日銀総裁・副総裁人事で思うこと
政府は14日、日銀の黒田東彦総裁の後任に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事案を国会に提示した。副総裁に氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を充てる案も示した。衆参両院の同意を経て内閣が任命する(14日付日本経済新聞電子版)。
日本経済新聞は5日に、政府が日銀の黒田総裁の後任人事について、雨宮副総裁に就任を打診したことがわかったと伝えていた。しかし、雨宮副総裁は固辞した模様。
「日銀総裁が学者から出るのは画期的なことだ。日銀と財務省とのたすき掛け人事はよくない」。雨宮氏は10日夕、植田氏の名が報道されると、吹っ切れた様子で周辺にこう漏らした(8日付産経新聞)。
戦後の歴代総裁の顔ぶれをみると日銀出身者は8人、財務省(旧大蔵省を含む)出身者は黒田氏を含め5人となっていた。おおむね両者で分け合う、たすき掛け人事が続いていた。
次は日銀プロパーの番だった。雨宮副総裁、中曽前副総裁、そして山口元副総裁らの名前は挙がっていたものの、日銀プロパーが総裁に指名されることはなかった。
これは何を意味するのであろうか。
表面的にみれば、日銀総裁が学者から出るのは画期的なこととなり、米国の中央銀行にあたるFRBのトップにバーナンキ氏やイエレン氏のような学者が就任しており、日銀も学者の総裁が生まれることになりそうだ。
しかし、これはあくまで結果論であろう。
日銀総裁は激務であろうが大きな名誉職でもある。それを雨宮副総裁は固辞したとされ、中曽前副総裁も同様であったとされる。本来であれば、日銀プロパーが目指すはずの総裁の椅子を拒否したことになる。これは日銀内に、よほどの事態が起きているようにも思われる。
結果論となってしまうが、黒田総裁は5年前に再任されるべきではなかったと思う。この時点で雨宮氏など日銀プロパーに交代していれば、これほどまで金融政策が雁字搦めとなってしまうことはなかったはずである。
さらに昨年の4~6月あたりも政策修正を行う好機となっていた。世界的な物価の上昇、欧米の中央銀行の利上げ、国内の物価上昇も相まって、ここで欧米と足並みを揃えるため、正常化に向かうチャンスであった。そうしていれば、日本の債券市場の機能低下も限定的であったはずである。
それができなかったことが、今回の日銀総裁人事サプライに繋がったと思われる。結果として選出された日本で初の学者の日銀総裁が、雁字搦めとなってしまった政策をどう解きほぐすのか。それが大きな課題となる。もし万が一、それを諦めるような事態となれば、今度こそ日銀や国債の信認を毀損させる事態になりかねない。