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新型コロナが災害級に 関東の医療逼迫が過去最悪

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

新型コロナが災害級に

東京都の現感染者数が未曽有の事態となってきました。自然災害のニュースも大事ですが、医療現場としては新型コロナのほうが災害級になりつつある現状です(図1)。とうとう、救急医療などの周辺医療に影響が出始めてきました。

図1. 東京都の感染者内訳(筆者作成)
図1. 東京都の感染者内訳(筆者作成)

救急医療・集中治療のリスク

医療の逼迫度合いは第4波のときと同じく地域差がかなり大きいのですが、第5波は関東都市部での医療逼迫が深刻になってきました。新型コロナの患者さんがすぐに入院できないだけでなく、通常の救急医療に差し障りが出てきています(図2)(1)。

図2. 新型コロナによる医療逼迫(筆者作成)
図2. 新型コロナによる医療逼迫(筆者作成)

8月10日、東京消防庁から「非常編成した救急隊を含め、本部機動救急隊がすべて出動している」と通達が流れました。これは、言い換えれば「救急車を呼んでも搬送困難になりうる」ということです。都内の救急医の多くが、「こんな現象を初めて見た」と言っていました。

都内の救急を扱っている病院のいくつかにヒアリングをおこなったところ、血圧や呼吸状態が悪くて3次救急が必要であっても、多くが断らざるを得ない状況にあり、搬送できない救急隊員が苦肉の策として他府県への搬送、あるいは2次救急扱いにして病院を探しているとのことでした。それでも見つからないケースもあるそうです。

実際、5つ以上医療機関に断られるか、20分以上待機を要する「東京ルール」の適用件数は過去最多の水準になっています(図3)。

図3. 「東京ルール」適用件数(筆者作成)
図3. 「東京ルール」適用件数(筆者作成)

第4波のときに、大阪府の大学病院がおこなったように、ほとんどの集中治療室(ICU)を新型コロナ専用に変えて、高次機能病院の役割を一時中断するという事態が起こりかねません。

また、このまま新規感染者数の増加がおさまらないと、集中治療に慣れていない軽症・中等症病床で人工呼吸器装着患者さんを診る事例が、右肩上がりに増えてくるかもしれません。

産科医療のリスク

デルタ型変異ウイルスは若い年齢層に牙をむきます。熱と咳が出る程度で医療が必要ない人は療養のみでよいですが、懸念されるのは妊婦の陽性例です。

妊娠中に新型コロナに感染すると同世代の女性よりも重症化しやすいため、デルタ型変異ウイルスが相手だと、ICUでの管理が必要になるリスクが高くなります。赤ちゃんを助けるために帝王切開に踏み切ることがありますが、早産を余儀なくされた赤ちゃんは、今後いろいろな障害と戦わなければいけない可能性があります。

8月11日、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、「ワクチンは、妊娠中、授乳中、現在妊娠しようとしている人、将来妊娠する可能性のある人を含む12歳以上のすべての人に推奨されています。妊婦は、非妊婦と比べて新型コロナで重症化する可能性が高いと言われています。新型コロナワクチンを接種することで、新型コロナによる重症化を防ぐことができます。」というコメントを公開し、すべての妊婦に対して新型コロナワクチンの接種を推奨しました(図4)(2)。接種を受けた妊婦のうち、流早産が起きた割合は接種を受けていない場合と同等で、接種による影響は確認されないとしています。

図4. CDCの推奨(CDCウェブサイトより[参考資料2])
図4. CDCの推奨(CDCウェブサイトより[参考資料2])

医療逼迫によって妊婦がさらされるリスクを考慮すると、「接種しても接種しなくてもよい」ではなく、妊婦や赤ちゃんのために「接種すべき」と私自身も考えております。

在宅医療のリスク

現在自治体や医師会が積極的にすすめているのが、自宅療養における訪問診療です。しかし、地域のクリニックは普段から訪問診療をおこなっている上に、ワクチン接種業務の上乗せで忙殺されており、さらにここに新型コロナの訪問診療をおこなうということになります。

訪問診療にかかる業務負荷が、2倍どころでは済まないのです。

普段から訪問診療に慣れている医師は開業医の中でも少数派であり、自治体や医師会から訪問診療を依頼されて、初めて経験するのが新型コロナというのはいささか現実的とは言えません。そのため、「当院も診ます」と手を挙げてくれるクリニックはそこまで多くないのが現状です。

そのため、自宅療養している新型コロナの患者さんで、酸素投与が実現できている患者さんはまだわずかです(3)。

波の高さが予測できない

ワクチンを接種した人はほとんど入院していないため、コロナ病棟には、若年~中高年の患者さんが多いです。当院の第5波におけるコロナ病棟の入院患者さんの平均年齢は46歳です。

多くの専門家がシミュレーションをおこなっていますが、これまでのコロナ病棟で経験してきた年齢層とは異なることから、今後どのくらい波が高くなり、どのくらい自分たちの業務に負荷がかかるのか予測しにくいのも事実です。

とはいえ、実効再生産数がようやく減少に転じてきました(4)。多くの医療従事者は、「今がコロナ禍の最悪期に違いない」と疲弊した心を奮い立たせている状況です。

(参考)

(1) 手術延期・救急搬送困難・受診控え 「新型コロナ以外」の医療が直面する医療逼迫の真実(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210807-00251902

(2) COVID-19 Vaccines While Pregnant or Breastfeeding(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.html

(3) 新型コロナ自宅療養中に酸素吸入が必要になったら 呼吸器内科医による解説(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210808-00252121

(4) 新型コロナウイルス国内感染の状況(東洋経済オンライン)(URL:https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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