YCCの見直しの是非が議論の対象に
21日の16時半頃、ブルームバーグが「日銀は現時点でYCC副作用に対応の緊急性乏しいと認識」と報じ、ロイターが「日銀、金融政策維持の公算 YCC変動幅据え置きの可能性=関係筋」と報じた。
いずれの記事のタイトルからも今回はYCC修正は見送るであろうと読めるものであった。いずれもいわゆる記者レクによるもので、憶測や観測記事ではない。執行部もしくは執行部に近い日銀関係者によるものではないかと推測される。
「日本銀行は現時点でイールドカーブ・コントロール政策の副作用に緊急に対応する必要性は乏しいとみている。今月に開く金融政決定会合では見直しの是非が議論の対象になるとみられるという」(ブルームバーグ)。
イールドカーブの形状に目立ったゆがみは見られず、債券市場の機能に大きな問題は生じていないとの見方は変わっていないそうだが、債券市場はすでに機能不全に陥っており、恒常的な問題となっているが、それはさておき、債券市場からみると急を要するものではないことは今の日銀からみてそう考えているのであろう。
ただし、今月に開く金融政決定会合では、見直しの是非が議論の対象になるとみられるとしている点に注意したい。
6月の決定会合の主な意見では下記のような意見があった。
「足もとの物価の強さによって中長期のインフレ予想に大きな変化が生じている証拠はないが、イールドカーブ・コントロールの運営との関係でも重要な要素であり、今後の展開に注目している。」
「ただし、そのツールであるイールドカーブ・コントロールについては、将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きい。早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきである。」
後者の意見は田村審議委員の意見かと推測されるが、前者の意見も田村委員でなければ、YCC見直しの意見が複数出される可能性はある。
「高水準の賃上げ実現など日本経済に前向きな動きが見られる中、YCC修正で金融緩和の持続性を一段と高める必要性も薄く、政策正常化の第一歩と誤解されるリスクを懸念する声もある。」(ブルームバーグ)
あとからみると正常化の第二歩目とみられるかもしれないが、ここまで否定する意味がわからない。政策正常化の何が悪いのか。
「市場の歪みなど新たな問題が生じた場合などは、効果と副作用を比較し、YCC修正の是非を最終判断する。2024年度、2025年度の消費者物価上昇率の見通しは前回4月と大きく変わらない可能性が高い。」(ロイター)
この場合の市場は債券市場のことを指していようが、国債利回りが急速に上昇することは現時点では考えづらい。物価の見通しについては、現在の金融緩和ありきの数字を出してくることが予想される。
21日の夕刻、ロイターとブルームバーグの記事を受けて、急速な円安が進みドル円は142円に接近し、債券先物はナイトセッションで1円近い急激な上昇をみせ、同じくナイトセッションの日経平均先物も300円程度上昇していた。YCC修正観測によるポジションの巻き返しといった動きとなった。
ところが今度は22日に、読売新聞が「長期金利上限 議論へ…日銀決定会合 大規模緩和は継続」とのタイトルの記事を掲載していた。少なくともこのタイトルを見る限り、緩和政策は維持するが、長期金利上限は議論し、修正の可能性を残すようにも読み取れる。
読売新聞は見直しを議論することがわかったとしているだけで、ロイター、ブルームバーグにあったような、事情に詳しい複数の関係者(5人?)、との表現はなかった。こちらは記者レクではないが執行部もしくは執行部に近いところからの意見をくみ入れた可能性がある。
いずれも観測記事などではないと思われるものの、それでいったいどうするのか。議論はするが結論はどうなるのか。
むろん決めるのは9名の政策委員なのであるが。今回は少なくとも全員一致とはならないかもしれない。
日銀はよく「拙速」という言葉を使う。これは早かろうまずかろうとの意味かと思うが、「拙速」と言う言葉を有名にしたのは孫子であり、「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり」という表現から来ている。
これは「戦には最低限の目的を遂行する短期決戦が有効であって、多くの目的を達成しようと長期戦が有効であったためしはない」という意味だそうだが、たしかにいまの日銀には「拙速」という表現を使った孫子の言葉が、ある意味あてはまるのかもしれない。