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高齢者のための子育て相談支援は誰がやるの?

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

わが子が何歳であっても、親にとって子どものことは何とかしてやりたいというのが親心であり、それは「子育て」であり続けるようです。もう何年も前から高齢化するひきこもりの問題は一部で指摘されています。ひきこもり問題にかかわるひとたちにとっては「常識」かもしれませんが、問題そのものが社会化されているとは言いがたいのではないでしょうか。

DIAMOND ONLINEでも「高齢化する引きこもり親子の行く末か 45歳息子が80歳母親と無理心中の背景」といった記事が出されており、大変痛ましいものではあるが、特別な家族の話として終らせていいものなのでしょうか。

厚生労働省のウェブサイトには政策レポートから引用したひきこもりの定義が掲載されています。

「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。

出典:厚生労働省

この定義を前提と考えると、窓口に直接当事者がひとりで相談に来ることは難しいと推察されます。もちろん、6ヶ月以上、家族以外のひととかかわらずに自宅にいたひとのなかには相談窓口に行くことができるひともいるかもしれませんが、公的機関とはいえ、さまざまな事情が複雑に絡み合っている自身の現状を、相手を信頼して開示できるひとは稀だと思います。

だからこそ、公民に限らず、相談窓口はご家族の方や関係者などにも開かれており、ご家族向けのグループワークや家族会のようなものを開催されているところもあります。

そして話を高齢化に戻すと、やはり、さまざまな調査では、ひきこもり問題の高齢化は顕著に出てきているようです。

ひきこもり等に関する実態調査報告書
ひきこもり等に関する実態調査報告書

島根県健康福祉部の調査では、県内の担当地区を持つ民生委員・児童委員からのアンケートで、県内に1040名の該当者がおり、40代が最も多く、50代、60代もかなりいます。

山形県子育て推進部が行った「困難を有する若者に関するアンケート調査報告書」では、若者の状況を調査してみたところ中高年層にかなりひきこもり状態またはそれに近い状態の方がいるとと示唆される結果が出て話題となりました。

該当者の年代
該当者の年代

なぜかひきこもりの問題は思春期や若い世代のものと考えられてきたこともあり、中高年層の状態についてはよくわかっていません。山形県の調査も困難を有する若者について調べていたら、中高年層の話が出てきたということですから。その意味で、東京大学の玄田有史教授によるSNEP(Solitary Non-Employed Persons)という「孤立無業者」を示す言葉は、世代を超えて孤立する無業の存在を世に顕在化させました。

海外にはまだなじみのないSNEPとは、どんな人々だろうか。SNEPとは20歳以上59歳以下のうち、「仕事をしていない」「結婚したことがない」「普段ずっと一人でいるか、一緒にいる人が家族以外いない」のすべてを満たす人々である。

出典:nippon.com

そのSNEPの規模も提示されています。

2001年にSNEPは85万人だった。それが10年後の2011年には162万人へと2倍近くに増えている。日本には学校を卒業してからずっとアルバイトなどの非正社員で働き続けている「フリーター」と呼ばれる若者たちがいる。政府によるとフリーター数は176万人にのぼるとされる。日本ではフリーターなどの非正社員の雇用者に占める割合が増え続けているが、同時に非正社員にすらなれないSNEPがフリーターと同じくらいの規模で存在しているのである。

出典:nippon.com

40代~60代のひきこもり問題についての課題は、住宅や仕事、生活や自立などいろいろ取り沙汰されますが、現場主観として「実際に出会う」ことが大変難しいように思います。もちろん、クローズアップ現代などでも取り上げられた、全国的に有名なな秋田県藤里町社会福祉協議会の例はありますが、制度や仕組みとして広げるのは簡単ではないように思います。

育て上げネットでも、母親のための相談事業「結(ゆい)」などを通じて保護者の方々から一次相談をいただきます。電話やメールなどでも、たくさんの保護者がどうしたらよいのか悩まれています。昔から散見された例ではありますが、70代や80代の方から40代~60代の子どもについてどうしたらいいのかという相談があります。僕自身が相談を受けたなかでは80代後半の母親から60代半ばのお子さんのご相談でした。

子どもの年齢が40歳でも、60歳でも、親にとっては「子育て」の範囲です。そして高齢化してひきこもり状態になると出会うことが大変難しく、自力で声をあげられるひとは別ですが、そうではない当事者の存在を誰かが知らせなければなず、それは親または家族の行動にかかっています(家族の状況や行動に拠らずに出会える仕組みが必要なのはいうまでもありません)。

これらを地域社会という漠然としたものではなく、また、育成し得ない人材の登場を待つのではなく、せめてどこでも運用可能な仕組みにするとすれば、高齢者福祉全般にかかる施策などを担当する基礎自治体の高齢福祉課(名称はこれに限りません)に「子育て相談支援」の枠組みを作るしかないと考えます。

子どもがいくつであろうと、親にとって子どものことは「子育て」であり、70代でも、80代でも少しでも何とかしたいという気持ちは、その他の年代と変わりません。だからまずは親や家族で何とかしようとするし、できる限り第三者に知られたくありません。本当に限界まで来ると第三者への相談を選択される方も、若者支援のなかでは少なくないのですが、予防的早期対応を含めて、気軽に相談をするとなると、日常生活で比較的接点を持ちやすい高齢福祉課の枠内で子育て支援がなされるのがもっとも話がしやすいのではないかと思います。

70代や80代にとっては、子どもの状態を把握して相談窓口を探すというのは難しいのではないでしょうか。周囲には話すことができず、ネットで調べられる方も多くないように思います。その意味で、子どもはいつでも子どもであり、子育てというキーワードをうまく活用していくことが直接的に情報が来るのではないでしょうか。

私が心配しているのは、子どものことについて悩んでおられる70代や80代の保護者世代には、周囲からの孤立や、身体の具合、認知の問題など、トラブルに巻き込まれやすいリスクがかなりあるのではないかということです。子どもを想う気持ちを利用されるようなリスクを負わせないためにも、行政の仕組みのなかで対応できる部分は早い段階でやっていくべきだと思います。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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