Yahoo!ニュース

新型コロナの入院が増加 「ぶり返し肺炎」に注意

倉原優呼吸器内科医
(胸部単純X線写真イメージ:筆者自身のもの)

アルファ株やデルタ株といった変異ウイルスが猛威をふるっていた時期とは異なり、現在流行している「JN.1」はオミクロン株の一種なので、基本的には軽症で済むことが多いです。しかし、最近増えているのが「新型コロナ・インフルエンザにかかって、いったんよくなったが発熱と息切れで再受診」というケースです。胸部単純X線写真を撮影すると左右の肺炎があり、急性期病院に入院となる場合も。

「ぶり返し」による肺炎

いったいなぜこのようなズレが発生するのでしょうか?

ウイルス性肺炎の挙動に関してさまざまな研究がありますが、もっとも研究されているのがインフルエンザウイルスです。

感染後しばらくして、黄色ブドウ球菌という細菌による肺炎が多くなるということが知られていますが、ウイルスに感染した気道の細胞に、細菌の定着を促進させるタンパク質が出現するということを日本の研究グループが明らかにしています(1)。

新型コロナでも「ぶり返し」現象はよくみられ、アルファ株やデルタ株が流行していた時期、「落ち着くと思われた矢先に肺炎が悪化する」という現象はありました。

ただ、すべてが細菌性肺炎だったのかどうかは不明で、サイトカインストームという体の炎症反応が起こした「免疫応答による肺炎」だったという見解もあります。

いずれにしても、このような現象はコロナ禍以前はそこまで多くありませんでした。あったとしても、指で数えられる程度の人数だと記憶しています。

新型コロナの波を形成しつつある1月以降、この肺炎(図1)が再び増えてました。

図1.健康な人(筆者自身のもの)の胸部CT写真と新型コロナ患者の胸部CT写真(患者の同意を得て掲載)
図1.健康な人(筆者自身のもの)の胸部CT写真と新型コロナ患者の胸部CT写真(患者の同意を得て掲載)

新型コロナの入院が増加

新型コロナの感染者数はじわじわ増えており、各メディアが報道しているように第10波を形成しつつあります。インフルエンザの流行がおさまらないまま二重流行となっている状態です。

今回の波は、新型コロナの感染者数はそこまで増えていないのに、入院患者数が急増しています(図2)。

図2.定点医療機関あたりの新型コロナ新規感染者数および国内の新型コロナ入院患者数(参考資料2より引用)
図2.定点医療機関あたりの新型コロナ新規感染者数および国内の新型コロナ入院患者数(参考資料2より引用)

9月末に届出基準が少し変更になった点も影響しているかもしれませんが、水面下で感染が広がっている肺炎を起こす患者さんが多い、といった事態も想定されます。

5類感染症移行後初めての冬季であること、XBB.1.5対応ワクチンに変わってから接種をやめてしまった人が多いこと、なども要因として挙げられるかもしれません。

さらに、「5類感染症」に移行する前までは、死亡者数までカウントしていましたが、現在はどのくらいの患者さんが亡くなられているのかよく分からないため、今回は「実態が把握しにくい波」になるかもしれません。

まとめ

これから新型コロナの10波が到来すると、肺炎を起こす患者さんの数も底上げされて増加すると予想されます。

軽快傾向にあっても、発熱や呼吸器症状がぶり返して肺炎を起こすことがあるため、特に基礎疾患がある方や高齢者はご注意ください。

(参考)

(1) Sumitomo T, et al. mBio. 2021 Jun 29;12(3):e0326920.

(2) 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00438.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

倉原優の最近の記事