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会話が少ない人は「誤えん」のリスクが高い? 国内の研究

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

食べたものが誤って気管支や肺などの気道に迷入してしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。高齢者や神経疾患などがある人で誤嚥を起こしやすいことが知られています。実は、会話が少ない人もリスクが高い可能性が示唆されています。

「誤嚥」とは

食事は通常飲み込んだら食道から胃へと入っていきます。しかし、何らかの理由で気管支や肺などの気道に入り込んでしまうと、肺炎を起こしてしまうことがあります。これを「誤嚥性肺炎」と呼びます(図1)。

図1. 誤嚥性肺炎(看護roo!より使用)
図1. 誤嚥性肺炎(看護roo!より使用)

肺は細菌などが繁殖しないよう、異物を排除するシステムが備わっています。そのため、肺に異物が入ってしまうと、炎症細胞などが集まってきて肺炎を起こします。

こうすることで、生体を守ろうとしているわけです。

しかし、肺炎の免疫応答が強すぎると、それで命を落としてしまうことがあります。高齢者の場合、身体がそれに耐えきれません。そのため、日本の死亡の上位には必ず肺炎がランクインしています。

会話が少ない人はハイリスク

高齢者や神経疾患などの患者さんは誤嚥を起こしやすい状態にあります。これは、気道の入り口にある門番、喉頭蓋(こうとうがい)がうまく閉じないためです。

特に認知症の高齢者の方では、寝たきりになって筋力が低下し、上手に飲み込むことができなくなり、誤嚥性肺炎になってしまう方が多いです。

大分大学から興味深い研究結果が発表されています(1)。これは、医師310人を対象としたアンケート調査です。医師自身に「反復唾液嚥下テスト」をやってもらったのです。

反復唾液嚥下テストというのは、口を湿らせた後30秒間に、何回唾液を飲み込めるかをみるものです(図2)。みなさんも、無理のない範囲でやってみてください。3回以上できれば正常です。しかし、これが2回以下の場合は、うまく飲み込みができない「嚥下障害」の可能性があります。

図2.反復唾液嚥下テスト(筆者作成、イラストはイラストACより使用)
図2.反復唾液嚥下テスト(筆者作成、イラストはイラストACより使用)

この研究、なぜ医師自身に反復唾液嚥下テストをやってもらったかというと、医師ならば正確に評価できると考えられたからです。一般の方にやってみてくださいとお願いするのは手技の標準化が難しく、専門家にやってもらったほうが妥当性が増すというわけです。

回答者である医師の反復唾液嚥下テストの中央値は12回でした。唾液の分泌量に左右されますが、多いほうだと思います。私、自分でやってみると7回しかできませんでした・・・。

解析の結果、12回以下の人は、13回以上だった人と比較すると、1日3時間未満の会話であることが多かったとされています(図3)。さらに詳しい解析をおこなうと、会話時間が少ないことで誤嚥のリスクは1.86倍になるという結果が示されました。

図3.反復唾液嚥下テストと会話時間の関係(参考資料1をもとに筆者作成)
図3.反復唾液嚥下テストと会話時間の関係(参考資料1をもとに筆者作成)

まとめ

今回の研究によると、反復唾液嚥下テストの成績が悪い人、すなわち誤嚥のリスクになりやすい予備軍の人は、会話時間が少ないことが示されました。

もしかすると、たくさん会話をして人とコミュニケーションをとることが、誤嚥リスクを低減するかもしれません。高齢者がいるご家庭では、会話する時間を大切にしましょう。

(参考)

(1) Hagiwara A, et al. Cureus. 2023 Oct 29;15(10):e47921.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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