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麻しん(はしか)ワクチン「空白世代」の大人は、感染に警戒を

倉原優呼吸器内科医
(フタバのフリーイラストより使用)

麻しん(はしか)の報告が各地で相次いでいます。人の往来が増えた2023年は例年より感染者数が多い状況でした。「麻しん」と聞くと、子どもの感染症と思われがちですが、ワクチンが定期接種化されてから、大人の感染例が主体となっています。自身のワクチン接種歴や、麻しんの典型的な経過を確認しておきましょう。

麻しんの現在

麻しんが全数届出になった2008年の年間届出数は約1万例で、そのあとは激減の一途をたどっています。海外からの旅行者やワクチン未接種者における集団発生によって2019年に一度リバウンドしたものの、2021年・2022年はともに6例と極めて少なくなりました。

しかしながら、2023年は合計28例が報告されています。去年は、新型コロナの5類感染症移行によって、人の往来が増え、やはりリバウンドしている印象です。

2024年は、大阪府の航空機搭乗者が麻しんを発症し、その後、岐阜県、愛知県、兵庫県、奈良県など複数の自治体から同一航空機内で感染した麻しん例が報告されました。

麻しんウイルスの基本再生産数(1人の感染者が直接感染させる人数)は、インフルエンザウイルスの約10倍で(図1)、免疫のない人が接触するとほぼ100%感染します。また、接触感染、飛沫感染以外にも空気感染を起こすことが知られており、新幹線や飛行機などで容易に感染が広がります。

図1.基本再生産数(筆者作成)
図1.基本再生産数(筆者作成)

日本では麻しんは大人の感染症

世界的には子どもが感染しないようワクチン接種をすすめていく必要がありますが、現在日本ではワクチン接種が定期化されています。そのため、実は、感染に警戒しなければならないのは大人なのです。

2023年の国内の麻しん届け出例28例の年齢中央値は31歳で、全体の64%が20~39歳です(1)。つまり、日本では麻しんというのは基本的に大人の感染症になっています。

28例のワクチン接種歴をみると、2回接種を完了していない人の割合は不明を含めると全体の86%で、ワクチン接種がきわめて重要な感染症であることが分かります。

推定感染地域が国外と考えられる届出例は 全体の21%で、上述した2024年の国内感染例も航空機から持ち込みです。そのため、今後われわれは「輸入麻しん」に注意しなければいけません。

ワクチン接種歴の確認を

自身に麻しんワクチン接種歴があるかどうか、母子手帳がある人は確認しましょう。

麻疹ワクチンが定期接種になったのは1978年ですが、当時は1回接種でした。1回の接種だけでは十分な免疫がつかないため、2006年度に麻しん風しん混合(MR)ワクチンの2回接種が導入されました。2008年に特例措置によって、免疫が不十分である人を対象に追加接種が行われました。

2000年以降に生まれた方は、2回の定期接種を受けている可能性が高いですが、それ以前に生まれた大人は注意してください(図2)。フルでワクチン接種できていない、いわば「空白世代」に該当します。

図2.生年月日別の麻しんワクチン接種歴(筆者作成)
図2.生年月日別の麻しんワクチン接種歴(筆者作成)

日本は、麻しん排除状態を維持するために、2回接種率95%以上を目指しています(図3)。残念ながら一部の都道府県で2回目の接種率が90%を下回っています。1回では免疫が不十分なので、2回接種しましょう。

図3.麻しん風しん(MR)ワクチンの定期接種対象者(筆者作成)
図3.麻しん風しん(MR)ワクチンの定期接種対象者(筆者作成)

麻しんの典型的な経過

定期接種が広まり、麻しんの症状を知らない人が増えてきました。ここで典型的な経過をおさらいしておきましょう。

潜伏期間は、10~12日と長いです。上述したように、接触感染・飛沫感染だけでなく、空気感染する点に注意が必要です。

初発症状は、発熱、咳、鼻水、のどの痛みなど感冒症状があります。いったん治癒すると思われた矢先、高熱と発疹(ブツブツ)が同時にやって来ます(図4)。この激烈な「2峰性」が麻しんの特徴です。発疹が出てくる1~2日前に口の中の頬の裏側に、やや隆起した小さな白い斑点(コプリック斑)が出現することがあります。

図4.麻しんの典型的な経過(筆者作成)
図4.麻しんの典型的な経過(筆者作成)

ワクチン1回接種者など、中途半端な免疫を有している人は、軽症で特徴的な症状がでにくい「修飾麻しん」の状態になることがあります。

まとめ

厚生労働省は、継続的に麻しんについて注意喚起を発出しています(2)。世界的には新型コロナによってワクチン接種が遅れた国があることが感染例の増加を招き、そして国内では人の往来が増えたことで感染例が増えていると考えられています。地域のニュースなどを見て、周囲の麻しん流行状況を把握しましょう。

定期接種をのがしてしまった人は、任意接種になります。「もう接種できない」ということはありません。大人でも接種できます。他の予防接種の機会に、一緒にキャッチアップするとよいでしょう。

(参考)

(1) 麻疹の発生に関するリスクアセスメント(2024 年第一版) (URL:https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/ra/measles_ra_2024_1.pdf

(2) 「麻しん(はしか)」の感染事例が報告されています!(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001131749.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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