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新たな国産承認薬で新型コロナ治療は変わるのか? 治療薬の現在のまとめ

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

塩野義製薬の新型コロナ治療薬ゾコーバが承認となりました。これによって新型コロナ治療は大きく変わるのでしょうか。現時点での新型コロナ治療薬についてまとめたいと思います。

使用可能な抗ウイルス薬

新規に承認となった薬剤も含め、軽症・中等症の患者さんに用いられる抗ウイルス薬は4つあります(表1)。「多すぎだろ!」と思うかもしれませんが、そうなんです、治療薬はコロナ禍で増えているのです。

表1. 新型コロナに対する抗ウイルス薬(筆者作成)
表1. 新型コロナに対する抗ウイルス薬(筆者作成)

レムデシビル(商品名ベクルリー)は、主に入院で用いられている点滴の抗ウイルス薬です。軽症の場合、3日間点滴します。

ニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッド)は、重症化リスクのあるワクチン未接種の成人に対して高い有効性が確認されたことから、国際的に広く用いられています。ワクチン接種がすすみ、ウイルスが変異しても、入院などのリスクを半減させる効果は維持されています(1-3)。

モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)は、国際的には他の薬剤が使用できない場合に使用する位置づけです。2022年9月から国内で一般流通されており、医師が判断すれば、早期から投与が可能です。大きなカプセルを1日8粒飲む必要があります。

新しい承認薬「ゾコーバ」

ゾコーバは、先日承認された新しい抗ウイルス薬で、作用メカニズムはパキロビッドと似ています。倦怠感、熱、鼻水、のどの痛み、咳の5つの症状が回復するまでの時間が、プラセボより約24時間短縮したとされています(プラセボ群192.2時間、ゾコーバ群167.9時間)()。

図. ゾコーバの有効性(筆者作成)(イラストは看護roo!、シルエットイラストより使用)
図. ゾコーバの有効性(筆者作成)(イラストは看護roo!、シルエットイラストより使用)

さて、「8日間の症状を1日短縮する」をどのくらい効果的と考えるかどうかです。実は、これはインフルエンザ治療薬も同じロジックです。「インフルエンザの特効薬」と勘違いされていますが、回復までに4・5日かかるところを「1日前倒しできるなら飲みたい」と考えるかどうかがポイントなのです(4)。

ゾコーバの成績、上記のパキロビッドより見栄えは劣りますが、この臨床試験における被験者の約9割はワクチン接種者であったことと、変異ウイルス流行後の組み入れだったことから、一概に過去の薬剤と比較できるわけではありません(5)。

また、今回臨床試験に登録された約1,000人のうち、入院した人はゼロだったので、入院リスクや死亡リスクを評価することはできませんでした。

いずれにしても、ゲームチェンジャーになるほどのデータかというと、そこまでのインパクトはないというのが正直な感想です。

簡単に処方できない経口抗ウイルス薬

新型コロナの経口抗ウイルス薬のハードルは、一緒に服用してはいけない薬剤が多いことです。パキロビッドやゾコーバは、一部の睡眠導入剤や循環器系の薬が「併用禁忌」になっています。

ゾコーバは「登録センター」から配分される予定です。ラゲブリオもパキロビッドも「登録センター」がらみの手続きが多く、現場ではそれが処方のハードルになりました(6)。色々と手続きをはさむことになるので、医師も薬剤師も手間が増えてしまう点が懸念材料です。

また、ゾコーバは発症3日以内という条件があり、これまでの経口抗ウイルス薬の発症5日以内と比べてハードルが高くなっています。

抗体薬と抗炎症薬

抗体薬は現在チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名エバシェルド)にBA.5への効果が残されていますが、すでに過去の抗体薬は有効性が低下し、今後台頭する変異ウイルスに対してもエバシェルドの有効性は低下することが分かっています。おそらく使用頻度は減って来るでしょう。

抗炎症薬は新型コロナのパンデミックの初期から大きく変わっていません。酸素療法が必要な場合、デキサメタゾンなどのような全身性ステロイドを用います。

新型コロナ治療薬の現時点のまとめ

以上をまとめると、現在の新型コロナ治療薬は表2のようになります。ラインナップも豊富になってきました。新型コロナ診療では、これらを使い分けて治療にあたっています。

表2. 新型コロナ治療薬の現時点のまとめ(筆者作成)
表2. 新型コロナ治療薬の現時点のまとめ(筆者作成)

現時点ではゾコーバを優先的に使用する理由に乏しいことから、他の抗ウイルス薬が選択できないときに、次善の策として使うことになるのではと考えています。

「重症化リスクのない軽症者に処方できる」ということは確かに大きなメリットかもしれませんが、そもそもそういった軽症者には受診せず自宅療養をお願いしている状況です。軽症者が治療薬を求めて積極的に受診する状況にならないよう、舵取りが問われます。

(参考)

(1) Paxlovid Associated with Decreased Hospitalization Rate Among Adults with COVID-19 — United States, April–September 2022.(URL:https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7148e2.htm?s_cid=mm7148e2_w

(2) Najjar-Debbiny B, et al. Clin Infect Dis. 2022 Jun 2;ciac443.

(3) Ganatra S, et al. Clin Infect Dis. 2022 Aug 20;ciac673.

(4) インフルエンザ治療薬は「特効薬」なのか? 現時点の治療薬まとめ(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221023-00320577

(5) ゾコーバ錠 125 mg. 審査報告書(3)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001015350.pdf

(6) なぜ処方されにくい? 新型コロナの軽症者向け経口抗ウイルス薬(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220809-00309379

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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