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オンラインでの相談支援を阻む3つの不安

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
オンラインで相談支援を行うこと(写真:アフロ)

これまで理論も実践も対面を前提としてきた相談支援が止まりました。施設での対面相談を最小限、原則なしという判断をされたところも多かったのではないでしょうか。相談員もまた在宅ワークに切り替え、出勤者はそれでも来訪された相談者の応対を行いつつ、既存の相談者には電話やメールで対応していたところが多かったように思います。

6月に入り、施設も開所目途が立ってきたことで、改めて対面相談を再開し始めています。しかしながら、二つの観点で「オンラインでの相談支援」の可能性を模索する動きは留まっていません。

ひとつは、再び外出自粛や施設の原則閉鎖になるリスクが消えていないことです。ある程度の目途が立ったとしても、次はもうないとは誰も考えていません。もうひとつは、オンラインでも相談することはどこかで始まるだろうと考えていた相談員にとって、いまこそオンラインでの相談もできるようにしておくべきではないかという観点です。

2020年5月28日、認定NPO法人育て上げネットでは、Microsoft Teamsライブの機能を活用し、ウェビナー講座「育て上げネットにおけるオンライン支援の現状」を開催しました。主に対人相談支援を仕事とするひとたちに向けたものでしたが、平日日中に120名を越える参加がありました。

(当日のウェビナーの内容をYouTubeで公開しています)

北海道から沖縄まで全国から集まった多種多様な分野の相談支援者が集まりました。それ以外には教育関係者や行政職員なども多くおりました。

ウェビナーでは、申込者に対して事前にまとめた資料を送り、質問を集約しました。資料解説は省き、いただいた質問を整理して回答する形式を採用し、都度の質問はチャットから拾いながら答えるようにしました。

オンライン支援フロー(出典:ウェビナー事前配布資料)
オンライン支援フロー(出典:ウェビナー事前配布資料)

今回、事前質問とチャット質問を整理するなかで見えてきたのは、オンラインで相談支援を行うにあたり、大きく3つの不安ああることがわかりました。

システムに対する不安

対面相談は、目の前に相談者がいるわけですので、よほどのことがなければ情報が漏洩したり、見知らぬ第三者が聞き耳を立てるようなことはありません。相談室があればいいですし、そうでなければ間仕切りなどで外部への音漏れなどをなくせます。

また、相談用紙に手書きのところは書類を鍵のかかる場所に保存すれば安心で、パソコンに保存するにせよ、ネットにつながってなければよいと考えているようです。

しかし、オンラインで相談をするとなった場合、情報がどこから漏れるかわからず、目視で確認することは簡単ではありません。それが不安につながっているようでした。

さまざまなシステムに対する不安コメントを見ると、システム面とヒューマンエラーの面が混在しており、漠然とした不安が解消されないことに戸惑っているように感じました。

余談ですが、ある自治体とクラウドシステムの活用について合意が得られなかったことがあります。個人情報は紙をファイルに、ファイルを鍵付きの棚に。パソコンはネットから切り離しておけば安全という担当者の理解が得られませんでした。

そこでシステムに詳しい役所の職員を同席していただけるようお願いをしました。その職員は、ゼロリスクはないが、ヒューマンエラーは起こりえるし、業務の非効率性が高すぎること。そして私たちが活用しようとしていたシステムの安全性は高いと担当者に説明をしてくれ、活用が決まりました。

ひとが行う以上、ひとは間違いを起こします。それは対面でも、オンラインでも同じで、事前研修や仕組みでエラーが起こらないよう努力するしかありません。その上で、どのようなツールを使うにせよ、オンラインでの相談はゼロリスクにはなりませんので、あとは経営者なり、上司なりの意思決定になります。

そんなことは当たり前と思われる方もいると思いますが、相談現場で交わされる内容は非常にセンシティブなものもあります。個人情報が何らかの形で外部に漏れてしまうリスクは可能な限り回避すべき、という気持ちは痛いほどよくわかります。

それがゆえに、これまでオンラインでの相談は進まなかった面はあります。しかし、今回のような予測できない大きな社会変化のなかで、対面での相談支援の選択肢が奪われました。そのとき、相談員が相談者のために一歩踏み出そうとしていることは、暖かく受け止めていただきたいです。

まだ見えないリスクへの不安

オンライン支援の実際「面談実施」(出典:ウェビナー事前配布資料)
オンライン支援の実際「面談実施」(出典:ウェビナー事前配布資料)

多くの相談員は、これまでオンラインで相談をした経験がありません。そのため、対面相談では起こりえないリスクがどこにあるのかわからず、本当にしっかりと相談が可能なのか不安になります。

先に言えば、相談を受ける専門的な学習をされてきた相談員にとって、「相談をする」という行為における本質的な部分は変わりません。対面だろうが、オンラインだろうが、これまでの学習や経験で培ったものが無力化するようなことはありません。

その一方で、対面でできたことができなくなるというのは当然あります。例えば、密室性は非常に高まります。相談室では相談員と相談者の二人であっても、部屋の向こうには同僚や他の相談者がいます。

相談員と相談者との間で交わされる会話が過度に逸脱したり、その関係性が危うくなったときも、相互に時間を置いて部屋の外に出る、時間を置くなど、密室性を物理的に開放することができます。

しかし、オンラインではスクリーン越しではありますが、すぐ傍に誰かがいるということもありません。相談員と相談者が完全に二人だけの世界になってしまうのではないか。そこで何か起こった場合、第三者介入を相談員も相談者も得られないのではないかという不安があります。

育て上げネットでは、オンライン相談は原則、相談員二名体制にしています。メインの相談員が対応しますが、相談員と相談者が密室にならないよう工夫をしています。家族支援などでは、相談員がパートナーを参加させたり、他の家族も途中から加えたりすることがありますが、相談者側も複数名になることは可能です。

事前に相談員二名体制であることを伝え、これまでのところ拒否されたりしたことはありません。相談員が二人必要ということにはなりますが、密室性を回避することはオンライン相談でも可能ということです。ここは少なからずウェビナー参加者の不安を解消できる一例だったと思います。

それ以外にも、対面よりも得られる情報が少ないのではないかという質問もありました。それはその通りで、一般的には対面相談、電話相談、メール相談、SNS相談と取得できる情報量は下がっていきます。むしろ、オンライン相談は対面相談よりは取得情報は下がっても、電話やメールよりは多く取ることができます。

オンラインでの相談をしたことがないことで、さまざまなリスクが想起されるのは相談員として非常に信頼できると私は考えます。環境やツールが変れば、これまでとまったく同じようにはいきません。その際、どのようなことがリスクになり得るのかを考えられるのは、相談者のことを大切に思っているからにほかなりません。

本来はいきなり実践、初めから自宅で、ということではなく、十分な研修をしておけば、ある程度のリスクは把握できるようになりますし、不安は解消できるものと思います。もし、相談施設が開所するのであれば、いまこそオンラインで相談するための研修を施設で実施すべきですし、施設運営に管理責任を持っているひとには意思決定をお願いしたいところです。

オンラインでの相談を拒まれる不安

オンライン支援の実際「移行提案」(出典:ウェビナー事前配布資料)
オンライン支援の実際「移行提案」(出典:ウェビナー事前配布資料)

対面での相談をオンラインに切り替えます。それは状況的に仕方がないことであっても、これまで対面を希望されていた方から拒まれるのではないか。そんな不安もあるようでした。

これに対しては、オンラインでの相談をせずに、代替案をお互いに模索することで解決できます。私が知る限りでは、対面相談の代替は電話かメールです。もし、相談者がそれでよければ、電話なりで相談すればいいだけです。

一方、全体的な質問に共通するのは、オンラインでの相談を始めることでつながれる相談者が増えるかもしれないという期待より、不安が上回っていることです。

対面相談だけの場合、対面相談を希望するひとのほか、その施設に足を運ぶことができる経済的、時間的、精神的余裕があるひとに対象を狭めてしまいます。遠くに住んでいるとか、交通費が出せない。時間的な余裕を作れないひともいます。それは施設が特定の場所に固定されているからです。

逆に、物理的な距離をゼロにするオンラインでの相談という選択肢ができることで、相談しづらい、相談に躊躇するひとたちと出会えるかもしれない。そのような可能性を広げる選択肢としてオンライン相談を位置付ければ、施設全体で不安を乗り切り、十分な研修を持って、オンラインでの相談もしてみようと思えるのではないでしょうか。

オンラインでの相談を拒むひとは当然います。そのようなときに、オンラインでの相談を押し付ける相談員はいません。むしろ、オンラインでの相談をしたいけれど、デバイスや通信環境などの問題で選択肢を持てないひとに対して、いかに環境面などを提供できるかが課題になると思います。

100名を大きく超える相談員が、オンラインで相談をするにあたって不安に感じていること、懸念点を直接いただきました。その声を聞かせていただき私が感じたのは、対面相談ができなくなったとき、相談員の多くがオンラインでの相談を模索したこと。なんとか必要なひとに相談機会を作れるようご自身にも、上司や経営層、委託事業者に働きかけたことは、心から尊敬する相談員、支援者の姿です。

繰り返しになりますが、相談施設が開始されようとしているいまだからこそ、対面相談を行いながらも、オンラインでの相談もできるよう話し合い、研修をする大切な時間です。質問のなかには「上司の説得」「組織の判断」というものもありました。オンラインでも相談できることは、対面相談が不可になったときの代替案だけでなく、これまで相談窓口に来づらかった方々に道を開くことでもあります。

対面かオンラインかではなく、対面もオンラインもという相談支援にしていきたいものです。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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