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オミクロン株は本当にただの風邪か? 世界が警戒している理由

倉原優呼吸器内科医
photoACより

現時点でオミクロン株について分かっていること

世界的にオミクロン株の新規感染者が急増しています。現時点でオミクロン株について分かっていることは、以下のようなことです。

1.デルタ株よりも感染性が高い(実効再生産数がデルタ株の3.19倍)

2.入院頻度はデルタ株より低いとされる。重症度はデルタ株より高くはなさそうだが、患者数急増によりヨーロッパではすでに医療逼迫が懸念されている

3.免疫逃避があるが、新型コロナワクチン2回接種で重症化を抑制、3回接種でブレイクスルー感染※・重症化を抑制する効果がある

※ただしこれも長期的には効果は減衰していく

4.既存の治療薬のうち、抗体カクテル療法(カシリビマブ/イムデビマブ)の効果は落ちるが、それ以外は有効

オミクロン株は入院頻度が高いのか?

オミクロン株による新型コロナで肺炎が少ないならば、世界的に警戒されている危機感はいくぶん緩和されるかもしれません。

新型コロナで日本の医療従事者が苦しめられたのは、酸素療法が必要となる「中等症II以上」です。酸素を取り込む肺胞がやられてしまい、酸素療法や人工呼吸器を要する状況に追いやられることです。その直接的ケアにあたる看護師が相対的に不足し、これが医療逼迫につながりました。

2021年12月16日までにデンマークで同定されたオミクロン株感染者のデータが公開されています(1)。非オミクロン株患者では13万8,149人のうち2,085人(1.5%)という入院率でしたが、オミクロン株患者では1万8,480人のうち114人(0.6%)という入院率でした()。オミクロン株の入院率のほうが低いようです。

表. デンマークにおけるオミクロン株の動向(参考資料1より)
表. デンマークにおけるオミクロン株の動向(参考資料1より)

イギリスや南アフリカにおいて、デルタ株と比較するとオミクロン株の入院リスクは低いという報告が複数出ています(2,3)

ただ、世界保健機関(WHO)の12月17日の資料によれば、オミクロン株の震源地である南アフリカ・ハウテン州では、2021年第47~48週の入院は、その2週前の平均入院率より450%以上増加し、新型コロナの院内死亡が68%増加しているそうです(4)。デルタ株と比較するといくぶんましに見えますが、「オミクロン株は死者も少なく軽症」と言えるほど楽観的なデータではありません。

軽症例が多いとしても、感染者が急増すれば、医療が逼迫するリスクがあります。実際、イギリスではオミクロン株の新規感染者数が急増してしまい(図1)(5)、ロンドンでは病院を休む医療従事者が続出しているそうです。これを受けて、ロンドンでは12月19日に「重大事態宣言」が発表されました。

図1. ロンドンの新型コロナ入院患者数(参考資料5より)
図1. ロンドンの新型コロナ入院患者数(参考資料5より)

「オミクロン株は肺炎を起こしにくい」という研究

欧米では、今のところオミクロン株による患者さんで酸素療法をどんどん投与しないといけないパニック水準にはないようです。詳細な報告を待たないと何とも言えないのですが、デルタ株と比べて肺炎例が多いというデータはなさそうです。

ヨーロッパで急速に患者数が増えてまだ2週間が経過していないため、今後肺炎の症例がたくさん出てこないかどうか注視が必要です。

実験室レベルでのデータがいくつかあります。たとえば、ヒトの肺を用いてオミクロン株を感染させた香港の研究グループの実験(6)によると、オミクロン株は従来株やデルタ株とは違って気管支で複製されやすいものの、肺ではさほど複製されないことが分かりました。また、イギリスの別の研究グループにおいても、デルタ株と比較してオミクロン株では肺の細胞を傷害する度合いが軽いことが示されています(7)。

従来株やデルタ株と比べて、オミクロン株は肺炎を起こしにくいのかもしれません。肺胞は酸素を取り込む重要な場所ですが、ここが障害されにくいと、中等症II以上になりにくいと言えます。

「油断の感染」に世界が警鐘

新型コロナワクチン接種者にとっては軽症、場合によっては「ただの風邪」でとどまる可能性はありますが、現時点での毒性は未知数です。さらに、後遺症などのデータに関してもまったく分かっていません。高齢者など体力が弱っている方が感染してしまうと、これまでの新型コロナと同様、重症化する可能性があります。

大事なのは、私たちが楽観的に行動することで感染者数を増やしてしまい、いかなる術をもってしても制御できない感染状況に陥ることを避けることです。オミクロン株に関する子細が判明するまで、「懸念される変異ウイルス」として粛々と対応を続けていくべきです。

そのため、オミクロン株がもし軽症例で終わりやすい弱毒ウイルスだとしても、感染しないに越したことはないです。そのため、新型コロナワクチン2回接種に加え、適切に3回目接種をすすめていくことが重要です。感染予防効果はデルタ株ほどではないですが、明確に重症化を予防する効果があります。

なお、WHOをはじめ、どの公的機関も「オミクロン株の感染者急増による医療逼迫のリスク」について警鐘を鳴らしています(図2)。WHOのテドロス事務局長も「オミクロン株が軽症だと思い込むことは危険だ。新型コロナを過小評価すれば危険を冒すことになると、私たちはこれまでに学んだはず」と述べています。

図2. WHOなどの公的機関の見解(筆者作成)
図2. WHOなどの公的機関の見解(筆者作成)

まとめ

オミクロン株はデルタ株と比較して現時点で重症例がまだ少ないのは事実なのだと思いますが、「ただの風邪」と楽観的に解釈してしまって、どんどん感染者数が増えると、イギリスが直面しつつあるように医療が逼迫してしまうかもしれません(図3)。

図3.オミクロン株で懸念されていること(筆者作成)
図3.オミクロン株で懸念されていること(筆者作成)

デルタ株より再感染リスクが高いというデータも出てきています。あくまで相手はあの新型コロナだということを忘れずに、マスク着用、こまめな手洗い、3密を避ける、といった基本的な感染対策を続けていく必要があります。

(参考)

(1) Covid-19 Rapport om omikronvarianten. 19 DEC 2021.(URL:https://www.ssi.dk/aktuelt/nyheder/2021/status-pa-omikron-varianten-b11529-pr-191221

(2) Sheikh A, et al. (査読前論文)(URL:https://www.research.ed.ac.uk/en/

(3) Wolter N, et al. medRxiv preprint doi: 10.1101/2021.12.21.21268116(査読前論文)

(4) Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States World Health Organization HQ(URL:https://www.who.int/publications/m/item/enhancing-readiness-for-omicron-(b.1.1.529)-technical-brief-and-priority-actions-for-member-states

(5) Coronavirus (COVID-19) in the UK(URL:https://coronavirus.data.gov.uk/

(6) HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung. (URL:https://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection

(7) Gupta lab. Pre-print: SARS-CoV-2 Omicron spike mediated immune escape, infectivity and cell-cell fusion(URL:https://www.citiid.cam.ac.uk/ravindra-gupta/

(8) CDC. Omicron Variant: What You Need to Know(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/omicron-variant.html

(9) SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第4報)(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10833-cepr-b11529-4.html

(10) Assessment of the further emergence and potential impact of the SARS-CoV-2 Omicron variant of concern in the context of ongoing transmission of the Delta variant of concern in the EU/EEA, 18th update. (URL:https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/covid-19-assessment-further-emergence-omicron-18th-risk-assessment-december-2021.pdf

(11) Risk assessment for SARS-CoV-2 variant Omicron: VOC-21NOV-01 (B.1.1.529): 15 DEC 2021(URL:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1041896/15-december-2021-risk-assessment-for-SARS_Omicron_VOC-21NOV-01_B.1.1.529.pdf

※12月21日12時45分:重症化率がデルタ株とそう変わらないという見解も当時あったため、タイトルから「重症化率が低い」を削除しました。本記事のおおまかな構成はそのままです。

※12月24日12時35分:イギリスおよび南アフリカにおけるオミクロン株の入院率に関する査読前論文について追記しました。

※12月25日22時20分:アドバイザリーボードの資料を参考に実効再生産数3.19倍に変更しました。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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