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新型コロナ第9波は「5類」移行期に重なるのか?

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

4月は入学、就職などで全国的に移動が多くなり、緩和ムードがすすみ飲み会などで人が集まる機会も増えています。現在、第8波収束後のおだやかな時期にありますが、オミクロン株はBA.5からXBB.1.5という新しい変異ウイルスに変化しつつあり、そろそろ第9波がやって来ると身構えている医療従事者は多いです。

第9波は来るのか?

「もう季節性インフルエンザと同じ5類になるのだから心配無用」という意見もありますが、そのロジックは健康で元気な人に限った話です。病院に運ばれてくる新型コロナ患者さんに向かって「5類だから大丈夫です、家で寝ていてください」と帰すわけにはいきません。

私たち医療従事者は、基礎疾患がある人や高齢者が医療逼迫の影響を受けないか、常に心配しています。

東京都の新型コロナ検査陽性率は、これまで波の先行指標としても機能してきましたが、ここにきてじわじわと上昇に転じており(図1)、第9波がやってくるのではないかと身構えています。

図1. 東京都の新型コロナ新規陽性者数と検査陽性率(筆者作成)
図1. 東京都の新型コロナ新規陽性者数と検査陽性率(筆者作成)

重症者数は、「感染者数×重症化率」の積で決定されます。コロナ禍当初より重症化率が低くなったとはいえ、感染者数が増えるほど医療逼迫が進む構図は「5類」移行後も変わりません。

アドバイザリーボードの資料によれば、5月上旬~中旬に東京都内で新型コロナの第9波のピークを迎えることが想定されています(図2)。マスク着用率が低いほど感染者数は増えますが、第7波・8波ほどは増えないという試算になっています。小波で終わってくれればありがたいです。

図2. 東京都における新規陽性者数長期プロジェクション(参考資料1より引用)
図2. 東京都における新規陽性者数長期プロジェクション(参考資料1より引用)

水面下でじわじわと増えてきている変異ウイルスはXBB.1.5で、第9波を形成する変異ウイルスはこれと考えられます。毒性は強くないと思われます。

新型コロナ用の病床が逆に減少?

ところで、私が懸念しているのは、コロナ病棟を縮小する医療機関が出始めていることです。特に民間病院はその傾向にあります。

新型コロナの患者さんを診療するキャパシティを全国的に増やそうとしているのに、なぜでしょうか?

理由の1つ目は、「5類感染症」に移行することで、「新型コロナ病床を確保してください」という法に基づく強い要請がなくなるためです。医師法には「応召義務」といって、正当な事由がなければ診療の求めを拒んではならないことが明記されていますが、「感染者を隔離できる病床がない」「動線が分離できない」などのやむを得ない事情がある場合、なかなか受け入れられません。大部屋の隣のベッドに新型コロナでゴホゴホ咳をしている人が入院してくることを、許容できる風土は今の日本にはありません。

理由の2つ目は、補助金が減額されることです。これまでは、新型コロナ以外の診療を二の次にして、とにかく新型コロナの入院にそなえてベッドを空けておく必要がありました。その他の診療を後回しにする代わりに、政府は確保病床の減収を補償してくれました。これが今後減額されていきます。となると、病院としても新型コロナ用のベッドをたくさん残す意味が薄れてくるわけです(図3)。

図3. 新型コロナ用の病床を縮小(筆者作成)(イラストはイラストAC、ソコストより使用)
図3. 新型コロナ用の病床を縮小(筆者作成)(イラストはイラストAC、ソコストより使用)

新型コロナ用の病床を確保してきた約3,000の医療機関だけでなく、「5類」移行後は全国に約8,200ある全病院で受け入れる体制を目指しています。しかし、上記の理由から、この青写真は実現しないかもしれません。

コロナ禍で、受診控えによってがんの早期発見が遅れてしまうケースが増えています。医療機関は「できればコロナ禍前の診療に戻したい」と思っており、「5類」化によってむしろ脱コロナのほうへ進むかもしれません。

こうなると、入院を必要とする新型コロナ患者さんが行き場を失う可能性があります。「前波より小波なのに病床不足で入院できない」という事態は避けたいところですね。

多くの自治体で入院調整機構は残しますが、これが機能しない場合、施設やクリニックが入院受け入れ医療機関を地道に探さないといけません。

波の途中で感染者数が分からなくなる

さらに「5類」化で懸念されるのは、感染者数を数えなくなることです。1週間に1回、定点医療機関から報告されるのみです。特に第9波が直撃しているさなかにこの移行となると、ボクシングの試合中にいきなり目隠しされるような状態になります。

消防庁に報告される救急搬送困難例などを参考に、何となく逼迫しているということを実感することになるわけですが、二次救急を受け入れる最前線の医療機関は、ストレスフルな状況に陥るかもしれません。

救急搬送困難が日常化

第8波後の静けさにもかかわらず、救急搬送困難件数は高止まりしています。現在は、東京オリンピックのさなか、たくさんの新型コロナ患者さんと向き合っていた第5波のピーク時と同水準です(図4)。

図4. 全国の救急搬送困難件数(参考資料2より引用)
図4. 全国の救急搬送困難件数(参考資料2より引用)

これは、「救急車を呼んでもなかなか搬送されないことが日常化している」という意味です。また、グラフは発射台が高い位置にあるので、第9波がたとえ小波であっても、救急医療の逼迫は相対的にかなりきつくなる可能性があります。

ただ、上述したように、第9波のピークは第7波・第8波よりも低いという期待もあり、医療逼迫はそこまで問題にならないかもしれません。

まとめ

専門家のシミュレーションでは、第9波は「5類」化の移行期かその直後にやってくると想定されます。「5類」化に向けて、医療リソースの引き算を始めている医療機関もあり、それが仇(あだ)となって逆に医療逼迫を招かないか、注視が必要です。

60代以降は現在ウイルス抗体価が低い状況となっています。高齢者では5月から再び新型コロナワクチン接種がすすめられるため、接種をご検討ください。

(参考)

(1) 第120回(令和5年4月5日) 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料3-9 平田先生提出資料(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084526.pdf

(2) 第120回(令和5年4月5日) 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料3-5 中島先生提出資料(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084521.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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