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金利上昇の経験のない金融関係者

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 銀行が預金獲得に向けて定期預金の金利を上げている。日本経済新聞社の集計で、少なくとも全国の地方銀行の4割を超える43行が引き上げたことが分かったと21日付日本経済新聞が伝えた。

 この記事のなかに興味深い指摘があった。2023年4~9月期に地銀(グループ連結ベース)が支払った預金利息は前年同期に比べて2.5倍に増えている一方、銀行の収入となる貸出金利息は14%増にとどまったとあったのである。

 地銀では預金金利の引き上げがむしろ収益の圧迫となっているようである。貸出金利の引き上げ交渉があまり進まず、その一因に低金利環境が続き、営業現場では金利上昇を経験していない行員が多いとの指摘があったのである。

 今回の金利については短期金利ではなく長期金利を示している。日銀が長期金利コントロールの上限について1%という目途としたことで、長期金利が一時0.970%まで上昇し、これを受けて国債利回り全体が上昇してきた。

 短期金利については、いまだ日銀はマイナス金利政策を解除しておらず、マイナスのままであるが、国債の利回りについては全期間で利回りはプラスに転じている。

 さらに長期金利の推移をみると、1990年台に8%台をつけるなどしていたが、その後は低下基調が続くことになる。1998年末の運用部ショックなど一時的な国債利回りの上昇はあったが、トレンドが変化するほどてはなく、その運用部ショック後の長期金利は2%以内で推移することとなる。

 2010年あたりからは長期金利は1%割れとなり、2016年以降はマイナスに転じていた。それが2020年あたりから上昇基調に転じてきており、これは1985年に債券市場が国債売買を主体として機能しはじめて、はじめての金利上昇ともいえるg)h/y かもしれない。

 つまり日本の債券市場では。3年に及ぶような金利上昇は誰も経験していないともいえるのである。

 さらに1990年台の8%とかの高金利を経験した世代は、すでに現役を引退しているか、現場からは離れている人も多くなっている。高い利回りの経験もなく、ましてや金利が上昇してくる場面もはじめて経験する世代がほとんどということになり、現在の金利上昇局面においても対応が遅れがちとなっている。その典型がもしかすると銀行の銀行でもある日本銀行なのかもしれない。

 メガバンクの貸出金利息は大きく増加していたようだが、これは米国などの海外部門の貸出金利利息の増加が寄与していた。欧米ではある程度の金利は付いていたこともあり、今回の金利上昇局面は大きな収益チャンスと捉えていたとみられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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