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日銀は物価見通しを読み間違えていたにもかかわらず、自らの物価見通しを基に政策を進めているリスク

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 ブルームバーグは21日の16時半ごろ、「日銀は現時点でYCC副作用に対応の緊急性乏しいと認識-関係者」というタイトルの記事を発信し、ほぼ同時刻にロイターが「日銀、金融政策維持の公算 YCC変動幅据え置きの可能性=関係筋」というタイトルの記事を配信した。

 ブルームバーグの記事内では、「日銀の2023年度コアCPI見通しは現在1.8%となっており、7月会合後に公表する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)で上方修正される公算が大きい。」としていた。

 ロイターの記事では、「23年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の見通しを前年度比プラス2%台に引き上げる一方、2024年度や2025年度は前回4月の見通しとほぼ変わらない数値となる可能性が高い。」としていた。

 そして25日にブルームバーグはあらためて、「日銀、23年度物価見通しを2.5%程度に大幅上方修正の公算大-関係者」という記事を掲載していた。

 21日に発表された6月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3.3%の上昇となっており、これを踏まえた2023年度の予想が出そろったとみられ、具体的な数値が出てきたということなのであろうか。

 これまで記事のタイトルにあった「関係者」は、日銀の中枢にいる同一人物たちであると考えられる。

 ちなみに昨年7月の展望レポートでは、2023年度の消費者物価指数(除く生鮮)の見通しは、前年度比プラス1.4%となっていた。

 25日のブルームバーグの記事では「もっとも、海外経済や来年の賃上げの動向など先行き不確実性が大きい状況に変化はなく、24、25年度については現在の2.0%、1.6%から小幅の修正にとどまる見通しだ。」とある。

 不確実性が大きい状況に変化はないことはたしかだが、その不確実性が日銀の意向に沿ったものとなる確率は、前年度予想からみるとむしろ低いように思われるのだが。つまり、物価はいずれ2%を割り込むと予想する日銀のほうに無理があるのではないかということになる。

 「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり」という孫子の言葉があるが、今の日銀はまさに孫子が指摘したようなミスをしている。長期戦どころかすでに異次元緩和をはじめて10年以上も経過し、さらにファンダメンタルズの状況は様変わりしているにもかかわらず、日銀は「拙速」となるとして方向転換すら行えない。「多くの目的を達成しようと長期戦が有効であったためしはない」は孫子の時代だけの話ではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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