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新しい夏休み 子どもには「さらっと、短く、何度でも」を大切に

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
子どもの不安も、親の戸惑いも、安全・安心な場で相談してみる

新しい夏休みが始まっています。コロナ禍の影響により、これまで当たり前であったことを当たり前のままにしていいのか。大人の迷いや戸惑いは、子どもたちにも伝わっています。

学校の始まりと終わりが曖昧になり、恒例行事も縮小や中止が相次ぎました。それでも親は家庭内で新しい日常を作ろうとしています。しかし、親も人間です。自分たちも不安のなか、我が子が安全に、健やかに過ごせる環境づくりに疲れてしまった親の姿が相談現場にあります。

子どもの将来相談窓口「結(ゆい)」にも、過去に例のないほど、親から家庭や子育てに関する相談が来ています。夏休み前に、そして入ってからも相談依頼は途絶えません。

学校が再開し、親も子どももバタバタしながらも取り戻した日常が、夏休みを機に再び家族だけの関係性になりかけています。子どもたちも親も、新しい夏休みへの心の切り替えが難しくなっている様子も散見されています。

一学期は授業を開始することが目的になるほど、学校関係者はチャレンジの連続だったように思います。私も長男と次男が小学校に通っていますが、学校の先生と話をするとそのご苦労がよくわかりました。先の計画が立てづらいなかで、方針が次々と変わってしまう。授業の遅れを取り戻す方法も共有されておらず、方針そのものが目まぐるしく変わるようです。

さらっと、短く、何度でも

中学一年生の不登校の母親は、ゲームばかりで学校に行こうとしない子どもに疲れてしまっていました。相談では、子どもには学校に行ってほしいが、それにもましてゲームをやり続けることが許せなくなりました。

いつの間にか、ゲームをやめるのであれば学校に行かなくてもいいとすら考えるようになっており、ゲーム以外のことであれば子どもは言いたい放題やり放題であってもよい状況にまで陥っていました。

ゲームの注意が長くしつこくなってしまうため、子どもは「またか」と心を閉ざして時間が過ぎるのを待つようになりました。一度スイッチが入ると止まらないひとなのだ、と子どもに受け止められてしまっています。

ゲームをやめない子どもを持つ、ゲームをやめさせられない、学校に行かせられない自分へのふがいなさに疲れてしまった母親は、夏休みに入る前にオンラインで相談することを選択しました。

ここで結の相談員が伝えたのは、子どもとかかわるときは「さらっと、短く、何度でも」です。長時間ゲームをしているのであれば、どうしてゲームを長時間してはいけないと考えているのか、その意図を明確にすること。そして、ダメならさっさと引き上げる。その代わりに、何度か注意を繰り返すことでした。

母親がゲームの時間を決めても、隠れてやってしまうこともあります。まずは本人に希望するゲーム時間を言わせて、見守ることから始めました。

当初のゲーム希望時間は14時間でした。母親は疑心暗鬼になりながらも、一週間やらせてみることにしました。ゲームの時間に制限をつけない代わりに、ゲーム中にお菓子を食べないという約束は譲らないことにしました。お互いに要求を承認し合う形式を選択したのです。

ゲームの時間はすぐに減ったわけではありません。あるとき、ふと子どもから勉強についての話がありました。中学校に行くことができていない間に勉強が遅れてしまっているのではないか。どうしたらいいだろうか。勉強に関して子どもから素直な相談があったことに母親は戸惑いましたが、それだけの信頼関係が再構築されていたためだと考えられます。

母親は、勉強の助けを求めてきた我が子とどうしたらよいかを一緒に考えるようになりました。勉強の遅れを取り戻すには、それだけの時間を作り出す必要があります。その話し合いはこれからするそうですが、どうしたらその時間を確保できるのかは本人が一番よくわかっているのではないでしょうか。

学校の先生とうまく話し合いができない

冒頭でも書きましたが、学校の先生も大きなストレスのなかにあります。また、学校には家庭とは異なるシステムがあり、価値観が存在します。子どものことを中心にしながらも、学校の先生とうまく話し合うことができれば、子どもにとって適切な環境が少しずつ整えていけるはずです。親も先生も子どもを大切にする存在同士ですから。

慢性疾患を抱えた小学校3年生の母親から相談がありました。外見からは疾患が見えづらいのですが、体育など激しい運動を要するときはときどき休む必要があります。学校からは、ほかの生徒から怠けているように見えてしまうと嫌味を言われ、子どもが登校を渋り始めてしまったそうです。

父親も父方の親戚も、母親を過保護だと攻め立ててしまうため、母親は憔悴していました。

結の相談員の助言は基本から外れないものでした。それは担任の先生に主治医の話を聞くテーブルについてもらえるようにすることです。ただ、これまでもお願いはしており、なかなか首を縦に振ってもらえませんでした。

そこで、先生の上長にあたる先生にもお願いすることを提案しました。

学校のシステム変更を迫るのではなく、どうしたら家庭と学校が共存できるのか一緒に考えてほしいというスタンスを取ることになりました。さまざまな可能性の中でも、母親が選んだのは最短で子どもの環境を準備したいという希望と、親と担任の先生が対立してしまう構図は子どもにストレスをかけてしまいかねないリスクを回避するためです。

その際、ひとりでは心細いかもしれないですが、父親が母親に対してネガティブな姿勢を持っているため、最初は母親だけで動くことにしました。もし、学校の先生が協力してくれることになったときには、父親にも力を貸してもらおうと決めました。

上長は、母親の提案に快く賛同してくれました。これによって担任の先生も、上長の許可があるので主治医の話を伺いたいというのです。後からわかったことですが、担任の先生は、上長からの許可は得られないものだと考えていたということです。

上長、担任、母親の三者で主治医から慢性疾患の説明と対応方法を聞きました。そして、学校も親もその子の対応について協力して取り組んでいくことになりました。少しずつ環境を整えていく準備を進めているということです。

あなたとでかけたい

成績優秀な兄と、活発に行動する妹がいる高校生の次男は、4月以降、ため息ばかりをついている。とても心配だという相談もありました。本人は物静かで自己主張の少ない優しい性格だと母親はいいます。

コロナ禍で、授業はオンラインで行い、毎日大量の宿題をこなしていく生活が続いています。本人はオンラインが不得手で、レポート作成も気乗りしない様子です。学校があったときはきょうだいそれぞれに生活していたが、登校がなくなったことできょうだい3人がずっと自宅にいる状況になっています。

本人は元気がなく寝てばかりの生活になったことを両親は心配していました。どうしてもいまの生活では、何かをするにしても家族全員がひとつのまとまりとなります。しかし、本人の性格や生活状況を聞く限りでは、母親と本人の二人の時間を作ってみるのがよいのではないか、と結の相談員は提案しました。きょうだいが全員いるところでは、悩みがあっても言わないだろうと推察したからです。

しかし、高校生ともなれば、いきなり親から二人でどこかに行こうと提案されれば身構えてしまいます。そこで相談員と母親は、本人が幼少期に好きだった場所にでかけ、近くにあるおいしいと評判のカフェでケーキを食べるのに付き合ってほしい、と本人にお願いしてみることにしました。

当初、母親からの提案に怪訝な表情とともに拒否されてしまいました。しかし、三度目の誘いで、本人は渋々つきあうことを了承してくれました。

その後、少し元気が出てきた様子でしたが、親子で話す頻度があがったわけでもなく、普段の生活に戻りました。ただ、それ以来、母親から少しずつコミュニケーションを取ることに反応してくれるようになったといいます。

あまり変わった様子を見せなかった本人が、あるとき母親にちょっと学校の先生に相談してみたいことがある、とつぶやきました。母親は、「助けが必要だったらなんでもするよ」とだけ伝え、それ以上は深く介入しないようにしています。

母親からは、その後どうなったのかについてはまだ話を聞いていません。しかし、他のきょうだいと一緒ではなく、二人だけの短い時間を過ごせたことは「あなたとでかけたい」という母親の言葉がきっかけです。

あなたたち、ではなく「あなたと」というメッセージは、ときに忘れがちになりますが、家族がより密接して暮らすいまのような状況ではとても大切に使うコミュニケーションの方法だと思います。

※ここで紹介したのは個別の事例です。家庭の状況によって対応は異なります。ご了承ください。

子どもの不安より、自分の不安を

これまで経験したことのない日常の変化によって、子どもたちはもちろん、親もまた不安のなかで暮らしています。そして、その不安の強弱はひとによって違いますが、ご自身の不安が強いと思われるときには、お子さんよりもまず親がその不安を誰かに吐露してみるのが先決です。

子どもの将来相談窓口「結(ゆい)」では、コロナ禍以前よりオンラインでの相談を行っています。しかし、それまでオンライン相談のニーズは、なかなか対面相談の場に来ることができない遠方にお住まいの方や、海外在住の親が大半でした。

しかし、コロナ禍以降は、対面での相談だけでなく、オンラインでの相談希望者も増えました。対面および、相談の場への移動が不安ということもあるでしょうし、さまざまなものがオンライン化したことで、慣れがでてきたということもあるかもしれません。

対面にせよ、電話やオンラインにせよ、ご自身のことや家族のことを誰かに打ち明けるのは勇気がいることです。ましてや民間の相談窓口は不安が大きいと思います。民間団体側である私が言うのもどうかと思いますが、まずは公的相談窓口を活用するのが安心だと思います。

文部科学省「24時間(じかん)子供(こども)SOSダイヤル

いじめやその他(ほか)の子供のSOS全般(ぜんぱん)に悩(なや)む子供(こども)や保護者等(ほごしゃとう)が、いつでも相談機関(そうだんきかん)に相談(そうだん)できるよう、都道府県(とどうふけん)及(およ)び指定都市(していとし)教育委員会(きょういくいいんかい)が夜間・休日(やかんきゅうじつ)を含(ふく)めて24時間(じかん)対応可能(たいおうかのう)な相談体制(そうだんたいせい)を整備(せいび)。

厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」ほか

電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続します。

法務省「子どもの人権110番

 「いじめ」や体罰,不登校や親による虐待といった,子どもをめぐる人権問題は周囲の目につきにくいところで発生していることが多く,また被害者である子ども自身も,その被害を外部に訴えるだけの力が未完成であったり,身近に適切に相談できる大人がいなかったりする場合が少なくありません。「子どもの人権110番」は,このような子どもの発する信号をいち早くキャッチし,その解決に導くための相談を受け付ける専用相談電話であり,子どもだけでなく,大人もご利用可能です。電話は,最寄りの法務局・地方法務局につながり,相談は,法務局職員又は人権擁護委員がお受けします。相談は無料,秘密は厳守します。

総務省「総務省行政相談センターきくみみ

総務省行政相談センター「きくみみ」では、「どこに相談したらよいかわからない」といったお問い合わせや、行政全般の相談を受け付けています

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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