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働きづらい若者に「市民委員」という道を

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
市民委員は公募されています(出典:広報たちかわ2022(令和4年)4月25日号)

就職支援だけでは働けない

働きたいけれど働けない若者に就労への機会や環境を提供する認定NPO法人育て上げネットには、さまざまな事情で働きづらさを抱えている若者が来ます。

若者たちのなかには、毎月のシフト、毎日の決まった時間、決められた業務を安定して行うことが難しい時期があります。

電車やバスでの移動によるストレスが強くあったり、職場に怒鳴り声や、強い叱責があるだけで、それが自分に対してでなくても、気持ちが不安定になることもあります。

精神的にも、身体的にも、不安定な状態になることは誰にでもありますが、雇用する側はできるだけ安定して働いてくれるひとを望みます。

そのような若者に対して「就職」一辺倒の支援は、茨の道を駆け抜けさせるようなものであり、また、すぐに就職することが難しい状況、状態であれば、就職支援のプログラムに参加することそのものがストレスになります。

そのひとに合った「働く」を考える

就労支援は、そのひとに合った「働く」を一緒に考え、その実現のために伴走する行為です。

就労には就職も含まれますが、働くことをもう少し広くとらえています。正社員がもっとも安定した働き方かもしれませんが、現時点で雇用されることや、正社員で働くことが難しい若者には、いま無理なくやれそうなことを一緒に考えていきます。

ネット上には、さまざまな形で収入を得ているひとたちがいます。才能や努力によって、十分な収入を得られるひともいますが、安定した収入、生活の見通しが立つこと、法律などで守られながらキャリアを積み上げる視点では、しっかりした雇用契約によって働ける方が安定します。

しかし、安定して働けることと同じくらいそのひとが安定していることも大切です。無理に就職をして心身が不安定になってはよくありません。

さまざまな働く選択肢や収入の可能性を模索しながら、心身の安定を脅かさない環境の土台を作ることが大切だと考えています。

市民委員という選択肢

毎月、自宅のポストに届く「市報」はご存じでしょうか。若い世代で、地元自治体の広報誌に目を通す人は少ないかもしれません。

市政への関心はなく、地域イベントに興味がないという若者もいるでしょう。そのため「市民委員」という言葉を聞いたことがないひともいると思います。

市民委員とは、上記の審議会等において、広く一般から公募され、委嘱された委員又は選定された構成員のことをいいます。 (つくば市役所Webサイト

自治体では、審議会等を通じてよりよい地域にしていくため、さまざまな施策について住民の意見や視点を求めています。自治体によりますが、公募枠や募集人数を積み上げるとかなりの数があります。

市民委員の条件は、概ね、18歳以上で市内在住、在勤、在学者などとされており、1年から2年くらいの任期となります。条件に当てはまれば誰でも応募することができますが、あるテーマに対して作文を求められることが多いです。

作文は800字前後が多く、報酬(謝金)額はバラつきがあります。一回あたり5,000円から10,000円前後(記念品や無報酬もあります)で、開催数は年数回程度です。

あくまでも公募ですので採択、不採択はありますが、在住者や在勤者・在学者から意見や提案を求めるという意味においても、また、さまざまなテーマ・領域で公募があるという意味においても、自らの関心に近いものを選択できるところは魅力的です。

ネットに「市民委員」「公募」と、自治体名を入れると比較的容易に見つけられます。公募時期や期間がまばらなため、もっともいいタイミングで情報が得られる媒体として毎月2回程度、自宅のポストに届く市報がよいと、私は考えています。

頻度が限られており、一回が2時間程度、報酬額もそれなりですが、毎日、毎月安定していないと困るものではなく、また、働くことに関しての施策であれば、「働きづらさ」のある市民の声は、自治体としても有意義な意見ではないでしょうか。

自治体は、幅広い分野・領域について施策検討・実施をしており、よりよい地域にしていくためにも、市民の参画は重要なテーマなはずです。平日日中もあれば、働いているひとも参加しやすい時間帯に開催するものもあります。

市民委員は、本来、地域をよりよくするための存在です。そこに参画することで、どのような視点で、何を重要視して施策を作っているのかがわかります。

また、「そこはもう少しこういう配慮が必要ではないか」という、市民としての自分の意見を反映させ、自分だけではなく、自分と同じような悩みや困りごとを抱えているひとたちを支えることにもつながります。

市民委員が誰なのか網羅的にまとめられている情報はなかなか見つからないのですが、私が見聞きしている範囲では、比較的年を重ねられた方が多いです。

一方、若い世代が「市民委員」の存在を知り、たくさんの手があがることで、バランスの取れた意見が集まることは、高齢者にとっても若い世代にとっても、暮らしやすい地元を作ることにつながります。

働く選択肢は多様であっていいと思います。報酬(謝金)があるということは、時間のみならず、市民としての意見を提示する仕事として価値づけしているはずです。

新年度となり、「市民委員」の公募も比較的出てくる頃ですので、地元の自治体について調べてみるところから始めてはいかがでしょうか。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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