と言っています。リモデイでも出社しても構いません。例えばご家族がいて、家の中で仕事をするとむしろ迷惑だから、オフィスで仕事に集中したいという人は出社しても大丈夫です。「ただし周りの人の出社を強要しないでください」と言っています。

倉重:それはもうはっきり言うのですね。

曽山:はい。そういうふうに運用すると、出社比率が顕著に分かれます。まず出社日の火・水・金は出社する人が7割で、3割ぐらいはリモートです。例えば「家族に高齢者がいるのでリモートします」などは全然OKです。逆にリモデイはどうなるかというと、出社する人が2~3割、リモートの人が7~8割になります。マジョリティーがリモートになるので、同調圧力は生まれていないということが確認できます。

倉重:逆に「リモートしなければ」ぐらいの雰囲気ですよね。

曽山:そうです。これは結構うまくいっていると思っています。

倉重:なるほど。業務ごとにリモートにするといった、区分けの議論もありましたか?

曽山:かなりありました。リモートと相性が良い業務は、大人数の会議です。移動の時間も減らせますし、会議室の確保も要らなくなります。Zoomだとブレイクアウトルームのようなグループワークの機能もあるので、リモートのほうが効率は良いです。報告などの共有が中心の定例会も、あまり対面でやる必要はないので、普通に業務共有すればいいと思います。

倉重:そうですね。

曽山:逆に、いくら機能が整っているとはいえ、アイデアをホワイトボードにガンガン書いて、皆で見ながら「ああだよ」「こうだよ」と意見交換するリアルの良さがあるのも事実です。ある程度人数を絞ったり、マスクをしたりして、最低限の感染予防をした上で、リアルで行っています。

倉重:なるほど。新入社員研修などはどうしていますか?

曽山:はい、研修は全てオンライン化しています。ただし中途入社も新卒も、会って話すことをすごく望んでいる人がいるのも事実です。

倉重:そうですよね。誰にも会ったことがないまま業務が始まるのは不安ですしね。

曽山:そうです。ですので、ものすごく広いセミナールームを借りて、感染予防のために距離を大きく取って、ランチを一緒に取ったり、マスクをしてディスカッションをしたりすることを最近始めています。

倉重:なるほど。絶対に飛沫が飛ばない距離でやると。

曽山:そうです。何日間かにわたって大人数で新卒研修をする場合などは、先ほど言ったとおりZoomのほうがいいので、オンラインでするという感じで切り分けています。

倉重:ではリアルも一部織り交ぜてという感じですね。それで今のところ特に不満は出ていないのでしょうか。

曽山:去年の3月ぐらいからコロナが始まり、要望はものすごく出てきました。一方で、要望を取り入れたり、経営できちんと議論することに対する評価の声もたくさんもらったのです。基本的にはコロナで困ることは人によって全然違います。

倉重:そうですね。

曽山:個別性がかなり高いものが多いので、僕らは毎月Geppo(ゲッポウ)と呼ばれるアンケートを取っています。

倉重:これは有名なもので、販売もしていますよね。

曽山:そうです。リクルートの皆様からご評価いただき合弁会社を作って、一緒に販売する形になりました。厳密に言うと、リクルートさんと合同でビジネスプランコンテストをさせていただいて、2社のコラボチームで「Geppo」を代販していくことが決まったのです。

倉重:なるほど。

曽山:全社員に「業務として回答をお願いします。その代わり3分程度で終わります」と言って、毎月して入力してもらっています。聞いている質問は3つぐらいです。1つは「先月のあなたの成果はどうでしたか」という問いで固定しています。回答はとても簡単です。

倉重:5段階でしたか。

曽山:そうです。答えを「快晴」「土砂降り」「曇り」などの5つの選択肢から選びます。主観で構いません。例えば、「コロナでリモートワークが増えていますが、その中で皆さんのチームの熱量はどうですか」という、非常に抽象度が高い質問を天気で回答してもらうのです。その理由があればコメントに書いてもらいます。例えば天気が晴れで、「リモートでやりにくいところはあるが、毎日のように皆と顔を合わせているから安心して仕事できています」という回答も出ますし、逆に去年の場合だとまだ環境が整っていなかったので「ネットワーク環境が不安定なので、力を貸してもらえませんか」という相談があったりします。そういう声を僕らは必ず毎月、毎週のように役員会に持って行っています。

倉重:きちんと全部見ているぞと。

曽山:そうです。特に「これは経営で見たほうがいい。もしかしたらもっとほかにも同じ悩みの人がいるのではないか」という声をピックアップして役員会に持って行きます。議論して、「これは確かに皆の課題だろうから、こういう形にしよう」という軌道修正を光速で回しているのです。

倉重:常に走りながら少しずつ方向転換をしている感じですね。

■リモートワークで熱量を高めるには

倉重:ちなみに今のお話に出た、リモートで熱量を高めるには、どうしたらいいのですか。

曽山:これは本当に難しくて、サイバーエージェントの経営課題として継続して議論したほうがいいと思っています。うまくいっているチームにはいくつかの切り口があって、一番重要なのは、組織目標が皆で合意できているということです。

倉重:なるほど。ばらばらではなく、同じ方向を見ているのですね。

曽山:そうです。よくあるパターンが、個人目標は強いケースです。10人中10人が個人目標を達成すればもちろんいいですが、それほど簡単にはいかないので、だいたい3人~7人が達成します。ここからが大事で、個人目標を達成したら終わりになってしまうチームは弱いのです。組織目標を共有できている場合は、個人目標を達成したら、「組織目標にも貢献しよう」というつながりが出るので、結果、好業績、高い業績が生まれやすくなります。組織目標が合意できているチームは強いです。サイバーエージェントが取り組んでいるのは、プロジェクトレポート、略して「プロレポ」です。

 これは何かというと、半年に1回、部署全員で集まります。例えば営業第1グループの5人とか、サービスプロダクトの10人という形で集まります。やることはシンプルです。この組織の半年後の目標を皆で出し合って議論します。

倉重:個人ではなく、組織の目標ですか。

曽山:組織の目標をまず皆で議論します。例えば「売り上げはいくらか」「ユーザー数はこれぐらいかもしれない」ということを皆で議論して合意に至ると、そのアイデアが自分と違っても、議論の文脈が分かるので、組織目標に対する納得度がとても高くなります。

倉重:皆で決めるというところに意味があるのですね。

曽山:そうです。その中で組織目標が決まったら、個人目標にも非常に意味を感じます。「自分が目標を達成すると、組織にどんな貢献ができるのか」ということが繋がると、やる意味が、自分ではなくて組織に向くのです。リモートにおいては逆の状況で、会議が終わってしまえば個人が見えない状況になるわけですね。その分、ほかの人の動きも見えない確率のほうが高くなります。そうすると個人目標だけの組織よりは、組織目標やチーム目標が合意されているチームのほうが圧倒的に強くなるのです。

倉重:確かにそうですね。これは曽山さんもYouTubeでもおっしゃっていた、「自走する人をいかに増やすか」という話と似ているかもしれませんね。

曽山:まさにそうです。YouTube、「ソヤマン」で頑張って話しています。

倉重:見ています。

曽山:ありがとうございます。組織目標があると自走しやすいのです。「自分の動きがチームのためになる」「チームの皆に喜んでもらえる」と思うと、人は頑張っていけるものなので。

倉重:そうですね。押し付けではなく、自ら考えて、一緒に議論して、巻き込んで、いかにこの目標を自分事にしてもらうかですね。勝手に上で考えて「それをやれよ」と言ってしまっているところがまだまだ多いと思います。部署ごとにみんなでいろいろ議論するという感じですね。

曽山:そうです。

倉重:いいですね。この対談はそもそも働くことの良さも伝えたいと思って始めました。そういう意味では、今は非常に未来が不確実な時代ですし、働き方のみならず、いろいろな会社組織やビジネスそのものが変化している時代です。人事に限らず、働いている人に対して、今後どうやって働いていったら良いのかメッセージをお願いします。

曽山:僕が働いている意味は、自分と自分より後に生まれた人にとって良い社会を作るということなのです。それができたら純粋にいいじゃないですか。ポイントは絶対に自分が入っていることです。自分にとって良い社会にしたいし、自分にとって良い人生にしたい。僕らが持っている選択肢の1つとして、働くことはそれにつながる可能性がすごくあります。自己満足で終わらせるのではなく、できることなら後世に生まれて来る人たちにとっても良い社会になるように、その基盤を作っていくのが僕らの仕事です。「自分たちより50歳上の人たちが、良い社会や会社を作ってくれた」と喜んでもらえれば、それはそれですごく良い仕事をしたという感じがします。

倉重:そうですね。自分一人のためではなく、世のため人のため、社会のためになっていることに、最終的には自分がすごく満足するのですね。

曽山:そうです。

倉重:最近だと最高裁判所まで同一労働同一賃金の判決の中で、非正規に休暇が認められなかったことについて「本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかった」ということを言っており、「働くことはそんなに辛いことで、悪いことなのか」と思ってしまう発言も散見されました。「働く」というのはお金を稼ぐ意味もありますが、結局自分のためですよね。

曽山:本当にそう思います。良い社会を作る一つの選択肢です。

倉重:そういうふうに思える人が1人でも増えたら、日本は非常に良い国になっていくと思います。

(つづく)

対談協力:曽山哲人(そやまてつひと)

株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO

上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。

1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。

1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。

インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。

現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。

「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作のほか、ビジネス系YouTuber「ソヤマン」などSNSでも情報発信。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

倉重公太朗の最近の記事