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明確な新型コロナ「第5波」入り 医療逼迫は起こるのか

倉原優呼吸器内科医
(写真:rei125/イメージマート)

デルタ型変異ウイルスが猛威をふるう

東京都では4度目の緊急事態宣言が発令されており、東京オリンピック開幕が目前に迫っています。現在、関東圏で猛威をふるっているのはデルタ型変異ウイルスと思われます。これについては忽那先生の記事を参考にしてください。

■インドから広がったデルタ型変異ウイルス 感染力、重症化リスク、ワクチンの効果について (URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210711-00247279/

第4波でもかなり地域差がありましたが、どうやら第5波もこの傾向がありそうです。第4波では関西圏・沖縄・北海道が厳しい医療逼迫に陥りましたが、第5波の舞台は関東圏になるかもしれません。というのも、すでに関東で第5波の明確な立ち上がりが観測されているからです。東京都の新規感染者数の増加により、すでに自宅・宿泊施設での療養者と軽症中等症の入院患者数が第5波を形成し始めています(図1)。

図1. 2021年7月14日時点における東京都の自宅・宿泊施設療養者数および軽症中等症入院患者数(筆者作成)
図1. 2021年7月14日時点における東京都の自宅・宿泊施設療養者数および軽症中等症入院患者数(筆者作成)

大阪ではこうした動きはまだ目立っておらず(図2)(じわじわ増えていますが)、私の勤務する病院のコロナ病棟も、まだ医療逼迫とはほど遠い圏内にあります。このように、すでに地域差が出始めています。

図2. 2021年7月14日時点における大阪府の宿泊施設療養者数および軽症中等症患者数(筆者作成)
図2. 2021年7月14日時点における大阪府の宿泊施設療養者数および軽症中等症患者数(筆者作成)

関東圏に住む医師から聞こえてくるのは、「だんだん入院患者さんが増えてきた」「波が来ているのを実感する」という声です。ワクチンの効果があるのか、高齢者の入院は少なくなっているものの、糖尿病や肥満を有する中高年の入院が多く、また若年者でもデルタ型変異ウイルスの影響もあり、肺炎症例が多い状況です。

ここから先、重症病床が逼迫しないかどうか注視する必要があります。

関西圏の悲劇が関東圏でも起こるのか

関西圏の第4波はアルファ型変異ウイルスによって未曽有の医療逼迫に陥りました。①重症病床が早期に満床になってしまい、②そこに転院できなくなった重症患者さんを軽症中等症病床で管理せざるを得なくなり、③軽症中等症病床にさえも救急搬送ができなくなってしまった、というのが主な理由です。

■大阪府コロナ第4波、医療現場はどうなっているのか? 医療逼迫の原因、対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210429-00235077/

関西圏の第4波で起こった医療逼迫(筆者作成)
関西圏の第4波で起こった医療逼迫(筆者作成)

「重症病床の想定が甘かった」という批判をよく耳にします。結果的にはその通りなのかもしれませんが、少し後出しじゃんけん的かな・・・と思います。大阪府は、重症者が増える想定を早期から立てて、コロナ重症センターなどを2020年初夏から計画して先手を打ってきましたが、それをはるかに超える重症患者数が発生したわけです。

重症病床というのは集中治療管理のことです。人工呼吸器やECMOを装着して、多くの医療従事者で一人の患者さんと向き合う病床です。

■新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

上のコラムでも書きましたが、新型コロナの肺炎になり、酸素を吸入して点滴を受けている患者さんは、「重症」ではありません。軽症中等症病床で管理可能なレベルです。命を救うための病床が重症病床なのです。

そのような特殊な病床を源泉のごとく生み出せるほど医療従事者の数は足りていませんし、それ以外の救急医療や外科手術などを完全にストップさせるわけにはいきません。

新型コロナワクチンにかかる期待

新型コロナワクチンの接種がひろまり、全体の重症患者数抑制には一定の効果があるものと期待されますが、デルタ型変異ウイルスの重症化リスクについては、中高年以降だけでなく若年者でも高くなっています。第4波で関西圏を苦しめたアルファ型変異ウイルスと比べて入院リスクは約2倍高いとされています(1)。

新型コロナワクチンの普及とデルタ型変異ウイルスの猛威の綱引き(筆者作成)
新型コロナワクチンの普及とデルタ型変異ウイルスの猛威の綱引き(筆者作成)

新型コロナワクチンとデルタ型変異ウイルスの綱引きは、2回接種すれば新型コロナワクチンに軍配が上がると思われますが(2,3)、両者の"速度"が綱引き状態にあるため、集団免疫にいたっていない現時点では、「重症病床がまったく埋まらないすごいぜ新型コロナワクチン!」という希望的観測は持つべきではありません。

新型コロナによる医療逼迫は、結局のところ感染者数の多さに比例しますので、この裾野にある新規感染者数をいかにおさえるかにかかっています。

新型コロナウイルスは弱毒株が優占的にならずに、変異がすすむにつれて、元株よりも感染性や重症化リスクが高くなるという奇怪な病原微生物です。ヒトに複数系統のウイルスが侵入して組み換えが起こるのを防ぐため、現状のワクチン接種状況に鑑みると、3密を形成する機会は否が応でも避けなければいけません。

個人的には、かなり早期に緊急事態宣言を出したことは正解だと思います。ただ、緊急事態宣言慣れしてしまった国民に対して、この4回目の施策に効果があるのか、不安が残ります。

市中にはワクチンを接種していない人がまだまだたくさんいらっしゃいます。変異ウイルスは今後未接種者を中心にどんどん感染していくと思われますので、特に基礎疾患があるハイリスクの人にすみやかにワクチンが届くことが重要です。

(参考)

(1) Sheikh A, et al. Lancet . 2021 Jun 26;397(10293):2461-2462.

(2) Lustig Y, et al. Euro Surveill . 2021 Jul;26(26). doi: 10.2807/1560-7917.ES.2021.26.26.2100557.

(3) Choi A, et al. bioRxiv, doi;https://doi.org/10.1101/2021.06.28.449914

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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