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「円高の夏」から「超円高の秋」へ?=すべてはトランプ大統領の呟き次第

窪園博俊時事通信社 解説委員
円高が終えん、あるいは再燃するかはトランプ大統領次第。(写真:ロイター/アフロ)

 為替市場の経験則として、日本の夏は円高になりやすい、とされる。円高はデフレ圧力を強めるため、日銀の緊張感も高まり、蚊取り線香のCMではないが、「日本の夏、円高の夏、キンチョー(緊張)の夏」となる。そして今年は、典型的な「円高の夏」となった。円高が終息するかどうかだが、「すべてはトランプ米大統領の呟き次第で、『超円高の秋』になる可能性も捨てきれない」(大手邦銀)という。

トランプ大統領が対中貿易政策で強硬姿勢を強めてリスクオフに

 8月に円高が進行しやすい要因の一つは、市場参加者が夏季休暇に入り、取引が薄くなるため。特にドル買い・円売りの主体である日本の輸出企業などが不在となるお盆休みは、需給要因としてドル安・円高に傾きやすい。そうした中、今年はトランプ大統領が対中貿易政策で強硬姿勢を強めたことがリスクオフの円買いを強め、円高を加速させた。まずは簡単に8月の為替動向を振り返ってみたい。

 8月初めは、1ドル=109円台前半の円安水準だった(下図参照、筆者作成)。米連邦準制度理事会(FRB)のパウエル議長が7月末の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、追加利下げに慎重姿勢を示し、「積極的な利下げ姿勢を期待してドルを売っていた向きの買い戻しが誘われた」(FX業者)ことが円安につながった。胸をなでおろしたのは日銀で、「今年の夏はさほど円高にならないだろう」(幹部)との期待感が広がった。

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 残念ながら日銀の期待感は、トランプ大統領の中国への強硬姿勢で吹き飛んだ。とりわけ同大統領のツイッターでの呟きは為替市場を翻弄した。8月23日には中国の報復措置に対抗する考えを表明し、「米中貿易摩擦は激化の一途をたどる」との懸念から円相場は26日早朝に104円台前半に急伸した。月初の水準から5円前後もの円急騰で、「今年は相当な円高の夏になった」(先の大手邦銀)のは間違いない。

8月下旬は貿易交渉の進展期待から円売り戻しも。円高ピークアウト論もくすぶるが…

 8月31日のドル円は106円台前半となった。対立を深めた米中両国だが、9月上旬に閣僚級会議が開かれる見通しになり、貿易交渉の進展期待から円の売り戻しも誘った。市場では「米中関係はこれ以上悪化せず、円高はピークを過ぎた」(別のFX業者)との観測も浮上する。FRBは利下げ局面だが、なお開いている日米金利差に着目したドル買いが根強いことも円高終息論を補強する。

 トランプ大統領が口をつぐめばそうなる可能性は高い。対中姿勢を和らげれば、世界経済の見通しは好転し、米株高・債券安(金利上昇)を背景にリスクオンの円安が進むだろう。一方、中国を屈服させる姿勢を強めれば、円高再燃は必至だ。大手金融機関のアナリストは「米中とも覇権を賭けて引くに引けず、ノーガードで打ち合う」と懸念する。この場合、「100円突破は時間の問題」(先の大手邦銀)となる。

100円突破の場合は追加緩和が必要にも。日銀のキンチョー(緊張)は続く

 この数か月、国際金融市場は「トランプ大統領の言動を中心に展開してきた」(日銀OB)。貿易政策で強硬姿勢を示せばリスクオフに、緩和姿勢ならリスクオン。円高も円安もトランプ大統領の一存であり、影響が大きいことから日銀も「大統領のツイートは常時ウォッチせざるを得ない」(ある高官)という状況だ。100円突破の場合は追加緩和が必要になる可能性もあり、日銀のキンチョー(緊張)は秋も続くことになる。

 

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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日銀取材の備忘録として、金融調節や金融政策、為替や債券など金融市場の動向、経済情勢について、やや専門的に解説していきます。また、財政政策も含めたマクロ経済政策、金融市場で注目されるイベントやトピックスも取り上げていきます。基本的にはマーケット関係者向けですが、なるべく分かりやすく説明します。

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