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新型コロナの軽症者向け経口薬 今後期待される薬剤は

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

経口薬が期待される理由

コロナ病棟ではどちらかといえば点滴による治療が行われていることが多いです。静脈点滴のルートは、腕に針を刺して、そこに点滴製剤をつなぎ、血管の中に薬剤が滴下されているか確認します。そのぶん医療従事者の人手が必要になります。抗体カクテル療法についても、海外のように皮下注射で投与できればよいのですが、現状静脈点滴のルートを確保しなければいけません。

経口薬の新型コロナ治療薬が普及すれば、多くの患者さんが自宅で治療できるため、医療逼迫の軽減につながるかもしれません。また、早期治療によって重症化を防ぐことができるかもしれません。そのため、現在軽症例に対する経口薬が期待されているのです(図1)。

図1. 新型コロナの治療薬(筆者作成)
図1. 新型コロナの治療薬(筆者作成)

臨床試験がすすむ軽症者向け経口薬

現在臨床試験がすすめられている経口抗ウイルス薬はたくさんあります。特にメルク社のモルヌピラビルとロシュ社のAT-527は臨床試験も大詰めであることから、早期承認が期待されています()。

表. 現在臨床試験がすすめられている軽症向け経口抗ウイルス薬(筆者作成)
表. 現在臨床試験がすすめられている軽症向け経口抗ウイルス薬(筆者作成)

経口抗ウイルス薬の主な作用機序は、「RNAポリメラーゼ」や「3CLプロテアーゼ」という酵素を阻害して新型コロナウイルスが増えないようにすることです(図2)。ウイルスが増えるために必要な材料を、なくしてしまうのです。

図2. 新型コロナに対する経口治療薬の主な作用機序(筆者作成)
図2. 新型コロナに対する経口治療薬の主な作用機序(筆者作成)

ファビピラビル(商品名:アビガン)はどうなった?

代表的なRNAポリメラーゼ阻害薬であるファビピラビルについては、現在も一部のコロナ病棟で使用されていますが、点滴の抗ウイルス薬であるレムデシビルが使用できない場合に絞られてきた印象です。2020年に中間解析によって、専門家から「承認は時期尚早」と評価されたままで、現在もいまだ承認されていません。

国内の中等症Iに対する臨床試験では、ファビピラビルを内服することで、「体温、酸素飽和度、胸部画像所見の改善、新型コロナPCR2回連続陰性」のどれかが達成されるまでの期間に有意な改善がみられました(1)。しかし、体温や酸素飽和度など臨床医にとって重要と思われる指標を個別にみると有意差はありませんでした。その他、ファビピラビルを内服しても、臨床的改善までの期間に影響はなかったという否定的な報告もあります(2, 3)。

現在、発症早期の新型コロナを対象として企業治験が実施されています。恐らくその研究できちんとした結論が出るのではないかと思っています。

メルク社
メルク社写真:ロイター/アフロ

期待されるメルク社のモルヌピラビル

現時点で、期待されている薬の1つがメルク社およびMSDのモルヌピラビルです。ファビピラビルと同じく、RNAポリメラーゼ阻害薬です。現在日本でもモルヌピラビルの第3相試験が進行しています。アメリカの研究では、プラセボよりも新型コロナウイルス量を減少させる効果が示されています(4)(ただし査読前論文)。

今秋にはモルヌピラビルの第3相試験(5)の結果が判明して、年内にアメリカにおいて緊急使用許可を取得するのではないかと言われています。

また、同社は「ウイルス曝露した濃厚接触者が内服すると、その後の発症を抑制できる」という可能性についても臨床試験をすすめています(6)。

現在用いられている抗体カクテル療法も、ウイルス曝露直後に投与することで発症が抑えられる効果があり(7)(ただしこの用法は日本では未承認)、今後「まだ感染していないが将来の感染を防ぐ」目的の薬剤が増えると嬉しいですね。

国産の治療薬はどうか?

ファビピラビル以外の国産の治療薬としては、塩野義製薬のS-217662という経口抗ウイルス薬が期待されています。冬までに第2相試験を終了して年内の申請を目指しています。一から創製された薬剤の臨床試験には本来年単位を要することが多いのですが、短期間でここまで到達できたことに、驚きを隠せません。

イベルメクチンは厳密には抗ウイルス薬ではなく抗寄生虫薬で、いくつか比較試験やメタ解析(8)がありますが、高いエビデンスレベルでの有効性はまだ証明されておらず、現時点では国際的にも使用は推奨されていません(9,10)。現在臨床試験がすすめられています。

※2021年9月19日21時30分:表. ファビピラビルの「申請」について「見送り」を「承認見送り」へ修正

※2021年9月26日22時40分:表. ファビピラビルの「開発状況」について「第3相」を「第2/3相」へ修正

(参考)

(1) Shinkai M, et al. Infect Dis Ther. 2021 Aug 27;1-21.

(2) Bosaeed M, et al. Infect Dis Ther. 2021 Jul 28;1-17.

(3) Szabo BF, et al. Geroscience. 2021 Sep 3;1-9.

(4) Fischer W, et al. medRxiv. 2021 Jun 17;2021.06.17.21258639.

(5) Efficacy and Safety of Molnupiravir (MK-4482) in Hospitalized Adult Participants With COVID-19(URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04575584

(6) MOVe-AHEAD研究 (URL:https://merckcovidresearch.com/move-ahead/

(7) FDA authorizes REGEN-COV monoclonal antibody therapy for post-exposure prophylaxis (prevention) for COVID-19(URL:https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-authorizes-regen-cov-monoclonal-antibody-therapy-post-exposure-prophylaxis-prevention-covid-19

(8) Popp EM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Jul 28;7(7):CD015017.

(9) Therapeutics and COVID-19: living guideline(URL:https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2021.2

(10) IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19(URL:https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-treatment-and-management/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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