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終わらせるぞ、夏休みの宿題。お盆休みだからこそ、子どもたちが来られる「場」を創って。

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
解けない問題を前に諦めないため、みんなで勉強する機会を欲する子どもたちもいる(ペイレスイメージズ/アフロ)

挨拶をすると、小さな声で「おはようございます」と返してくれた子どもたち。お盆休みの三日間、夏休みの宿題を終わらせることを目標に学習スペースを開放している。それぞれのスケジュールに応じて午前中から来てもいいし、午後からでも構わない。勉強したいことがあれば宿題でなくてもいい。

夏休みは親にとって難しい時期でもある。普段は月曜日から金曜日まで、朝自宅を出て夕方頃に帰宅するまで学校におり、昼食は給食などで賄われる。我が子が誰とどこに出かけているかを心配することもない。しかし、その学校がなくなる夏休みは、親にとって心配事が増えるが、だからといって一か月近く仕事を休むことも現実的ではない。

お盆の時期を中心に仕事を休み、子どもたちと夏休みを過ごす家庭が少なくないのではないかと感じる。いつもなら渋滞する道路も、潰されそうなほど圧迫される満員電車も、この時期は別世界だからだ。

その一方で、お盆だからこそ仕事が休めない職場がある。また、仕事を休むことで収入が減ってしまうため、経済的に休むという選択をすることが難しい家庭もある。そんなお盆の時期だからこそ、学校ではない「場」を開放することで、子どもたちにとっての居場所となり、親の安心につながるのではないか。そう考え、今夏も学習スペースを開放した。

今年は特に来所する子どもたちが多い。一日だけ来所する子もいれば、三日間の来所を希望している子もいる。その理由は三つあると考える。ひとつは、子どもたちが通所する理由(目標)を、”夏休みの宿題を終わらせる”としたこと。子どもはもちろんのこと、宿題は終わらせて提出すべきもので、子どもたちにとっても、親にとっても利用理由が明確になる。

ふたつ目は、昼食が出ること。育て上げネットでは、自分たちで食事を作ることができないため、「地域給食」をコンセプトに商店街の個店やお弁当屋さんで食事をする。食材を仕入れて加工するわけではないため、どうしても割高になってしまうが、店主や店員と子どもたちが顔見知りになりやすく、子どもたちは一定の範囲内ではあるがメニューから好きなものを選択することができる。毎回似たようなものばかり注文する子どもには、やんわり栄養バランスについて食べながら伝えることもできる。

当初は想定していなかったが、ある個店主からは「どんな形であれお客さまとして来てくれて、一方で地域の子どもたちがお腹いっぱいになってくれるのはとても嬉しい」との言葉をいただいた。

最後、三つ目は交通費が出ることだ。近隣に居住していれば徒歩や自転車で通ってくるが、少し離れた地域から利用する場合には電車代やバス代がネックになる。家庭はそこまで拠出する余力がない。その部分をカバーすることで子どもたちが、家計のことを気にすることなく通うことを親に伝えやすくなった。それ以外にも、一部ではあるが、地元で”このような場所”に通う自分を友人に知られたくない子どもにとっては、学区も市区町村も越えた場所に行くことは、ある種の安心につながるようだ。

ある中学生は、受験を視野に入れながらも中学一年から英語に苦手意識を持ち、教室の前でいま何をやっているのかわからなくなった。当然、宿題として課されたワークブックも意味がわからない。しかし、宿題は終わらせなければならないということで、ワークブックの問題は空欄で、回答を見て赤字で解を埋める。そのためワークブックは真っ赤となる。

当初、支援員が設問ごとに説明を行い、彼女が解答する形式をとったが、”宿題を終わらせる”目標を達成するためには圧倒的に時間が不足している。中学一年生で止まった時間までさかのぼり、受験を控えた現在に戻ってくることを繰り返す余裕はない。本人も、設問が進むごとに理解ができていない自分を突き付けられ、苦しそうだということで、支援員はとにかく宿題を終わらせることに切り替え、赤字が多くなっても最後まで終わらせる。そのうえで、一つずつ学び直していくことにした。すると、理解・不理解は別にして、課された宿題が終わっていく。

初日はずっと硬い表情であったが、二日目の本日はまったく異なる表情を見せた。英語が苦手であることは隠さないが、そもそも宿題を終わらせられないかもしれないという本人の不安が、間違いが多くあったとしても、提出に資する宿題の終わり方ができるのだという安堵に変わっている。これまでは途中で躓き、提出すらあきらめ、自分はできない人間であると思っていた子どもが、今夏は未提出にならないだろいうという小さな希望を胸に一生懸命になっていく。学習支援員とのコミュニケーションも積極的になっていく。

「レポートを出さないと卒業できないから頑張らないと」と笑顔で言うのは通信制高校に通う男性は、スクーリングはクリアしているものの、各種レポートの提出を前に立ち止まっていた。この夏休みを使って再提出期限までにレポートを仕上げれば単位を取得し、また一歩卒業に近づくことができる。

通信制高校は、地力が試される場でもある。自らスケジュールを組み立て、出席をする。声をかけ、親身に相談に乗ってくれる先生はいるが、最終的には生徒本人の決定が尊重される。また、学校やクラスにおいて生徒間の交流は少なく、日常的な学校生活のなかで仲良くなる機会がたくさんあるわけではないため、積極的にコミュニケーションを取らなければ友人もできにくい。そのため、結果として「ひとりで頑張る」ことになる子どももいる。

レポート提出も、自分で計画を立てて実行するもので、特に数学や英語などでわからないところにぶつかると、その先に進めなくなる子どもが目立つ。それでも親身になってくれる学校の先生や友人に聞けるのであればいいが、夏休みは一層難しくなる。学習スペースに来る高校生は「なんとかしたい」気持ちがありながらも、独力で前に進んでいくことに行き詰っているようにも見える。

ある高校生は、「レポートに取り組もうと机に向かっても、わからない問題を眺めながら時間だけが過ぎていってしまう」と話す。その結果、スクーリングやレポート提出の機会を逃し、リカバリーのきっかけがないままに学校を離れてしまう生徒もいる。休憩中、学習支援員が彼に話しかけたところ、

「多分、この場がなければ夏休みに入った時点でレポートをあきらめていたと思います」と語った。たった三日間、お盆休みに開放した学習スペースでも、この場があることで”あきらめないことを選択できる”ことが、卒業とその後につながるきっかけとなったと彼は笑顔で話していた。

夏休みは、子どもたちが抱える課題が顕在化しやすい時期である。それがわかっているからこそ、社会のここかしこで子どもたちのために尽力するひとたちがいる。お盆の時期は予定が入りやすく、また、実家や田舎に帰省するタイミングでもある。そんななか、全国のいたるところで若者や子どもたちのため、大切な時期の大切な時間を提供してくださるボランティアの方々、インターンシップの学生に心から感謝したい。

昼食時、参加した小学生が「何を食べてもいいの?」と目を輝かせて聞いてきたそうだ。ランチメニューが豊富にある地域の中華料理屋さんだが、その子の目線は北京ダックに向いており、焦った職員の対応に笑っていたという。みんなで取る食事、選択できるメニュー、そして冗談を言える環境。勉強の間の一コマではあるが、そういう他愛のないことも「場」は提供することができる。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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