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オミクロン株とインフルエンザの致死率はどちらが高い? 第6波はこれまでの波で最多死者数となる予想

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

オミクロン株は当初軽症例が多かったことから、「季節性インフルエンザ並み」の扱いでよいのではないかという議論が高まっていました。確かにアルファ株やデルタ株と比較して毒性が低くなったのは事実で、感染症法上の枠組みを骨抜きにしていく案は妥当と思われますが、どうやら「季節性インフルエンザ並み」というのは言い過ぎのようです。

第6波の想定死者数

オミクロン株が海外で流行し始めたとき、南アフリカのデータを引用して「軽症が多い」「オミクロン株はただの風邪」という報道が多かったと思います。私も、第6波で医療逼迫は起こらないかもしれないと心のどこかで期待していました。

第6波がピークを迎え、予想に反して多くの高齢者が中等症化・重症化しました。コロナ病棟で酸素を吸っている患者さんたちを目の当たりにして、「やはり全然風邪じゃないなあ」と思っていました。

さて、第6波はこれまでの波のうち最多の死者数を記録すると予想されています。具体的には、第3波で約7000人、第4波で約6000人、第5波で約3000人、第6波で最多の8000人以上の死者数と考えられています(1)。

実際、医療逼迫をもたらした第4波・第5波の1日死者数を、第6波はすでに大きく超えています(図1)。

図1. 3月4日時点における新型コロナの感染者数と死者数(https://news.yahoo.co.jp/pages/article/20200207を元に作成)
図1. 3月4日時点における新型コロナの感染者数と死者数(https://news.yahoo.co.jp/pages/article/20200207を元に作成)

第6波のコロナ病棟の現状については、これまで逐一報告してきましたが、体感としては第4波・第5波に匹敵するくらい酸素療法を要する患者さんが多く、非常に厳しい波となりました。

オミクロン株は季節性インフルエンザより肺炎が多い

オミクロン株が流行し始めた当初、確かに肺炎例は少なかったのですが、感染者数が増えるにつれ、徐々に肺炎例も増えてきました。

私が不思議だったのは、感染者数が増えて軽症中等症病床が逼迫し、救急医療の維持も危うくなってきたさなか、「ただの風邪」「季節性インフルエンザ並み」という見解が台頭し続けたことです。

「コロナ病棟に勤務している医療従事者は、入院が必要な人しか診ないから、新型コロナを重めに解釈している」と言われることがよくあります。

コロナ禍前までは、一般病棟には季節性インフルエンザの患者さんも時に入院していましたが、両肺に広がるウイルス性肺炎で困った症例はほとんどありません。それほどウイルス性肺炎というのは、呼吸器内科医にとっても珍しい存在でした。

しかし、新型コロナの第6波、重症化率が低いとされるオミクロン株でさえ、入院要請のあった人のかなりの割合がすでに肺炎により酸素療法を要する状態でした(2)(図2)。当院のオミクロン株150例のうち、酸素療法を要したのは全体の44.6%です。

入院を要する新型コロナを診療している医療従事者で、「オミクロン株は季節性インフルエンザより肺炎が少ない」と言っている人はおそらくいないでしょう。

図2. 大阪府における入院調整時の入院患者の症状(参考資料2より)
図2. 大阪府における入院調整時の入院患者の症状(参考資料2より)

若くて元気な人にとってはオミクロン株は季節性インフルエンザ並みでよいかもしれません。しかし、高齢者では壮絶な肺炎を起こす人がたくさん入院してきます。

現場で実感するのは、「死なないがツライ」という中等症以上の病態になる高齢者が多いことです。ほとんどは亡くならないのですが、基礎疾患が悪くなったり、明確な後遺症を残したり、足腰が弱ってしまったりする人は少なくありません。

新型コロナと季節性インフルエンザの致死率の比較

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードに提出された資料(3,4)によると、オミクロン株と季節性インフルエンザの致死率を比較した場合、オミクロン株のほうが高かったとされています。

季節性インフルエンザの致死率は超過死亡に基づくと0.01~0.05%、レセプト情報・特定健診等情報データベースに基づくと0.09%でした。しかし、第6波のオミクロン株による致死率(報告数を基に算出)は約0.13%でした(3)。

季節性インフルエンザは、コロナ禍以前の気持ちになって考えてもらえればわかるように、多少の症状では受診しない人が多いです。また、新型コロナに関しては無症状陽性者も母数に含みます。この場合、致死率は季節性インフルエンザでは高めに、新型コロナでは低めに算出されます。

医療逼迫時には検査ができない、ワクチンの影響など、加味する因子がたくさんあるため、単純比較することに議論の余地はあるものの、イギリスにおける解析でも同様の結果が示されており(3)、季節性インフルエンザよりもオミクロン株のほうが致死率が高いというコンセンサスでよいと思われます。

ただ、当初より致死率が低くなっていることも事実で(3)(図3)、季節性インフルエンザに近づいてきた印象はあります。しかし、今はまだそのフェーズではありません。

図3.日本における新型コロナと季節性インフルエンザの推定致死率(参考資料3を元に作成)
図3.日本における新型コロナと季節性インフルエンザの推定致死率(参考資料3を元に作成)

忽那賢志医師も書かれているように(5)、次にどんな変異株が出現するのかは予想が困難で、「このまま弱毒化していくに違いない」というのは人類にとって都合のよい希望的観測に過ぎません。

まとめ

3回目のワクチン接種率が向上し、オミクロン株BA.2、さらに次の変異株に置き換わっていったとき、第7波以降がどのような形になるのか誰にも分かりません。

「ワクチンを接種しても次の変異株が出てくるのでいたちごっこだ」と批判されがちですが、接種後に明確な重症化予防効果がありますし、たとえいたちごっこであろうとベストな対策を講じ続けるしかありません。

(参考)

(1) 第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-3(令和4年3月2日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906086.pdf

(2) 第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-8(令和4年3月2日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906093.pdf

(3) 第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-1②(令和4年3月2日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906081.pdf

(4) 第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-10(令和4年3月2日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906106.pdf

(5) 忽那賢志. 新型コロナ オミクロン株の登場によって「コロナは風邪」に近づいたと言えるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220220-00282870

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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