もうひとつの最前線 命を支えるNPOの葛藤

自宅や居所を失うひとが出てくるが、炊き出しなどは制限される(写真提供:もやい)

新型コロナウィルス対応のため、最前線でひとと社会を支えてくださる方々に感謝します。

緊急事態宣言から、これまで以上に営業活動や外出の自粛が要請されるなか、仕事や住まいを失いつつあるひとたちを支える、もう一つの最前線があります。

日本の貧困問題を社会的に解決するために活動している認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、生活に困窮するひとたちに対して臨時の相談活動を継続しています。新型コロナウィルスの影響にともないさまざまな施策が行政から打ち出されるなかで、その周縁で苦しむ方々を支えています。その最前線の活動について同法人の理事長である大西連さんに話を伺いました。

※インタビューは2020年4月8日時点

・今回の相談支援を行うにあたり、いつくらいから動き出していたのでしょうか。

2020年3月下旬に開催された理事会では、緊急事態宣言が出される前提で議論をしていました。すでに相談が寄せられていましたが、もっと生活に困るひとが出るようになるはずだと。そこで既存事業のなかで継続する事業と縮小する事業をスタッフと議論して、体制を決めていきました。

・広く支援を呼びかけるためのクラウドファンディングの立ち上げも早かったです。(原稿執筆時点で700万円ほど集まっており、寄付の呼びかけを続けている)

資金調達のための準備はしていたが、資金需要はいくらあっても足りない(写真提供:もやい)
資金調達のための準備はしていたが、資金需要はいくらあっても足りない(写真提供:もやい)

寄付の呼びかけをクラウドファンディングで行うこと、その内容も事前に決めていましたので慌てることはありませんでした。イタリアやアメリカの状況を注視しており、スムーズに相談支援に移行する必要があると認識していたからです。特に最初の一週間に山がありますので、その時点で寄付集めの準備などは済ませていないといけなかった。

・ただ、この状況下での準備は資金だけに留まらなかったのではないででしょうか。

屋内、屋外で相談をする際の感染症対策については医師の指導を仰ぎました。ブース設置の方法、相談前後の行動、マスクや消毒液、手袋の準備ですね。それ以外にも仮に相談員に感染者が出た場合にどうするかも事前に決めました。

・相談員の体制づくりも苦労があったのでは。

もともとスタッフは10名ほどで、ボランティアをいれて約90名で活動しています。そのなかには高齢社や基礎疾患のあるひともいる。家族にお年寄りや病気のひとがいるひともいます。それらのリスクを持っていない職員に絞って体制を組みました。総勢20名くらいですが、全員が毎回来られるわけではないので、シフト作成も結構大変です。

リーマンショックのときは、広く相談員を募集しました。しかし、今回はできません。実は電話の相談も多くて昨日は50件以上で、鳴りっぱなしです。また、内容も次々と出てきては変更もある各種制度を理解していないと回答できない専門的なものがたくさんあります。パンク気味です。これからどんどん増えるのではないかと思っています。

・そのなかでも一番の課題はどこになりますか。

資金に関しては応援してくださるひとがいれば、支えていただけます。しかし、増え続ける相談者に対して、相談の担い手をどう確保するのか、正直打ち手がないです。先ほどの、現状では相談員も制約条件が多くあるということ。

高齢でない、病気を患っていない、家族にリスクがない。その上、相談対応も専門性が高度に求められます。普段は、医療ソーシャルワーカーやケアマネ、保健師、社会福祉協議会や自治体の職員がボランティアで来てくれますが、彼ら彼女らも自分の職務で目いっぱいです。

そのため、呼びかけもできなくて悩ましい。ヘルプを出しようにも他の現場もひっ迫しているので助けを求められません。これまでであれば仮に経験が浅くても研修と相談補助などで学びながらというのができましたが、相談空間にいられるひとの数は限られており、それすらもできない状況です。

居所を失い、不安が高まったひとに資金を出して、安全な場所で一時的にせよ生活をしてもらうことで相談者数を押さえることも考えられますが、当事者にお金を払うにも媒介するひとが必要で、ばらまけるわけではない。当事者と宿泊場所をつなぐにも、間にひとが入ってコミュニケーションを取る必要があり、一定の技術が必要です。マンパワーが超足りないんです。

今後、住まいを失ったひとが路上に出たとき、十分なサポートができるかはわからない(写真提供:もやい)
今後、住まいを失ったひとが路上に出たとき、十分なサポートができるかはわからない(写真提供:もやい)

手が足りない、お金も足りない。どちらも集めるのが大変で、集合研修もできなければ、相談空間を広げることも難しい。また、感染症対策にも人手がかかります。ルールがたくさん存在し、手洗い、消毒のタイミング、備品の拭き掃除など、専門家に入ってもらい、かなり細かく作っています。仕事・作業の工数が非常にかかるなかで、動けるひとの数にも制約がある。とても苦しいです。

・役所や社会福祉協議会も窓口を開いていますが、もやいに来る相談者はまた違うのですか。

困っているひとのなかにはいろいろなひとがいて、すでにご自身で窓口にいっている人も多いです。政府がリリースする情報以上のものは僕らも知りません。また、制度の要件などは読み解くのも難解ですが、それらを理解して申請できるひとは自分でやれる。ただ、資金を給付します、という情報だけだとみんな「もらえる」と考える。そういう期待を持って窓口に行っても、じっさいにはもらえず、イライラしてしまうんです。

行政の窓口はパンク、社会福祉協議会の貸付窓口もパンクしている。申請にいったひとも、並んでいる場所にひとが密集していたり、その日のうちに相談できず、回答ももらえず、不安が高まって精神的にも不安定になってウチに来ています。

それまでもやいで支援したひとも、仮に生活が安定していても精神的に不安になって電話をかけてきます。もともと頼る人が少なく、不安定な状況が重なってしまっています。安定しているひとたちも心配だけれど、本当に悩ましいです。

厚生労働省や自治体もがんばっていると思います。要件の緩和なども出てきています。ただ、制度運用の変更や要件の緩和があっても、窓口で理解運用されるためにはどうしてもタイムラグが発生します。そこでうまくいかないケースが多く、混乱が起きています。

僕らが最新の条件を伝えても、窓口での対応がタイムラグで遅れてしまう。だから窓口で相談者が追い返されてしまうようなこともあります。追い返された三日後に制度が緩和され受付可能になったとしても、本人にはわからない。本人には窓口に行ったけれどダメだったという記憶だけ残ります。

そのため、いまはこうだけれど、変わるかもしれないから連絡してもいいですか、ということをやれるだけで違うと思います。いまはごめん、でもまた来てくださいと。誰もが不安定でイライラしてしまうような状況で、ただ窓口で排除されてしまうのは、どうしても弱い人になります。

それは僕らにも当てはまる自覚はあります。相談をある程度時間で区切らざるを得ないなかで判断をするので、複雑な状況、困難な環境のひとほど時間がかかるため、こぼれてしまうかもしれない。そういう葛藤の中で活動しています。うまく、ゆるく連携していかないといけない。ひとりで、一団体で支えていくとこぼれるひとが出ます。

そういうゆるい連携をいままでのようにしたいんですが、地元に民間団体がなかったり、あっても資金の面で閉じてしまっているところもあります。そういうエリアや領域もかなり状況がきついです。

・そんなひっ迫した状況のなかで、大西さんが「これはやりたい」というものはありますか。

いざとなったらホテルの借り上げをしたいです。さまざまな住宅施策が出てくるでしょうが、やはりこぼれる人が出てきます。ビジネスホテルを借り上げるのは無理でも、行政に求めるだけでなく、自分たちで小さな案件を作って、みんなで支えることでよい事例を作り出す。それを行政に広げてもらうようなことをしたいです。

緊急支援から、心身の安全を確保して、就労支援をじっくりやって、生活を安定させていく。そのような連携と支え合いが機能することを示していきたいです。

ただ、いまその余裕を作り出せる状況ではありません。

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このインタビューの前に、インターネット上で大西さんらがクラウドファンディングを立ち上げた情報が入ってきたので、少額ですが寄付をしました。

また、私は代表を務める認定NPO法人育て上げネットの活動を通じて、若者や子どもたち、およびその家族を支援しています。もともと経済的に苦しい状況にあるひとが多いため、ここで支え切ることで、大西さんらの活動はもちろん、行政などの窓口の負担軽減に貢献できる、ゆるやかな連携につながるとインタビューを通じて思いました。

社会のいたるところに最前線が生まれるなかで、このようなNPO活動もまた最前線の一端を担っていることを知っていただけましたら幸いです。