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コンビニオーナーと「Uber」化する労働~新時代の労働者性と保護のあり方~

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

先日こんなニュースがありました。

コンビニオーナーが労働組合に加盟してセブンやファミマというコンビニ本部と団体交渉を求めていた事件です。

【3/15(金) 13:15配信「コンビニオーナーの団交認めず、中労委が判断覆す 舞台は裁判へ」弁護士ドットコム】

そもそもこれは何が問題なのでしょうか。労働組合法上、「使用者」が雇用する「労働者」が加盟する労働組合から団体交渉を要求された場合、会社側はこれに対して誠実に対応することが定められています。

労働組合法上、「労働者」とは,職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいいます(労組法3条)。

しかし、本件はコンビニで働く労働者ではなく「オーナー」なのです。

「オーナー」は法人の場合と個人の場合がありますが、特徴は、自ら事業を経営しており、レジのアルバイトなど「労働者」を雇っている人、つまり経営者だと言うことです。

経営者が労働組合?そんなのあり得ないだろうと思いきや、「労働者」という概念は労働組合法の世界では少しずつ拡大してきました。

古くは昭和の時代に管弦楽団の楽団員の労働者性が認められ、その後もオペラ歌手やINAX・ビクターのメンテナンスなどを行う事業者の労働者性が最高裁で認められています。

つまり、雇用契約を結んでいなくとも、労働組合法上「労働者」であると認められるケースはこれまでもいくつかあったわけです(プロ野球選手会なども労働組合として認められています)。

そして今回は、人を雇っている事業者であるコンビニオーナーが労働組合法上「労働者」かどうかが問題となった訳です。

セブンイレブン事件、ファミリーマート事件(両事件とも平成31年3月15日 中労委)は、いずれも、労組法上の労働者性が問題となりました。

労働者性を判断するに当たっては1、事業組織への組み入れ、2、契約内容の一方的・定型的決定、3、報酬の労務対価性、4、業務の依頼に応ずべき関係性、5、広い意味での指揮監督と時間的場所的拘束性が労働者性を肯定する要素となります。

コンビニオーナーについてはフランチャイズですから、正に事業組織への組み入れがあり、契約内容も一方的・定型的に決められ、その他契約上の様々な義務を負っている立場といえました。

しかし、労働者性を判断する第6の要素として6、顕著な事業者性というものがあります。これは、労働者性を否定する要素として使われます。

コンビニオーナーは人を雇用し、自らの事業としてコンビニ運営事業を行っている訳であり、一定の拘束などはあるものの、それはフランチャイズ契約自体の問題であって労働者性の問題ではないということです。

中央労働委員会は、この顕著な事業者性を検討して、コンビニオーナーの労働者性を否定しました。つまり、労働組合法上の労働者ではないということです。

確かに、人を雇って自らの事業を行う者が「労働者」というのは違和感があります。しかし、救済の必要が無いかと言われるとまたこれも悩ましい問題です。

一部報道でもあったとおり、24時間営業の負担、オーナーの長時間労働、フランチャイズ料金の問題、人手不足による採用困難、営業赤字など、様々な問題があり、救済すべき必要性自体は認められるでしょう。

そのため、中労委も以下のような「なお」書を付けています。

「なお,本件における加盟者は,労組法による保護を受けられる労働者には当たらないが,上記のとおり会社との交渉力格差が存在することは否定できないことに鑑みると,同格差に基づいて生じる問題については,労組法上の団体交渉という法的な位置付けを持たないものであっても,適切な問題解決の仕組みの構築やそれに向けた当事者の取り組み,とりわけ,会社側における配慮が望まれることを付言する。」

 つまり、労組法上の労働者でないとしても、コンビニ本部とオーナー側には交渉力格差などがあり、救済の必要性はあるということです。ただし、事業者なので、労働者性の問題ではないということです。

 労働者ではないけども交渉力格差のある当事者を規制する法律、それは独禁法や下請法などの経済法です。

 特に、独禁法についてはコンビニに適用を検討をというのがニュースになっていました。

【コンビニ24時間、見直し拒否で独禁法適用検討 公取委】(朝日新聞平成31年4月24日)

このような、「労働者」ではないけども交渉力格差のある当事者の問題、これは今後、様々な分野で広がっていくでしょう。

例えば「Uber」です。日本では白タク規制があるため、一部のハイヤー会社が運営しているところですが、「Uber Eats」というサービスは個人で宅配サービスを行う形態になっています。

 

このようなテクノロジーを利用したマッチングサービスは宅配サービスのみならず、今後あらゆる分野に広がっていくでしょう。現に、アメリカでは、派遣労働者をオンデマンドでイベントに派遣するプログラム「Uber Works」を試験運用開始しています(日本では派遣業法規制があるため容易ではないでしょうが)。

このように「働く」ということが、雇用契約形態にとらわれずに、デジタルの力を借りて「Uber化」していく方向性は好むと好まざるとに関わらず、避けられないでしょう。

そのときに重要なのは、労働者、いや「働く人」をどう保護するかです。「労働者」というには限界があります。経済法の領域との接続領域でしょう。

ここで、一つの方向性を提示したいと思います。現存する法律でも、中小企業協同組合法という法律があります。

この法律では

「事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者」は「その取引条件について…団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする。」

という規定があります(9条の2第12項)。

つまり、労働組合法上の団体交渉ではないものの、協同組合を組織すれば、「取引関係がある事業者」、つまり、今回のケースで言えばコンビニ本部は交渉に応ずべきということになるでしょう。

また、交渉で協議が整わないときは、行政庁に対してあっせんを求めることが出来る旨の紛争解決に関する規定もあります(同法9条の2第12項)。

独禁法の優越的地位の濫用規定は伝家の宝刀と言われるほど、適用場面は限定的です。しかし、「取引条件について」集団的に交渉するのであれば広く様々な問題を議論できるでしょう。

そのため、コンビニオーナーをとりまとめた協同組合の設立を検討すべきと個人的には考えています。

ただし、現状ですとあくまであっせん止まりなので最終的な強制力が無い(労働組合における不当労働行為救済申立のような制度がない)のが問題なので、法改正が望まれるところです。

最後に、我が国のナショナルユニオンである連合の談話を引用します。

 「どのような就労形態であっても安心して働くことができる労働関係法規・社会基盤の整備を求めていくとともに、集団的労使関係の輪を広げる運動を展開していく。」

 労働組合という形式にとらわれず、「働く人」に対する保護という形で、新たな協同組合の活用など、様々な手段を検討頂ければと思います。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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