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女性で急増する病気「肺MAC症」とは 「年のせい」と見過ごされがち

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

みなさんは「肺MAC症(はいまっくしょう)」という病気をご存知でしょうか。近年、中高年女性に急増している慢性感染症です。新型コロナや風邪とは違い、すぐには治らないことから、年単位で向き合わないといけない感染症であり、私たち呼吸器内科医も腰を据えて診療する必要があります。

急増する慢性感染症

MACなどの結核でない抗酸菌が肺に感染することを、総称して「肺非結核性抗酸菌症(はいひけっかくせいこうさんきんしょう)」といいます。早口言葉か!

MACはマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックスの略で、菌の名前です。早口言葉か!

2014年に行われた大規模な調査では、これまでになく高い罹患率が記録されています(図1)。疫学調査が難しいため、これ以降のデータがありませんが、実感としてはかなり増えている印象です。

図1. 肺非結核性抗酸菌症の罹患率(参考資料1より)
図1. 肺非結核性抗酸菌症の罹患率(参考資料1より)

肺MAC症などの非結核性抗酸菌症は、結核のようにヒトからヒトへ感染することはなく、届け出の必要もありません。これまでなかなか診断されない人が多かったことから、医療の進歩により正確な患者数に収れんしただけなのかもしれません。

呼吸器内科の外来では1日に複数人が受診する感染症ですが、知名度はいまだに低く、「肺MAC症って聞いたことがありますか?」と聞いても「知っています」と返してくれた患者さんは皆無です。

男性よりも女性の方が多く、加齢とともに上昇していきます(図2)。近年増加しているのが、中高年の女性患者さんです。

図2. 肺非結核性抗酸菌症の年齢別罹患率(参考資料2より)
図2. 肺非結核性抗酸菌症の年齢別罹患率(参考資料2より)

感染源は実は身近なところ

MACは土壌や水回りにひそむ菌で、何度か曝露されることで肺の中に感染を起こしてしまいます(図3)(3-6)。丁寧に掃除すればMACの増殖を防げるのかどうか、まだよくわかっていません。

図3. MACの感染源(筆者作成:いらすとや、素材ラボよりイラストを使用)
図3. MACの感染源(筆者作成:いらすとや、素材ラボよりイラストを使用)

多くの人が生涯でこの菌に曝露しているはずですが、発症しない人のほうが圧倒的に多いため、病気になる原因はヒト側の免疫などにあると考えられます。

気管支が加齢とともに広がっていく「気管支拡張症」という特徴を持ったやせ型の女性に発病しやすいことが分かっています。外来の患者さんの多くが実際にやせています。

長引く呼吸器症状があれば受診を

肺MAC症は、ゆるやかに進行しますが、臨床経過は患者さんによってまちまちです。頻度が高い症状は、息切れ、咳、喀痰、血痰です。

無治療で経過を見ることもありますが、状態によってはお薬を飲んで治療したほうがよいです。結核の仲間ということもあり、抗結核薬を含めた3~4種類の薬剤を飲んでもらい治療します。治療期間が2~3年を超えることもしばしばです。

呼吸器症状がある中高年の女性の方は、一度は呼吸器内科を受診するようにしてください。「風邪が長引いているのかな」「年のせいかな」と考えて、なかなか受診にいたらないケースもまだまだ多いと思われます。

(参考)

(1) Namkoong H, et al. Emerg Infect Dis. 2016;22(6):1116-1117.

(2) Izumi K, et al. Ann Am Thorac Soc. 2019;16(3):341-347.

(3) Nishiuchi Y, et al. Clin Infect Dis. 2007 Aug 1;45(3):347-51.

(4) Maekawa K, et al. Chest. 2011 Sep;140(3):723-729.

(5) Ito Y, et al. BMC Infect Dis. 2014 Sep 29;14:522.

(6) Tzou CL, et al. Ann Am Thorac Soc. 2020 Jan;17(1):57-62.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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