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4月1日から居場所を失ってしまう方へ

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
社会的な所属を失いやすい4月1日、居場所の確保が重要(写真:イメージマート)

4月1日から社会的な所属が失われる

新年度を迎え、学校での学年があがる、新しい教育課程に進学する、また、担当部署の異動や、新しい職場で働き始める方々がたくさんいます。

その一方、卒業や中退、退職などを決断しながらも、進学先や就職先が決まっていない方にとっては、4月1日以降についてどうしていくか悩んでいる方もいると思います。同様に、4月1日から現状を変えようと心に決めながらも、新たな環境に一歩踏み出すのが不安という方もいるでしょう。

過去、育て上げネットで支援した、就職先が決まらないまま4月1日を迎えることになった若者がこんなことを話していました。

これまでは「〇〇高校〇年の工藤です」や「〇〇株式会社の工藤です」というように、自分が所属していたコミュニティとともに自己紹介して、自分の存在を伝えてきました。その世界が突如なくなってしまったことが、とても不安で恐ろしいです。

日常生活において、物価高騰やエネルギー価格など、必要な費用は高いままで推移しています。社会環境が不安定になり、日常の安全が脅かされやすいなか、少なくない方が上述の若者のように、居場所(社会的所属)を失った状態で4月1日を迎えます。

社会的所属、安心できる居場所が家庭にも地域にもない若者や子どもたちとかかわるなかで垣間見るのは、一時間後、明日、来月の予定がまったくなく、友人や知人と会う約束もない。収入や貯金もない状況において、本人が意図しない形で、本人が望まない形で、孤立・孤独に陥ってしまうことです。

4月1日以降に居場所がなくなり、いまからどうしたらいいのか不安がある場合、これだけはしておいてほしいというものを、支援現場の視点で書きたいと思います。

少しでもいいので収入を確保する

仕事を得るために就職活動を継続される方は、できるだけ早く就職するための活動時間を確保したい気持ちになるかもしれません。しかし、毎月の収入が途切れてしまうことは、日々の生活が支出だけとなり、とても不安になるものです。

就職活動には交通費などがかかり、一回一回は少額であっても、積み重なれば大きな費用となります。目減りする預貯金を前に、就職活動の範囲を制限せざるを得なくなるかもしれません。オンラインでの面接なども増えていますが、スマートフォンやパソコン、ネット回線の費用などもかかってきます。

就職活動に集中したい気持ちは理解できますが、アルバイトにせよ、短期単発の仕事でも、不要なものをフリマアプリなどで販売するにせよ、少しでも収入があると、生活面でも、メンタル面でも不安を少なくすることができます。

自分が納得のいく仕事と出会うための余裕を持つためにも、収入の確保は大切です。

自分の状況を周囲に伝える

社会的な場所が限定されると、自然に他者と出会う機会が少なくなります。特に学校や職場がなくなると、友人や知人、同級生や職場の同僚とのコミュニケーション、部活や企業活動を通じて生まれる関係性もなくなります。

仕事をしながら、誰かと起業や転職についての話はしやすいですが、無業(無職)状態から働く先を探しているという話は、近しい存在に対してこそ言いづらい、恥ずかしいという若者もいます。

育て上げネットが無業の若者に対して行った調査では、無業になると2人に1人が「人が怖い」と回答、無業期間が長くなると、対人不安が高まっていくことがわかりました。

参考: 人が怖くなる前に(工藤啓) - Y!ニュース

新年度になってもまだ就職活動を続けている自分について、周囲に話すことは気が引けるかもしれません。しかし、労働供給制約社会と言われる、人手不足で働き手が足りてないという企業の声があふれています。若者への就労支援をする私たちのもとにも、たくさんの企業から働き手を求める話が来ています。

これまでお世話になった先生や取引先の方に、新年度の挨拶とともに現状を伝えてみる。しばらく会って話をしていなかった友人や知人に声をかけてお茶に誘ってみるなどはいかがでしょうか。

言いづらいことは承知していますが、いまの自分の状況や、何を求めているのか、どんな機会を探しているのかを伝えることで、有意義な助言や情報をいただけるかもしれません。

なかなか連絡することに踏み出せない方は、相手の誕生日や(少し先ですが)暑中お見舞いなど、自然に一報できる機会を活用することもできます。

気分転換になるものを見つける

YouTubeで動画を公開しているある男性は、「好きな情報を動画にして公開しています。いつの間にか少しだけお金が入るようになりましたが、それがあってもなくても、動画編集に集中しているときは楽しい」と言っていました。

社会的所属がなくなると、ひとりの時間が増えやすくなります。不安や焦燥感が募りやすい状況で、次の進路を決めることに向き合い続けると苦しくなることがあります。

そのため気分転換になるものを見つけることで、少しでも不安が和らいだり、何かの達成感を味わえたりすることも重要です。

動画編集のように、外に出したい情報があったり、スキルが必要なものばかりではなく、ジョギングでも、ゲームでもよいと思います。これまで読もうと思って読んでいなかった書籍や、気になっていたアプリを触ってみるなど、自分のためだけにうまく時間が使えるものを見つけてください。

支援機関を探してアクセスしてみる

ハローワークや公的な支援窓口では、相談のプロフェッショナルが応対してくれます。個別相談であれば限られた時間かもしれませんが、講座やワークショップなどもありますし、オンラインを使って話ができるものも増えています。

参考

地域若者サポートステーション(厚生労働省)

生活困窮者自立支援制度(厚生労働省)

具体的にどのような支援制度やメニューがあるのかを知るだけでもよいと思いますが、相談予約などをすることで、スケジュール帳に予定が入ることや、いまの不安を吐露できる機会を作っておくことで、先々の不安軽減にもつながり得ます。

すぐに役に立つものがあるかどうかはそれぞれの状況や悩み事次第ですが、「誰かに話をする」ということは、一時的にせよ安心感につながったり、不安を低減できたりする可能性があります。

育て上げネットでは、ご家族のための相談支援や、若者のための就労支援、夜の居場所「夜のユースセンター」などの運営を行っていますが、地元では相談しづらいという若者の声もあります。対面、オンラインは公共のみならず、民間団体でも相談窓口を持っています。

参考

ステップキャンプ(認定NPO法人育て上げネット)

ユキサキチャット(認定NPO法人D×P)

あなたのいばしょ(NPO法人あなたのいばしょ)

アトオシ・オンライン(認定NPO法人育て上げネット)

かくれが(NPO法人自殺対策支援センターライフリンク)

私は民間NPOの立場ではありますが、身の上話を他者にする際には不安がつきまといます。民間企業・団体はそれぞれの考え方をもとに独自の取り組みをしていますので、必ずしも自分にフィットするかどうかはわかりません。

まずは公的・公的民営機関の利用から始めることをお勧めします。

居場所を失ったとき、不安や悩みを打ち明けることへの抵抗感は誰にでもあるものです。つらい経験を誰かに伝えることも簡単ではありません。そのため、孤立しないよう、誰でも構わないのでつながりを作りましょうとは言えません。

それでも、安全性が担保されていると思えるところからつながりを作っておくことは、意図せぬ孤立環境を軽減し得るだけではなく、自分ひとりでは把握しきれない情報の獲得や、それらを適切に整理して次にどうするか決めていくサポートになることがあります。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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